潜水艦の手掛かりに掴まりながら、Sガールの足首を捕まえている瞬は、潜水艦に塗布されている地中航行ワックスを全身に塗りつけていた。そのおかげで、潜水艦と同じか、それ以上に地中の中を自由に動き回ることができ、呼吸も問題なくすることができていた。
潜水艦は作戦どおり、全速力で地中深く進んでいた。瞬も徐々に上がっていく地熱と、高くなっていく土圧をひしひしと全身で感じていた。
手足をばたつかせて抵抗していたSガールから、ふっと力が消えかかったときだった。
潜水艦が地底湖に着水した。急にブレーキがかかった潜水艦は、浮き上がった船体を立て直して、再び潜行を始めようとした。
瞬が捕まえていたSガールが、力を取り戻して、瞬の手を振りほどいた。
しまった――と、瞬は唇を噛んだが、後の祭りだった。
地底湖の上にたまっていた空気が、酸欠状態で気を失いかけていたSガールの肺を満たし、みるみるうちに力を取り戻させてしまった。
Sガールは潜行を始めようとする潜水艦を狙って冷気を放ち、氷漬けにしようとしたが、間一髪で地面に潜った潜水艦は、艦尾をわずかに凍らせただけで、地中を素早く進んで逃げていった。
息をついたSガールは、ありったけの力をこめて地中を掘り進み、地響きを上げながら地表に飛び出した。
公園には、良雄を救助するために駆けつけた救急車や、野次馬を規制する警察の車両が何台も集まっていた。
地面を割って飛び出してきたSガールを目の当たりにした人々は、どよめきと共に恐怖の叫び声を上げた。
逃がしてしまった潜水艦は別としても、怪我をして動けなくなった良雄に思い知らせてやるつもりでいたSガールは、自分が正義の守護者ではなく、その正体は悪の手先であることを見破られてしまった、とほぞを噛んだ。
「帽子をなくしたおまえになんて、もう用はないんだよ」
と、Sガールは吐き捨てるように言うと、空の彼方に消え去っていった。