「やはりプライス・コレクションは凄かった(その3)」のつづきです。
「若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」展を特集した先週のNHK日曜美術館「東北に届け 生命の美 ~アメリカ人コレクター 復興への願い~」で、キャスターの井浦新さんが、「イチオシの作品」として選んだのは、こちらの作品でした。
葛蛇玉(かつ じゃぎょく)の「雪中松に兎・梅に鴉図屏風(雪の夜の白いウサギと黒いカラス)」です。
私にとっても、この作品は衝撃的でした。
2011年9月に放送されたNHK「極上 美の饗宴」の「シリーズ アメリカ・秘蔵の江戸絵画」で、この作品も紹介されていたので、初めてその存在を知った作品ではありませんしたが(生で拝見するのはもちろん初めて)、TVやネットで観た印象とは桁違いの迫力と立体感に満ちた作品でした。闇に浮かぶ松と梅、雪にはしゃぐウサギとそれこそ闇夜のカラス(全然写実的でない)、そして、画面全面に吹き付けられ、垂らし落とされた胡粉の雪が圧倒的なダイナミズムで迫ってきます
この作品の凄みは、図録では伝えきれない気がします。仙台での展示は4月7日で終了してしまっているのが残念 盛岡や福島でも展示されると思いますので、出かける時にはご確認ください。
NHK「極上 美の饗宴」の「シリーズ アメリカ・秘蔵の江戸絵画」では、40年以上前、プライスさんが京都の古美術店からこの絵を購入した時のエピソードが紹介されていました。
店の主人から、「蛇玉という絵師はまったく聞いたことがない」と言われたにもかかわらず、プライスさんは、「いい絵だ」と言って買っていった由。
当代のご主人が登場して、こんなことを話されていました。
蛇玉なんて、まったく判っていませんから、あれは恐らく「蛇玉」というものではなく、判らない誰かの作品、変わった作品、異色作ですよね、つまり。絶対、(高い)値段がつかなかったと思いますねぇ。まして、あの色彩ですしね。
凄いですなぁ。
「凄い」ついでに、葛蛇玉の作品で存在が確認されているのは、たった5~6点しかないのだそうで、そのうち「雪中松に兎・梅に鴉図屏風」と「蘭石鸚鵡図(岩の上のオウム)」の2点がプライスさんのコレクションだというのですから、言葉を失ってしまいます。
プライスさんは、ホントに自分の眼を信じてコレクションを作ってきたんですなぁ。
「判らない誰かの作品」と言えば、これもまたNHK「極上 美の饗宴」の「シリーズ アメリカ・秘蔵の江戸絵画」とNHK日曜美術館「東北に届け 生命の美 ~アメリカ人コレクター 復興への願い~」での両方で紹介されていた「簗図屏風」こそ、作者不詳の名品です。
どちらの番組でも、この作品を薄暗い中で鑑賞するシーンが出てきます。
あぁ、私もあんな風に、様々な方法で鑑賞したいなぁ。
そのためには、自分のものにしなければならないっつうことなんでしょうねぇ…
さて、Blu-rayディスクに落としてから何度観たか数知れないNHK「極上 美の饗宴」の「シリーズ アメリカ・秘蔵の江戸絵画」、登場した名品の数々を、こんな風にまとめて生で拝見する機会がこれほど早くやって来るとは思いもよりませんでした(きっかけがあの3・11だったことは辛い話ですが…)。
こちらの伊藤若冲「雪芦鴛鴦図(雪のつもったアシとオシドリ)」では、水中に突っ込んだメスの鼻先(かすかに彩色されているらしい)をじっくりと眺めたり、
「その2」で紹介した伊藤若冲「群鶴図(よりそうツル)」では、ツルのくちばしの内側のギザギザに注目したり、
と、楽しいのなんのって
さらに、私がを観たときは、「国内賛助出品」の一つとして、MIHO MUSEUM所蔵の伊藤若冲「象と鯨図屏風(ゾウとクジラの呼び交わし)」が展示されていました。
極彩色と細密描写で知られる伊藤若冲の別の側面が楽しめるゆるぅ~い作品です。
でも、図録にはこんな解説が載っています。
この屏風に描かれたのと同じような場面を、動物行動学者のライアル・ワトソンが、遺著となった「エレファントム」で紹介しています。群れが絶滅して最後の一頭になった雌ゾウが、海辺の崖の上に出てきて、岸辺に寄ってきた巨大な雌のクジラと、人間には聞こえない低周波音で呼び交わし合っている…、それは「種の終わりを目前に控えた生き残り同士」の応答だったのです。
これを読んで、もう一度この作品を観ると、確かに、もの悲しい…。
一方、「若冲が来てくれました プライスコレクション 江戸絵画の美と生命」展の目玉というか、「被災地の人たちにこの作品を観てもらいたい」とプライス夫妻が考えてこの展覧会の開催に至ったという伊藤若冲「鳥獣花木図屏風(花も木も動物もみんな生きている)」は、生命感に満ちています
「生物多様性」というか、「ノアの方舟」というか、悲しみが癒えて、涅槃以来の再開を果たした鳥獣花木たちというか、COOL JAPANの奔りというか…。
まさに眼福
そうそう、「涅槃」といえば、福島展@福島県立美術館(7月27日~9月23日)では、京都国立博物館所蔵の伊藤若冲「果蔬涅槃図」が出品されるようです。
「野菜のプロ」だった若冲(京都・錦小路の青物問屋「桝源」の跡取り息子)が描く野菜、見ものですぞ、K.I.T(私は未見です)
まだまだ紹介し尽くせないのではありますが、こちらの作品を最後に「やはりプライス・コレクションは凄かった」シリーズを終えたいと思います。
竹田春信「達磨遊女異装図(<だるま>さんと<ゆうじょ>が着物をとりかえっこ)」なんですが、このダルマさん、なんとなくこの方と似ていませんか?
これにて全巻のお終い、、、と思ったら、あの作品を忘れていたことに気づきました
そう、3月24日の記事「きのう驚いたこと(ネタバレあり)」で、「MISIA 星空のライヴVII -15th Celevration-」東京公演にゲスト出演した鈴木明男ちゃんの存在感を表現するのに登場いただいた、伊藤若冲「紫陽花双鶏図(アジサイの花と二羽のニワトリ)」です
なんと格好良い作品なのでしょうか
かさばることを覚悟の上で、この作品のポスターを買ってしまいました
いや、ホント、盛岡か福島に、この展覧会をもう一度観るためだけに出かけてみようかと真剣に考えています。
それほど素晴らしく、楽しい展覧会でした。
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