仕事が多忙すぎて逼塞停滞気味……。これもまあ、私の能力の限界を露呈しているわけですが、精神的に張り詰めて、そのピークで脱力するという上手い生き様が、不器用な私には難しく……。
そこで本日は、その極みにあるこの盤を聴いています――
■Speak No Evil / Wayne Shorter (Blue Note)
ジャズ者ならば誰だって、これだけは譲れないアルバムがあるはずで、私の場合はこれです。何時、如何なる時に聴いても感動するというか、心底、シビレます!
録音は1964年12月24日、時期的にはマイルス・デイビスのバンドに加入して間もない頃で、結論から言うと、実はこの1ヵ月後にマイルス・デイビスの下では最初のスタジオ・セッションが行われるですが、その前に自分のやりたい事はやっておこう! というような思惑があったのでは? と推察出来るほど自己主張の強い、素晴らしい出来になっています。
これはマイルス・デイビスの畢生の名作にしてジャズ史上に屹立する1959年の大名盤「カインド・オブ・ブルー」の影響下にあって、それに互角に太刀打ち出来る作品ではないでしょうか!? 少なくとも私は、そう思っています、勝負は別として。
当然、集められたメンバーも強力です。ウェイン・ショーター(ts)、フレディ・ハバード(tp)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、何処切っても当時の若手のバリバリ、今日までのジャズの歴史を作った超一流の実力者達です。
もちろん演奏された曲、全てがウェイン・ショーター会心のオリジナルばかりです――
A-1 Witch Hunt
威勢の良い出だしから、ウェイン・ショーターだけの変態メロディというテーマが、不思議な力強さで演奏されます。う~ん、名曲!
そしてアドリブパートに突入する瞬間のウェイン・ショーターは、もう、これしか無い! という強烈なフレーズを聴かせてくれますから、もう私はこの一撃で悶絶です。しかもそのバックではエルビン・ジョーンズが烈しい仕置きというような煽りに終始しているのです! これには流石のウェイン・ショーターも、脱力ばかりはしていられないという雰囲気で、もう最高です。
ですから、続くフレディ・ハバードも大ハッスルで十八番のツッコミを連発、ハービー・ハンコックはマイルス・デイビスのバンドよりも張り切っているのでは? というような不遜なことまで浮かんでしまう、とにかく素晴らしい演奏です。
A-2 Fee-Fi-Fou-Fum
あぁ、こんな曲はウェイン・ショーターにしか書けないでしょう。まったく脱力系の変態メロディなんです。しかしエルビン・ジョーンズの重いビートを軸としたリズム隊が絶妙なアクセントを入れるので、強力な演奏に仕上がっています。
先発のアドリブはフレディ・ハバードが、意外にも思わせぶりを聴かせたりしますが、もちろん独自のツッコミも披露しています。
そしてウェイン・ショーターはオトボケのフレーズも用いながら、慎重な足取なので、エルビン・ジョーンズがたまらずに爆発する瞬間もあるのですが、それを引き締めているのがロン・カーターのベースというところが、ミソです。もちろんウェイン・ショーターも、そこのところは分かっていて、最後にはちゃんと山場を作っているのでした。
A-3 Dance Cadaverous
これまた脱力の極みというようなテーマから、まず、ハービー・ハンコックが本領発揮の繊細な美メロのアドリブを聴かせてくれます。そしてそれに刺激を受けたかのようなウェイン・ショーターが、とても素敵なメロディを吹いてくれるのですが、これはショーター信者向けの暗黙了解を含んでいますので、ここはむしろバックで暴れるエルビン・ジョーンズ中心に聴くと、快感が得られると思います。
B-1 Speak No Evil
いきなりズバーンと来るテーマがたまりません♪ 2管でモード丸出しのテーマが奏でられるバックでは、ハービー・ハンコックが執拗に絡んで隙間を埋めていく、もう、そこだけで忽ち惹き込まれます。まず、この余韻と刺激のコントラストが本当に素敵です。
アドリブの先発はウェイン・ショーターが緊張と脱力の巧みなコンビネーション、そして不思議な魅力がたっぷりのメロディ感覚を存分に発揮していますが、そこに入る直前のブレイク的な部分で炸裂するエルビン・ジョーンズのタメの効いた一撃が、これまた、たまりませんねっ♪
で、ここでのウェイン・ショーターは本当に素晴らしい限りで、特に1分50秒目からの展開、2分28秒目からのフレーズ、さらにエルビン・ジョーンズとの静かな対決、3分15秒目から続く盛り上げと脱力の対比あたりは、ずばり個人的感性のストライク・ゾーンです。
フレディ・ハバードとハービー・ハンコックも大健闘していますが、あまりにもウェイン・ショーターが凄すぎます。しかし、この凄さは分かってもらえるのか……?
それほど変態的な部分を含んだ演奏です。つまり他の4人は正統派の素晴らしさが全開というのが結論です。
B-2 Infant Eyes
これぞっ、名曲にして大名演!
もう、言葉も文章も必要無いのであります! 本論終り。としたいのですが、それでは申しわけが立ちません。
とにかくウェイン・ショーターが心からの共感を求めて吹き綴る、静謐な演奏です。このテーマ・メロディの存在感、ひとつの音をこれ以上無いほどに大切にした吹奏は、もちろんアドリブパートでも同じです。したがってバックのリズム隊も慎重この上も無い態度で臨んでいるのが、はっきりと分かります。
あぁ、これもジャズの醍醐味ですねぇ~♪ ググッと盛り上げて、スラ~と去っていくウェイン・ショーターの後を受けて、ハービー・ハンコックも何とか場を取り繕う努力をするのですが、それは虚しいもので、すぐにウェイン・ショーターがラスト・テーマの変奏に登場し、ここでリズム隊がホッとした雰囲気になる瞬間が、たまらなく愛しいのです……。
B-3 Wild flower
前曲の緊張感が、ここで解れて大団円という演奏です。もちろん曲調は穏やかモードですが、ミディアムテンポの中は高密度で、さらに凝縮されていきます。
まず、ウェイン・ショーターが脱力感いっぱいの過激ブロー、フレディ・ハバードはクールな不良性を発揮してカッコ良く、ハービー・ハンコックも十八番の展開を聴かせてくれるのでした。もちろんエルビン・ジョーンズとロン・カーターもソツがありません。
ということで、ウェイン・ショーターは当時第一線のテナーサックス奏者でありながら、このアルバムには、その頃主流だったジョン・コルトレーン(ts) のような激烈さも、ソニー・ロリンズ(ts) のような天衣無縫な豪快さもありません。どちらかというと、マイルス・デイビス(tp) のような思わせぶりに暗黙の了解を求める内向的な演奏ばかりが収められています。
ところが、これが気持ち良いんですねぇ~♪ 感性の問題かもしれませんが、何度聴いても飽きません。
ジャズ史的には、ウェイン・ショーターはこの後、マイルス・デイビスのバンドを事実上引張っていく影のリーダーとして活躍するのですが、その音楽的根源は間違いなく、このアルバムに現れています。おそらくこの作品と、マイルス・デイビスの下で直後にレコーディングしたアルバム「ESP」の発売時期は同じだったと思われますが、聞き比べてみても、明らかにこちらの方が私には好みです。
それは似たようなメンツの中で、エルビン・ジョーンズとトニー・ウィリアムスというドラマーの資質の違いも関係あるらしく、何とウェイン・ショーターは自分のリーダー盤では、けっしてトニー・ウィリアムスを起用していません。何故って、それをやるとマイルス・デイビスのアルバムになってしまいますから!
そしてウェイン・ショーターは、この後のリーダー・セッションでは、いよいよ新しい自分の道へ踏み出していくのでした。それはマイルス・デイビスの諸作とは明らかに別物であることは、言わずもがなです。
ちなみに現行輸入盤CDにはボーナストラックとして「Dance Cadaverous」の別テイクが入っていますが、これがまた、グッときます。私は朝一で聴く時は、このCDの「Infant Eyes」から「Dance Cadaverous」まで変則3連発で通すと、神聖な気持ちで1日が過ごせるのですが……。
文章とは思えません。
ありがとうございます。
この頃はデジカメも安物で、ジャケ写も小さいですが、きちんと読んで下さって、感謝感激です。
今後とも、よろしくお願い致します。