「――なに?」
と、博士が大きな声で言いました。
「どうしたんですか、博士……」
「これはまずいぞ……サトル君。なにかが私達に向けて、やって来ておるようだ……」
「……いったい、なんですか?」と、サトルは眉をひそめて言いました。「もしかして、円盤ムシ――」
「いや、わからん……どうも、ここら辺の風は聞き取りにくくて……近くに来るまではなんとも言えないが、昨日の風によれば、必ずこの辺りの谷に、円盤ムシが羽を休めに来ているはずだ。可能性はあると思う……」
サトルはそれを聞くと、いてもたってもいられず、壁の際から真っ暗い谷の底を、なにか見えないだろうか、と目を凝らしながら注意して見ていました。
と、小さな、横一線に並んだ色違いの四つの光が、ぼんやりと谷底で光っているのを見つけました。
「博士、出ました。あれです!」
「どれどれ……」
風博士はあわてて機械をしまうと、サトルのそばに近づき、サトルがあれ、と指差している光を探して、確認しました。
「おお、あれはもしかして――」
博士が円盤ムシだと言おうとすると、いきなり谷底から、カササササーッとお腹にしみ渡るような音がして、二人が覗いていた所から、四つの目を持ったぬるぬるした怪物が、飛び出してきました。
「くそっ! 深空魚だ――」
「深空魚――」と、サトルは地面に伏せながら言いました。
「そうだ。深空魚だ……。今では深空でしか見る事ができなくなったが、滅多に日の当たる所へは出てこない肉食性の魚類だよ。もう絶滅したと思っていたが……まだ残っていたとはな……」
「博士、危ない――」
サトルは叫びましたが、一瞬早く、深空魚が博士を咥えて、空に舞い上がりました。
「ウオーッ!」
と、博士はなんとか逃げようとしましたが、深空魚がしっかりと背中の袋を咥えているため、博士は腕を羽交い締めされたのと同じような格好になって、微塵も動くことができませんでした。