「――わかった」と、竜司と呼ばれた男子も危機を察知したのか、素直に地面から手を離すと、体を屈めた孝弘の背に跨がった。
互いに一歩も譲ることなくぶつかっていたジローとSガールは、図ったようにはたと動きを止めた。周囲の、わずかな変化に気がついたためだった。
光の粒でできた幾つものドアが、あちらこちらの空間に浮かび上がってきた。
「逃がさないぞ」と、ジローは空に飛び上がったSガールの足首を捕まえると、地面に叩きつけた。
膝まで地面にめりこんだSガールは、舌打ちをすると瞳を燃えるような赤色に変え、ジローに向かって熱戦を照射した。
「おとなしくしろ」
と、ゴツゴツとした頑丈そうなプロテクターを纏ったタイムパトロールの隊員達が、広い庭を埋め尽くすほど、バラバラと大勢で姿を現した。
「――航時法及び先進ツール不法所持の容疑で逮捕する」と、隊長らしい男は言うと、隊員達がSガールを取り囲むように集まった。
「痛い、押すなよ」
と、既に捕まえられていた二人組の男子が、庭に追い立てられてきた。その手に着けていた氷手袋も、履いていた超スピードブーツも、没収されていた。
Sガールと戦っていたジローは、妙な表情をして立ち止まったまま、動きを止めていた。現れたタイムパトロールが、ジローの時間だけを止めてしまったようだった。
「――やっぱり来たな」
と、黄色い潜水艦の潜望鏡で、地上の一部始終を見ていた瞬は言った。「計画どおり、タイムパトロールの船に潜入してくる」
「気をつけてください」と、盗賊達は口々に声をかけた。
「あんた達もな」と、潜望鏡から離れた瞬は言った。「この船も見張られているに違いない。私が外に出たら、全速力でこの場所を離れるんだ」
「大丈夫ですよ。へまはしません――」と、ボスは自信ありげに言った。
庭の陰に浮かび上がった潜水艦から出てきたのは、見えなくなる帽子を被った瞬だった。
瞬が降りたのを確認すると、潜水艦は素早く地中に姿を消した。
タイムパトロールを乗せた時間航行船は、大きな帆船のような形状をしていた。
Sガールを確保しようと、じりじりと距離を詰めているタイムパトロール達は、瞬が自分達の船舶に侵入しようとしていることなど、微塵も警戒していなかった。
見えない帽子を被った瞬を止める者は、誰一人としていなかった。
タイムパトロールの間を縫うようにして、船に近づいた瞬は、タラップを見つけると、一目散に駆け上がっていった。