天馬は、サトル達のそばにストンと着地すると、これからサトルが旅立とうとする事がわかっているかのように、激しく前足で砂を掻きました。
「サトル……くれぐれも頼んだぞ……」
「はい。わかりました……」サトルは言うと、まだ泣き濡れているリリの所へ、そっと近づいていき、ポンポンと肩を叩きました。
「……さぁ、ぼくと一緒に行こう」と、サトルは言って、にっこりと笑いました。
リリは、サトルの顔を見つめたまま、しくしくとしゃくり上げるように体を震わせていましたが、すぐにコクンと頷くと、サトルと一緒に天馬に跨がりました。
「ごめんね。一緒に連れて行ってあげられないんだ」と、サトルは、足元で見上げている子犬に言いました。
「……」と、樹王がうなずくように大きくまばたきをして、笑みを浮かべました。
サトルは、お別れをするように大きくうなずくと、青い空の向こうを見上げました。
「さあ! ぼく達がやってきた世界へ――」
ヒィーン! 天馬が天に向かって咆哮すると、次の瞬間、二人は風のようになって空を駆け、砂漠を照らすお日様に向かって、猛烈な早さで飛んでいきました。
リリは、あまりの勢いにサトルの胴をしっかりと抱きしめ、サトルも、馬のたてがみにしっかりとしがみつきました。
二人の顔は、金色に輝く澄み切った光に照らされていました。天馬は、光でできた道を、真っ二つに切り裂くような気迫で、突き進んでいきました。
――……
「行ったな」
「ああ……行ってしまった」と、空を見上げていた樹王が顔を下ろすと、樹王に勝るとも劣らない大きな黒い獣が、空を見上げていました。
「よく、ここまで俺を通したな」と、黒い獣は、黄色い目で樹王を見ながら言いました。
「久しぶりに……話がしたかったんだ」と、樹王が枝をワサワサさせて言いました。
「それは偶然だな」と、獣が黄色い目を細めて言いました。「俺もなんだ」
「あの子を……助けるには……助かりたいという気力が……必要だったんだ」
「あの、異人のことではないだろ?」と、黒い獣は言いました。「リリのことだろ」
と、樹王がうなづきました。
「あの異人は、俺達が魂を食っていい存在では、まだなかったからな。リリと違って、まぶしすぎる生命力に溢れていた」
「――だが……リリは違うだろ」と、樹王が言いました。
「ああ」と、黒い獣が言いました。「だから言っただろ。久しぶりに話がしたかったってな」
「らしくないな」と、樹王が不機嫌そうに言いました。「おまえらしく……ないぞ」
「あの異人が、おまえの枝を持っていたからな。あんな物に打たれでもしていたら、仲間達は今ごろ、黄色い砂に変えられていただろうよ」と、黒い獣が唸るように言いました。