非ホジキンリンパ腫は日本では悪性リンパ腫の90%を占めるグループになります。以前、「悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方)」と書いて記事にしたものもびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を題材にしました。それはDLBCLが非ホジキンリンパ腫の40%を占めるメインの集団だからです。
ただ、このDLBCLには少し落とし穴があって、その他大勢・・・という位置付けのため、雑多な集団の集まりでしかありません。同じようで、かなり違う。そのため予後も他のリンパ腫以上に違いが大きいわけです。
以前書いた頃と大きく違うのは、ABCタイプとかGCBタイプというような考え方が出てきました。これは初期治療では影響はないと思いますが、再発時などの治療選択には影響するかもしれません。
まだ、使えませんがレナリドミドはABCタイプ(もしくはnon-GCBタイプ)に上乗せ効果がありますが、GCBタイプには認めません。イブルチニブ(慢性リンパ性白血病の治療薬、これまたDLBCLには使えません)もABCタイプには効く可能性がありますが、GCBタイプには効き目はないと言われています。まぁ、これから色々進んでくるのでしょう。
さて、それではDLBCLを題材に悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫から)の説明を書いていってみます。
Pさん(60代の男性)は今回、首のリンパ節が腫れたということで受診されました。診察では首以外に、鎖骨の上や腋の下などのリンパ節も腫れていました。しかし発熱や体重減少、ひどい寝汗(俗にいうB症状)など他の不具合はないということでよろしいでしょうか?
(鎖骨の上のリンパ節腫脹は細菌などの感染では腫れにくいので、悪性リンパ腫の可能性を疑う助けになります)
Pさん:はい。首などにぐりぐりがあるだけです。
それに対して原因究明のためにリンパ節生検を行ないました。その結果説明のために来ていただきましたが、この検査で悪性リンパ腫の1つであるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)と診断がつきました。
これは悪性リンパ腫の中でも中等度の悪性度と言われるリンパ腫になります。
悪性リンパ腫にはホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫があり、ホジキンリンパ腫ではABVD療法という治療を、非ホジキンリンパ腫というグループではCHOP療法という治療が標準治療とされていました。今でもABVD療法は標準治療のままですし、CHOP療法も抗がん剤を加えたりはしていますが、これをベースに治療を行います。この2つはそういう意味で大きく違います。
非ホジキンリンパ腫には低悪性度と言われる「年単位」でゆっくり進行するもの、「月単位」で進行する中等度、「週単位」で進行する高悪性度リンパ腫があります。これは先ほども申し上げましたが、月単位で進行する悪性リンパ腫になります。
DLBCLは非ホジキンリンパ腫の中では最も多いグループになります。これは大型のリンパ腫細胞が正常なリンパ節構造を破壊しながら、びまん性に増えてきます。
Pさん:私はどうしたら良いでしょうか。治りますか?
まず、病気の正体がわかりましたので、次に病気の評価を行いましょう。確かに月単位で進行するため、ゆっくり検査をするわけにはいきませんが、評価をしないで治療をすることはできません。まずはどこにリンパ腫がいるのか、それを評価するためにPET-CTと骨髄穿刺を行います。
PET-CTは糖分に目印をつけたようなもの(FDG-PET)を注射します。悪性リンパ腫のように増殖の早い細胞は糖分を欲しがりますので、それ(FDG-PET)がリンパ腫のいるところに集まります。普通の造影CTというものよりも「質的評価」をすることができ、より詳細にリンパ腫がいる場所を特定することができます。PET-CTはかたまっている(一定以上集まっている)悪性リンパ腫を評価するには最も良い検査です(ちなみに悪性度が低すぎるため、MALTリンパ腫は造影CTの方が良いとされています。濾胞性リンパ腫はPET-CTの方が良いことが示されていますので、MALTリンパ腫以外はPET-CTです)。
もう一つ骨髄の検査を行います。これは骨髄という「血液を作る大元」の組織に悪性リンパ腫がバラバラっと混じりこむことがあります。これはPET-CTではわからないことがありますので(わかる時もありますが、骨髄穿刺は実施します)、別に行います。これでリンパ腫がどこにいるかを把握します。
(精巣原発DLBCLや乳房原発DLBCL、副腎原発DLBCLなどは中枢神経浸潤:脳や脊髄に入りやすいので、これらは髄液の検査や髄注などを行います)
合わせて血液検査を行い、総合的な治療前の評価を行います。それから治療についても細かく説明いたします。
(数日後、全ての検査結果が出揃い説明をします)
Pさんはこの数日で骨髄の検査とPET-CTを受けていただきました。まず、PET-CTの結果ですが、首、鎖骨の上、腋の下には赤く集積を認めます。PET-CTは肝臓の取り込みを基準として評価をしますが、それより強いところは上記の部位です。お腹の中や足の付け根、脾臓や肝臓という臓器には明らかな集積は認めません。
骨髄の検査では肉眼的(病理学的検査)にも、特殊な検査(フローサイトメトリー)でも悪性リンパ腫の浸潤を疑う所見はありません。
現時点では広がり具合としてはStage IIです。悪性リンパ腫は仮にStage IV期であっても治りますので、治すつもりで治療を行います。II期ですのでしっかり治療を行いましょう。
(IIIs:脾臓に入っているというのもあります)
なお、血液検査に関しては肝臓や腎臓など、治療に悪影響を及ぼすような障害がないか確認しましたが、ありませんでした。B型肝炎にかかった既往があると、治療で悪影響が出ることがありますので、それも調べていますが、明らかな感染も感染の既往もなさそうです。
悪性リンパ腫の量を反映すると言われるLDHという数値も正常範囲内であり、IPI、年齢調整IPIではLow risk、R-IPIではGood riskになります。予後が良いグループという位置付けです。他にも予後が悪くなる因子というものもありますが、いずれもなさそうです(他にもNCCN-IPIなどもありますが・・・まぁ、IPIとR-IPIで良いかなと)。
(ここで気がつきましたが、aa-IPIは上から0点、1点、2点、3点です。出版社に連絡しないと・・・)
Pさん:では、治る可能性は十分にあるということでしょうか?
もともとStage IVでも治る可能性は十分にあります。統計学的な数値はお伝えすることもできますが、Pさんにとっては「治る」か「治らない」かという話でしかないので、「治る」つもりで一緒に治療にのぞんでいただけると嬉しいです。
Pさん:ありがとうございます。治すつもりで頑張ります。
宜しく御願い致します。
治療についてですが、R-CHOP療法という治療を行います。これは以前話をした、CHOP療法という治療法に抗体医薬と言われる「リツキシマブ」というお薬を加えたものです。
この薬はCD20というアンテナを持ったリンパ腫の細胞に結合して、抗リンパ腫効果を発揮する薬です。
(治療に関しては以前書いた「悪性リンパ腫の説明(僕の説明の仕方)」と同じなので、そちらを参照してください。
(中略)
(これが基本ですね。ちなみに以前も書きましたが、僕は6コースで良いと思っています。Interim PET-CTの結果を見たら6コースまでもつれ込んだDLBCLにR-CHOPを8コース継続するメリットをあまり感じないので。ただ、私見ですので・・・悪しからず)
治療終了後はPET-CTで再評価を行います。PET-CTで残存腫瘍があれば、残存腫瘍の範囲に応じて放射線治療を行います。PET-CTで腫瘍が消えていた場合は、治っている可能性が高い(論文にもよりますが、PET-CTで消えていた場合は再発率が20%くらいまでです)ので、慎重に様子を見ていきます。
こんな感じでしょうか。
地味に治療法が大きく変化していないのは、もともとそれなりの成績があったDLBCLやホジキンリンパ腫なんですよね。
マントル細胞リンパ腫やT細胞リンパ腫は色々と治療が進歩しました。これから現場に戻るためには覚え直さなくてはいけません(笑
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それでは、また。
血液内科 ただいま診断中!クリエーター情報なし中外医学社
今後、ペット、胃カメラ、骨髄検査を受けますが、今の段階で入院し、抗がん剤治療と言われています。
突然の悪性リンパ腫といきなり言われ、動揺して、質問もろくにできませんでした。
セカンド・オピニオンも考えています。
まだ3つの検査の前から入院、抗がん剤治療の話は少し疑問です。
どう思われますか⁉️
お返事いただければ幸いです。
おはようございます。コメントありがとうございます。
突然、悪性リンパ腫と告げられて動揺されるのは当たり前です。色々お考えになられるのも当たり前だと思います。
ただ、細かな状況はわかりませんが、StageIII以上で濾胞性リンパ腫の治療開始基準を満たしているのであれば、抗がん剤治療は原則行います。
PET-CTや内視鏡検査、骨髄検査は治療開始前に「どこに病変があるか」を確認しているだけで、治療開始の判断とは別ものです。
こちらにも少し書いておりますので、参考になさってください
「僕の濾胞性リンパ腫の説明(2017年度版)」
http://blog.goo.ne.jp/amphetamin/e/4a3ef23d7813c3786ea19bf7b45bcba9
もし、次に主治医の先生に会われる際に参考にしていただければと思います。濾胞性リンパ腫は一部を覗いて進行はゆっくりですので、セカンドオピニオンを求められるのは「自分の納得」を得て治療を行うためならば良いかと思います。
基準を満たしているのであれば、ほとんどの血液内科医は治療を薦めると思います(低腫瘍量のStageIIIならば様子見もありです)。ただ、2001年より前は悪化してくるまで様子を見ていたということもあり、悪化傾向になるまで待つ先生もいらっしゃるかもしれません(というか、たまにいます)。
僕は基準を満たすならば積極的に治療をするので、治療基準を満たさないStageIIIかどうかがpointになります。
これから10日ほど留守にするため、さらなるコメントはなかなかできないのですが、参考になれば幸いです。
また、コメントいただければと存じます
疑問と不信感ばかりになってきて、どうしたらよいのか、正直パニックになっていました。
教えていただいた事を踏まえ、前向きに考えていきたいと思います。
また、お世話になる事があると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
ありがとうございました。
こんばんは、コメントありがとうございます。
少しでもお役に立てたのであればよかったです。また何かあればいつでもいらっしゃってください。
治療がうまく行くことを祈念しております。
また、コメントいただければと存じます
実はDLBCLについていろいろ調べていますが
本を読んでもわからない部分がありコメントを書いています。
悪性リンパ腫の発生から発症するまで詳しく書かれた本がありません。
悪性リンパ腫は沢山の種類があって、進行は年単位、月単位、週単位だったりする。ここが意味するところは発症してから、それとも遺伝子が傷ついたごく小さなものからの発生段階をさしているのか。固形がんは発症するまで10年くらい?血液がんは月単位や週単位で突然発症するもの?
環境省のページに、被爆して白血病になるには2年とありましたし、福島の被爆でも悪性リンパ腫の発症まで最短5ヶ月弱とアメリカの疾病センターが報告している記事も見つけました。
福島ではありませんが、伯父も悪性リンパ腫、兄弟も悪性リンパ腫、もらい事故のように発症するものなのかと気になります。
患者さんから、原因は何ですか?そういえばこの数カ月忙しかったとか?聞かれることはありませんか?
機会がありましたら、ブログで紹介して頂けるとうれしいです。
DLBCLの家族より
こんばんは、コメントありがとうございます。
DLBCLの発生から発症まで。なかなか難しい質問です。そもそもDLBCLという疾患が「その他大勢」的なもののため、単純に表せないということもあります。
被曝後の白血病の多くは「慢性骨髄性白血病」が多いと思います。放射線治療後、抗がん剤の一部では数ヶ月から物によって3年くらいが治療関連(急性)白血病の発症タイミングといわれます。
DLBCLもABC型、GCB型など分かれており、それぞれ異常のある遺伝子が異なっております。
日本国内ではあまり家族性の患者はいないと思いますが、僕も数人家族内でリンパ腫を発症された方を知っております。
おそらくですが、ある種の遺伝子の異常が遺伝していて、他に異常が組み合わさると発症してくるのではないかと思っております。
機会を見つけて、この辺りのことは記事にさせていただきたいと思います。
また、コメントいただければと存じます
55才の主人が精巣原発のDLBCLと診断されました
PETの結果は明らかな集積はないものの節外にできたのでステージはⅣ
IPIは2
マルクの結果を待たず入院しR-CHOP1回目を開始しています
6回の化学療法中に3回の髄注、化学療法終了後残った睾丸に予防として放射線照射
その後1か月半入院で脳への転移予防のための抗がん剤投与との説明を受けました
質問させていただきたいのは、脳への転移予防の必要性についてです
主治医からは治療として確立しているとお聞きしていますが絶対に受けないといけないものなのでしょうか
R-CHOPと並行して行う3回では足りないのでしょうか
治療が始まったばかりでそんな先の事を心配するのはどうかとも思います
が、職場復帰を念頭に考えるとどうも気になります
ご教示いただけるとありがたいです
こんばんは、コメントありがとうございます。
記載の内容がわからないのですが、精巣原発DLBCLで精巣にしかないのであればStage Iになります。骨髄などに浸潤していたり、髄液中にあったりしていないでしょうか?
造血器腫瘍ガイドライン(http://www.jshem.or.jp/gui-hemali/2_5.html)にも記載されていますが、もし精巣にあっただけでStage IVになってしまうのであれば、ここに記載されているStage I-IIの精巣原発DLBCLは存在しなくなります。
また、ここに記載している通りですが、一般には6回のR-CHOPに4回以上の髄注と対側精巣への放射線照射が標準治療になります。聞き間違いかな・・・とも思うのですが、「ガイドラインにこう書いてありましたが・・・」と聞いて見てはいかがでしょうか?
波風を立てない方が良いと思いますので、うまく聞いていただければと存じます。
また、コメントいただければと存じます
先生がおっしゃる通りでそこがひっかかったんです
マルクの結果が出たタイミングで主治医に確認をしようと思います
ありがとうございました
カンファレンスの時にいただいた資料を確認してみました
病気の説明に用いられていたのは非ホジキンリンパ腫の病気概論
非ホジキンリンパ腫の病期となっていました
それによりリンパ節外にできたのでⅣ期
IPIの説明の際リンパ節外の病変はペットから精巣だけですと言われています
DLBCLのレジメを用いた説明は受けていません
マルクの結果が出ないとわからないのかもしれませんね
ちょっと先走りしすぎたようです
また、お聞きすることがあるかもしれません
その時はどうぞよろしくお願いします