夢見るババアの雑談室

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ほぼ身辺雑記です

「闇草紙」ー鬼を燃やすー

2024-06-07 14:08:02 | 自作の小説

かつて寺には鬼が居たのだと言う

それは昔むかしのこと

眠らない子供相手にどうしてそんな怖い話を聞かせたものか

話してくれたのは誰だったか

添い寝してくれて

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それはそれはな 山奥にあった村なのじゃよ

もうせんに住む者もいなくなり この世から消え去った村

米がとれない 途中で腐る

麦も虫に食われて

何も育たない

雨も長いこと降らぬ

食べるモノなく飢えて死ぬ者が多かった

飢饉・・・

もう弔う元気ある者もおらず そこいらに死人が転がっておる

村はずれの寺のお坊様は 死体を拾っては寺の裏庭に埋めて読経する

自分とてろくに食べてはおられぬだろうに

えらいお坊様だと村人は皆感謝しておった

有難いことだと

少しずつ野菜もできるようになり 麦も米も

長い飢えの苦しみが人々から遠ざかっていく

 

ところがな ところがじゃよ

小さな子供や赤ん坊がいなくなることが続いた

神隠し・・・

子供が消えた親がそういうことで納得できようこともなく

案じたお坊様も見回りなどしておられたと

 

それでも子供は消える

村人たちは とうとう気づく

安心して子供がついていく人間

疑うことなく

村を歩いていても誰も不思議に思わないのは

それは

 

村人たちは誰も まさかと思った

信じたくはなかったのだ

 

しかし 

村人たちは聞いてしまった

闇に沈む暗い暗いお堂の中から微かに聞こえる声 言葉

物音

「うまし うまし」

美味じゃ美味じゃ 南無・・・・・

お坊様の声だった

 

お堂の戸を開けて松明を掲げた村人たちは見た

お坊様の口には赤ん坊のものらしき小さな手

 

 

飢饉の折に お坊様はひもじい気持ちに負けて

弔うために運んできた死体に口をつけた

それから

子供ほど美味しいことを知ってしまった

新しい死体ほど美味しい

そうして生きているものは その肉は臭くもなくただうまいのだと

 

飢饉が終わっても・・・お坊様はその味が忘れられず

食べ頃の子供を捜してさらってくるようになった

村に赤ん坊が生まれると この子はどれほど美味しかろうと

その気持ちを抑えられず

 

ただどれだけいとしんで大事に食べても 食べ続けていれば無くなってしまう

もっと食べたい もっと食べたい

 

うまいのじゃ うまいのじゃ

 

恥ずかしげもなく繰り返すお坊様

その姿は村人たちには鬼に見えた

お坊様の姿を借りた鬼だと

村人たちは持っていた松明でお堂に火をつけた

 

そうして村人たちは この子喰らいの鬼がいた村を捨てて出ていった

 

ただ言い伝えは残る

遅くまでお外にいてはいけないよ 鬼が来るよ

夜になったら大きな声で泣いてはいけないよ

鬼に食べられてしまうよ

恐ろしい恐ろしい鬼が来るのだよ

 

だから おやすみ

早く 早くね

いつまでも起きていてはいけないよ

 

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添い寝語りの物語は 細かな部分は繰り返されるたびに違うけれど

村の中の道を子供を求めて彷徨うお坊様の後ろ姿が目に浮かぶ

少し背中をかがめて いつでも見つけた子供に声をかけられるようにして

小さな子供は お坊様の衣の中に隠されて

「お前は愛〈う〉いね 愛〈う〉いね」

かぷり かぷり かじかじ

 

お堂を燃やされてお坊様は死んだのかしら

鬼は本当にいなくなったのかしら

 

 

 

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