新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

目からうろこ:そもそも死因究明制度の議論自体がナンセンス

2008-05-23 21:04:14 | 医療

さて、連続投稿します

 

キャリアブレインから、海堂尊先生の話が出ておりました。

この話の中の「死亡時の医学情報がなければ調査など実施しようがなく、こうした議論は本来、ナンセンスではないかというのがわたしの考えです」という言葉に衝撃を受けたのは僕だけでしょうか?

実際のその通りなのですけど、だってそれにもかかわらず実施しようとしている国がいるんだもの。

 

ではCBからです。 http://www.cabrain.net/news/article/newsId/16198.html;jsessionid=48CA805C525E187327C4FCD7CBB7153F

 この国は「死因不明社会」

【特集・第12回】死因究明制度勤務医、作家・海堂 尊(かいどう・たける)さん  

厚生労働省が公表した医療関連死の死因究明制度に関する第三次試案をめぐり、学会など医療関係団体から賛否両論が出ている。死因の究明を担う「医療安全調査委員会」(医療安全調、仮称)の在り方や、その設置場所などが焦点だが、「チーム・バチスタの栄光」(宝島社刊)の著者で、勤務医でもある海堂尊さんは、「死亡時の状況を示す医学情報が担保できなければ、制度自体の意味はなくなる」と指摘する。海堂さんに、第三次試案に対する受け止め方を聞いた。(兼松昭夫)

 ■医学情報欠く死因究明はナンセンス

―厚労省の第三次試案をめぐって、学会などから賛否の声が上がっています。 

現在は、第三次試案に盛り込まれた医療安全調の設置場所や、医療安全調から捜査機関へ通知する仕組みの是非などが焦点になっていますが、わたしの視点はこれらとは異なります。医療安全調について第三次試案では、医療事故死の原因究明・再発防止を目指す国の組織とされていますが、死亡時の医学情報がなければ調査など実施しようがなく、こうした議論は本来、ナンセンスではないかというのがわたしの考えです。

 

―厚労省が設立を目指す医療安全調は、航空・鉄道事故の事故調査委員会をひな型にしているとも言われています。  

もしもそうであれば、明らかなモデルミスです。例えば鉄道事故では、誰の目にも分かる形で事故現場が保存されるので、事故の発生後にも調査が成立します。しかし、医療事故死では発生段階には事故という認識がなく、遺族が後になって訴えるケースが大半です。この時点で死亡時の医学情報が保存されていなければ、医療事故による死亡なのかどうかを客観情報なしに判断せざるを得なくなります。こうしたことを避けるには、医療安全調を設置する以前に、死亡時の医学情報を保存できるシステムを確立しなければ意味がないのです。わたし自身、医師法21条に基づく異状死の届け出に代わって、中立の組織が死因究明する制度の創設には賛成です。しかし現在の方向は、いわばボイスレコーダーなしに航空機の事故原因を調査するようなものです。

 

―医療安全調による調査対象を原則として解剖を実施したケースに限定する考えを示している点についてはいかがでしょうか。  

 

解剖を実施したケースに対象を限定すること自体は正しいと思います。ただ、現状では病死に対する病理解剖の実施率はわずか2%台にすぎません。国は、医療事故に関する解剖に対してのみ費用を負担する考えのようですが、こうしたスタンスには病理解剖を重視しない考えがにじみ出ています。この数字は、先進国の中でも最低レベルです。国の無策が日本を公衆衛生後進国にしてしまった。こうした状況を放置しながら、死因究明制度の創設を目指すのはいかがなものかと思います。

 

―おっしゃるように、遺族が後から医療事故ではないかと訴えたとしても、その時に火葬されていたら実態解明は難しくなります。  

 

そうです。ところが第三次試案では、「既に遺体のない事例等についても地方委員会が必要と認める場合には調査を行う」とあります。仮にこうなれば、証拠なしにいきなり調査を実施するわけで、冤罪(えんざい)の温床になりかねません。もしも解剖を主体にした制度づくりを目指すのであれば、少なくとも欧州諸国並みに国が費用を負担すべきでしょう。今のままでは、厚労省は小手先のごまかしと自ら白状するようなものです。

 

―根底には、病理解剖の実施率の低さがあるということですね。  

はい。医師が死亡診断書を書く際には、本来であれば死体を詳しく調べて診断を下すプロセスを踏むのが当然です。しかし、病理解剖の実施率が2%台にすぎないということは、残る大半のケースではうわべだけを見て診断を下し、死因を記載していることを意味します。本当は、表面からだけでは死因など分かるはずはないし、仮に裁判になれば「虚偽記載」とみなされかねません。だからわたしは、自分の身を守るためにも、死亡時の客観情報がない場合は死亡診断書に「死因不詳」と書くべきだと主張してきました。死亡診断書を取り巻く状況がこんなありさまでは、医療事故の死因などほとんど分からないでしょう。この国はまさに「死因不明社会」なのです。ここをしっかり整備しないと、医者はますます現場から逃げ出します。だからこそ厚労省には、全解剖の費用を負担し、本気で取り組む姿勢を見せることが求められているのです。

 ■厚労省はまず見本を示せ

―医療界には、医療事故についてすべて免責すべきという主張もあります。  

非常に難しい問題ですが、わたしの考えはこうした主張とは一線を画しているのではないかと思います。医療事故の中には、非常に悪質なケースが確かにあるからです。ただ、医療現場のモラルは、役所よりもはるかに高いと思っています。第三次試案で厚労省は、医療現場には「隠さない、逃げない、ごまかさない」ことが求められていると指摘していますが、そうであれば、まずは自分たちが不祥事を起こしたときに「隠さない、逃げない、ごまかさない」姿勢を見本として示していただきたい。自らを監視し懲罰する制度すらつくれない人たちが、先の見えない医療現場で悪戦苦闘する医療従事者を律しようとは笑止千万です。自分ができないことを他人にやらせるな、ということです。

 

―著書の中では、解剖以外の死亡時医学検索システムとして、死亡時画像病理診断(オートプシーイメージング:Ai)が出てきます。  

死亡時画像病理診断(オートプシーイメージング:Ai)は、死因を解明するため、遺体に対して画像診断を行う試みです。わたしはこれまでこれを導入するよう提案してきましたが、厚労省は耳を貸そうとはしませんでした。制度のひな型として実施しているモデル事業の中でも、Aiは補助的な位置付けにすぎません。その一方で、厚労省は厚生労働科学研究費の補助事業としてAiに関する研究に乗り出しています。医療機関に費用負担を押し付ける形での導入が、われわれの関知できないところで決まることを防ぐには、この辺りの透明性を確保することも課題だと思います。

 

―解剖の実施率が低い中、それに代わる医学情報検索の導入が必要になるわけですね。 

死因を究明したいのなら、Ai導入以外にも、東京23区や大阪市などに限定されている監察医制度の全国展開を目指す方向が考えられます。例えば、監察医の判断に基づいて医療安全調が判断を下す仕組みづくりもあり得るでしょう。さらに言えば、死因究明は、現在、医療現場からヒヤリ・ハット事例を収集している「日本医療機能評価機構」が担えばいい。「国の財政状況が厳しい」と言うなら、まずは既存の組織を活用すべきでしょう。わざわざ費用を掛けて医療安全調を新しくつくるのに、本当に必要な部分に費用を掛けないのでは、医療現場はさらに混乱します。それでもなお、第三次試案の形での制度創設を目指すのなら、責任者の名前を明示して、制度がうまく機能しなければ責任を取るべきです

更新:2008/05/23 16:53 キャリアブレイン

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本当に目からうろこでした。 ごもっともです。

 

確かに死因究明に、客観的情報がないまま挑む事自体がナンセンスだと思います。 証拠なしにいきなり捜査を実施・・・というのも、すごい話です。

 

確かに今まで、「死因究明制度のあり方」に議論を集中させていましたが、「実施可能なのか?」という事にはまったく議論がいっておらず、もしかしたら「絵に描いたもち」にひたすら議論していただけかもしれませんね

 

さて、この有名な作者の談話に対して、厚労省はどう出てくるのだろう? 海堂 尊・・・って引いたら、いろんなBlogがヒットしたりしてw

 

まとめます。

今まで、死因究明制度のあり方に関して議論が尽くされてきました。しかし、そもそも制度の根幹を成すはずの「死亡時の医学情報」の保存システムがないために、実施不可能であるということです。

そもそも議論しているが、実施不可能なものは実施できませんので・・・時間の無駄、予算の無駄なのかもしれません

 

死因究明制度の前に、死亡時医学情報収集・保存システムの確率、および日本の公衆衛生学の発展の必要性が在ると思われる方、応援をよろしくお願いいたします

http://blog.with2.net/link.php?602868

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なかのひと 

 さて、少しあとにもう一個記事を書くかもしれません。それでは、また。 明日は実験と英会話の予定です。

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4 コメント

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Unknown (ママサン)
2008-05-24 08:54:50
海堂先生のおしゃっることはその通り。
科学的に検証するための基本情報が足りない!
なら、病理学者の数が足りるまで、死因についての医学的な検証作業を広範に行うことができない、と言ってしまえば、それで終わりでしょ。

その状態でも科学的な検証作業を行うことは医学的に「限定的」ではあれ可能だと思います。
医療の安全を高める、という可能性を追求する制度なのだと規定するなら、現有戦力の中でも必要な作業でしょう。
つまり「可能性の追求」によって安全性を向上させる目的のみにある組織ができるなら、不十分であっても意味があると思います。

問題は、その不完全な情報が、あるいはその不完全な情報によって出された結論、総括が、民事、刑事の訴訟に結びついてしまうことだと思います。

返信する
私は現場の病理医ですが (NEXUS)
2008-05-24 11:13:04
私が勤める総合病院の剖検率も2%程度です。
大都市のより大きな病院には病理医が複数勤めているので少しなら剖検が増えてもこなせるでしょうけれど、地方病院には病理医が一人しかいない施設が多く、これが実施された際に費やされる時間、責任、訴訟への対応などの負担の増加は量り知れません。
こんな制度を作るより、監察医制度を全国できちんと実施できる体制を作ることの方が厚生労働省の急務です。
返信する
真相などどうでもいいのでしょう (うろうろドクター)
2008-05-24 13:59:07
厚労省の願いは真相究明ではなく
『医師に対する支配力強化』と『自らの権益の拡大』
ですから、
こんな誰の目にも不完全な組織を作ろうとしているのではないでしょうか。

私にはそれ以外の理由が思いつきません。


返信する
事故調の目的・・・ (アンフェタミン)
2008-05-25 19:32:13
>ママサンさん
こんばんは、コメントありがとうございます

おっしゃられているとおり、現時点で死因についての広範な検証作業は実施できませんが、医療の安全性を高めるため・・・であれば、いくらでもやりようはあります。

それこそ、事故がおきやすい状況というものがどういうものかを検証したり、そもそも人手不足であることは明白なので、そこから改善していくのが妥当だと思います

今の医療を改善させることのできる可能性を追求していく事は、非常に重要な事だと思います。

また、コメントいただければと存じます

>NEXUSさん
こんばんは、コメントありがとうございます。

先生がおっしゃるとおりで、病理医が一人(うちの病院も一人です)とかの病院・地域でこの制度が実施されたときに、日常診療にどのような影響が与えられるのか・・・・。

病理学的検索が、診断の要になるものは多いですし(実際、今診断をつけにいっているリンパ腫は病理の結果が全てですし)、生きている患者さんに対する不利益がやはり大きいと思います

監察医制度も含め、様々な制度の改革を行うべきだと思います

また、コメントいただければと存じます

>うろうろドクターさん
こんばんは、コメント・TBありがとうございます。

先生のおっしゃるとおりで、死因の究明に狙いがないのかもしれません。少なくとも、普通の考え方をしている方なら・・この制度は実施できません

このような誰の目にも不完全な組織を作って、どうするのだろうと・・・僕も若輩ながら思っております

また、いろいろ教えていただければと存じます


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