川風が気持ち良い
そうだ 川だ そこにある
時々逆方向から来る人と行き会う
散歩しているのだ わたしは
こんな川があったのか
石ころだらけの河原で 誰か煮炊きをしている
いいのだろうか そういうことをしても
気になって近づいていった
白髪の老婆 一重の着物 そう寝間着のような浴衣のような
そんなものを着ている
寒くないのだろうか
火の傍だから暖かいのか
どうにも妙な感じだ
鍋は煮たたっている 泡が幾つもぼこぼこと
溢れはしまいか心配になるほどに
一体 何を煮ているのだろう
老婆は時々 鍋をかき混ぜる
棒きれで
棒はどす黒く染まっている
しみついているのか
ぶくり ぷくり 泡が浮かぶ
鍋の中は泡だらけだ
その泡は・・・なんだ
妙すぎる
わたしの目の錯覚か
あれは あれは
口が見える 鼻が見える
泡が何か叫んでいる
熱いのか 苦しいのか
泡の中にある顔は歪んでいる
一体
老婆は わたしを振り返り 笑う
手ぬぐいを頭にかけているので 皺だらけの口元が見えるばかりなのだが
「これはな 魂じゃ」
魂?!
「浮かんだり 沈んだり 人の世もそんなものじゃろうて」
老婆が煮ているのは 人間の魂だというのか
だから顔があると
何故 魂を煮なくてはならない
「選別じゃ」
?!どういうことだ
「あぶくとなって消える魂もあれば ほれ あのようにふわふわと鍋を離れ 天に向かうものもある」
天へー ここは ここは ただの川ではないのか
わたしは ただ散歩をしていただけなのだ
「鍋の底に貼り付いて いつか見えなくなったりな」
老婆は わたしに向かって言った
「お前もお入り・・・・・」
儚い泡沫になっておしまいー
そう誘うのだ
ふらふらと わたしは鍋に吸い込まれる
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ごめんなさい