「すこしだけ、まってくださいね」
ヨンダくんはいいました。
きっと、まだおかあさんパンダにはなすことがあるのでしょう。
「おひさまがしずむまえに、ぼくはまたここにきます。それまで、まってもらえますか」
「もちろんですよ」
と、田中さん。
それをきくと、ヨンダくんはなにかをけっしんしたようにちいさくうなづいて、田中さんのもとからはしりさっていきました。
ヨンダくんは、森にふりそそぐ光のあいだをぬうように、いちもくさんに、本のある「木のむろ」へはしります。
本は、いつものように、しずかにそこにありました。
あらたなものがたりを、ひらいてよみたいきがします。でも――。
かつて、ちいさなヨンダくんに、せかいをひらいてみせてくれたように、ここでまた、ヨンダくんによくにたちいさなパンダのこどもが、この本をてにするのです。
そのひがきっとあることを、ヨンダくんはよかんしました。
本を木のむろへもどしたヨンダくんは、かつておかあさんパンダと、パンダのこどもとくらした「すあな」へむかいます。
さいごの、かなしいおもいをけしさるように、すあなのなかもそとも、きれいにそうじして、なかには、においのよいくさをしきつめました。
いつもどってきても、おかあさんパンダと、パンダのこどもがかいてきにねむれるように。
それから、さくやのモミの木のむろ。そこもおなじように、きれいにととのえました。
ねどこには、まだおかあさんパンダのぬくもりが、のこっているようなきがします。
「おかあさん」
ヨンダくんは、つぶやいて、そっとめをとじました。
とおくのはらっぱで、パンダのこどもたちのあそぶわらいごえがきこえます。
みみをすますと、かぜにのって、おかあさんパンダのこどものげんきなこえもきこえてきました。
おなかはもう、すっかりなおったようです。
よかった――。
うららかな、春のごご。なのに、なぜかヨンダくんのこころのなかだけが、ぽっかりとあながあいたようにさびしいのでした。
ぶるぶるっと、ヨンダくんはみぶるいします。
ヨンダくんは、ほんとうはなにも「しらない」のです。
田中さんが、どういう人なのか。これからめざすヨンダクラブ学校は、どういうところなのか。
そうぞうしてみます。
ヨンダくんと田中さんののったふねは、めざす国をまえに、かいぞくにおそわれてしまいます。
かいぞくと田中さんは、「みつだん」をして、ヨンダくんをどこかへうりとばしてしまうのです。
だれも、ヨンダくんをたすけてくれるものはありません。
ヨンダくんはひとりで、ちえをしぼって、ゆうきをふるって、たたかわなければならないのです。
さきをおもえば、けんとうもつかないことばかりでした。
でももう、ヨンダくんはけっしんしたのです。
おひさまがしずむまえに、と田中さんにはやくそくしました。
すこしはやいかしら、とおもいながらまちあわせのばしょへいくと、田中さんは、もうきてまっていました。
「ぼくは、うれしくてうれしくてたまりませんよ、ヨンダくん」
田中さんは、かんむりょうといったおももちで、ちいさなヨンダくんへてをさしのべます。
ちょっとためらってから、ヨンダくんはそのてをにぎりました。
「ぼくは、ふあんでふあんでたまりません」
「だいじょうぶですとも、ええ」
かんげきした田中さんは、ヨンダくんのてをにぎりかえしながら、ぼくがついていますからね、とはむねをはりました。
田中さんは、はじめてじぶんひとりでみつけたヨンダくんがかわいくてなりません。
きっと、せきにんをもってヨンダクラブ学校までおくりとどけるつもりです。
「ああ、ぼくがみつけたヨンダくんは、とびきりかわいいなあ」
はれがましいきもちの田中さんと、
「ヨンダクラブ学校って、どんなところかしら」
きたいとふあんにむねをふるわせるヨンダくんと。
これから、たびだとうとするヨンダくんを、やさしいみなみかぜのおねえさんと、カヤの木のおじいさんは、どこかでみまもってくれているでしょうか。
(ひとまずおしまい つづく)
ヨンダくんはいいました。
きっと、まだおかあさんパンダにはなすことがあるのでしょう。
「おひさまがしずむまえに、ぼくはまたここにきます。それまで、まってもらえますか」
「もちろんですよ」
と、田中さん。
それをきくと、ヨンダくんはなにかをけっしんしたようにちいさくうなづいて、田中さんのもとからはしりさっていきました。
ヨンダくんは、森にふりそそぐ光のあいだをぬうように、いちもくさんに、本のある「木のむろ」へはしります。
本は、いつものように、しずかにそこにありました。
あらたなものがたりを、ひらいてよみたいきがします。でも――。
かつて、ちいさなヨンダくんに、せかいをひらいてみせてくれたように、ここでまた、ヨンダくんによくにたちいさなパンダのこどもが、この本をてにするのです。
そのひがきっとあることを、ヨンダくんはよかんしました。
本を木のむろへもどしたヨンダくんは、かつておかあさんパンダと、パンダのこどもとくらした「すあな」へむかいます。
さいごの、かなしいおもいをけしさるように、すあなのなかもそとも、きれいにそうじして、なかには、においのよいくさをしきつめました。
いつもどってきても、おかあさんパンダと、パンダのこどもがかいてきにねむれるように。
それから、さくやのモミの木のむろ。そこもおなじように、きれいにととのえました。
ねどこには、まだおかあさんパンダのぬくもりが、のこっているようなきがします。
「おかあさん」
ヨンダくんは、つぶやいて、そっとめをとじました。
とおくのはらっぱで、パンダのこどもたちのあそぶわらいごえがきこえます。
みみをすますと、かぜにのって、おかあさんパンダのこどものげんきなこえもきこえてきました。
おなかはもう、すっかりなおったようです。
よかった――。
うららかな、春のごご。なのに、なぜかヨンダくんのこころのなかだけが、ぽっかりとあながあいたようにさびしいのでした。
ぶるぶるっと、ヨンダくんはみぶるいします。
ヨンダくんは、ほんとうはなにも「しらない」のです。
田中さんが、どういう人なのか。これからめざすヨンダクラブ学校は、どういうところなのか。
そうぞうしてみます。
ヨンダくんと田中さんののったふねは、めざす国をまえに、かいぞくにおそわれてしまいます。
かいぞくと田中さんは、「みつだん」をして、ヨンダくんをどこかへうりとばしてしまうのです。
だれも、ヨンダくんをたすけてくれるものはありません。
ヨンダくんはひとりで、ちえをしぼって、ゆうきをふるって、たたかわなければならないのです。
さきをおもえば、けんとうもつかないことばかりでした。
でももう、ヨンダくんはけっしんしたのです。
おひさまがしずむまえに、と田中さんにはやくそくしました。
すこしはやいかしら、とおもいながらまちあわせのばしょへいくと、田中さんは、もうきてまっていました。
「ぼくは、うれしくてうれしくてたまりませんよ、ヨンダくん」
田中さんは、かんむりょうといったおももちで、ちいさなヨンダくんへてをさしのべます。
ちょっとためらってから、ヨンダくんはそのてをにぎりました。
「ぼくは、ふあんでふあんでたまりません」
「だいじょうぶですとも、ええ」
かんげきした田中さんは、ヨンダくんのてをにぎりかえしながら、ぼくがついていますからね、とはむねをはりました。
田中さんは、はじめてじぶんひとりでみつけたヨンダくんがかわいくてなりません。
きっと、せきにんをもってヨンダクラブ学校までおくりとどけるつもりです。
「ああ、ぼくがみつけたヨンダくんは、とびきりかわいいなあ」
はれがましいきもちの田中さんと、
「ヨンダクラブ学校って、どんなところかしら」
きたいとふあんにむねをふるわせるヨンダくんと。
これから、たびだとうとするヨンダくんを、やさしいみなみかぜのおねえさんと、カヤの木のおじいさんは、どこかでみまもってくれているでしょうか。
(ひとまずおしまい つづく)