分け入っても分け入っても本の森

本読む日々のよしなしごとをそこはかとなく♪

●ちいさなヨンダくん25-(2)

2007年01月21日 23時16分02秒 | ちいさなヨンダくん
「すこしだけ、まってくださいね」
ヨンダくんはいいました。
きっと、まだおかあさんパンダにはなすことがあるのでしょう。
「おひさまがしずむまえに、ぼくはまたここにきます。それまで、まってもらえますか」
「もちろんですよ」
と、田中さん。
それをきくと、ヨンダくんはなにかをけっしんしたようにちいさくうなづいて、田中さんのもとからはしりさっていきました。


ヨンダくんは、森にふりそそぐ光のあいだをぬうように、いちもくさんに、本のある「木のむろ」へはしります。
本は、いつものように、しずかにそこにありました。
あらたなものがたりを、ひらいてよみたいきがします。でも――。
かつて、ちいさなヨンダくんに、せかいをひらいてみせてくれたように、ここでまた、ヨンダくんによくにたちいさなパンダのこどもが、この本をてにするのです。
そのひがきっとあることを、ヨンダくんはよかんしました。


本を木のむろへもどしたヨンダくんは、かつておかあさんパンダと、パンダのこどもとくらした「すあな」へむかいます。
さいごの、かなしいおもいをけしさるように、すあなのなかもそとも、きれいにそうじして、なかには、においのよいくさをしきつめました。
いつもどってきても、おかあさんパンダと、パンダのこどもがかいてきにねむれるように。
それから、さくやのモミの木のむろ。そこもおなじように、きれいにととのえました。
ねどこには、まだおかあさんパンダのぬくもりが、のこっているようなきがします。
「おかあさん」
ヨンダくんは、つぶやいて、そっとめをとじました。


とおくのはらっぱで、パンダのこどもたちのあそぶわらいごえがきこえます。
みみをすますと、かぜにのって、おかあさんパンダのこどものげんきなこえもきこえてきました。
おなかはもう、すっかりなおったようです。
よかった――。


うららかな、春のごご。なのに、なぜかヨンダくんのこころのなかだけが、ぽっかりとあながあいたようにさびしいのでした。
ぶるぶるっと、ヨンダくんはみぶるいします。
ヨンダくんは、ほんとうはなにも「しらない」のです。
田中さんが、どういう人なのか。これからめざすヨンダクラブ学校は、どういうところなのか。


そうぞうしてみます。
ヨンダくんと田中さんののったふねは、めざす国をまえに、かいぞくにおそわれてしまいます。
かいぞくと田中さんは、「みつだん」をして、ヨンダくんをどこかへうりとばしてしまうのです。
だれも、ヨンダくんをたすけてくれるものはありません。
ヨンダくんはひとりで、ちえをしぼって、ゆうきをふるって、たたかわなければならないのです。


さきをおもえば、けんとうもつかないことばかりでした。
でももう、ヨンダくんはけっしんしたのです。
おひさまがしずむまえに、と田中さんにはやくそくしました。
すこしはやいかしら、とおもいながらまちあわせのばしょへいくと、田中さんは、もうきてまっていました。


「ぼくは、うれしくてうれしくてたまりませんよ、ヨンダくん」
田中さんは、かんむりょうといったおももちで、ちいさなヨンダくんへてをさしのべます。
ちょっとためらってから、ヨンダくんはそのてをにぎりました。
「ぼくは、ふあんでふあんでたまりません」
「だいじょうぶですとも、ええ」
かんげきした田中さんは、ヨンダくんのてをにぎりかえしながら、ぼくがついていますからね、とはむねをはりました。


田中さんは、はじめてじぶんひとりでみつけたヨンダくんがかわいくてなりません。
きっと、せきにんをもってヨンダクラブ学校までおくりとどけるつもりです。
「ああ、ぼくがみつけたヨンダくんは、とびきりかわいいなあ」
はれがましいきもちの田中さんと、
「ヨンダクラブ学校って、どんなところかしら」
きたいとふあんにむねをふるわせるヨンダくんと。


これから、たびだとうとするヨンダくんを、やさしいみなみかぜのおねえさんと、カヤの木のおじいさんは、どこかでみまもってくれているでしょうか。


(ひとまずおしまい つづく)

●ちいさなヨンダくん25-(1)

2006年12月26日 01時12分39秒 | ちいさなヨンダくん
ひとばんじゅう、まんじりともしないうちに、よがあけました。
ヨンダくんはだれよりもはやくおきだして、モミの木のむろをでます。


「ぼくは、ここをでていかなければならない」
ねむれないよるのあいだに、ヨンダくんはそうかんがえるようになりました。
おかあさんパンダのいるすあなをでて、ひとりで。でもどこへいったらよいでしょう。
人のよさそうな田中さんのかおと、ヨンダクラブ学校のはなしが、こころにうかびます。
あんなにたのしそうにおもわれた学校――かつて、ヨンダくんは、そこにいきたくてしかたなかったのです――が、いまはとてつもなくさびしいところに、おもわれてきました。


ぼくにはほかに、いくあてがない。
いえにかえるあてのないパンダのこどもでも、ヨンダクラブ学校は、うけいれてくれるのでしょうか。
「きしゅくしゃ」のある学校を、ヨンダくんはそうぞうしました。それは、かつてヨンダくんがよんだ本にでてきたのです。
「きしゅくしゃ」から学校へかようこどもたちも、ながい「きゅうか」のたびに、じぶんのいえにかえります。
でも、ヨンダくんには、もうかえるいえはありませんでした。


その日も、いつものもりのこみちで、田中さんはヨンダくんをまっていました。
「おや」
田中さんはすぐに、ヨンダくんのようすがおかしいことにきづきます。
はじめは、ヨンダくんがどこかケガをしているのではないかとおもいました。
でも、「こんにちは」と、田中さんにあいさつするヨンダくんは、いつもどおり、れいぎただしい、かわいいパンダのこどもにちがいありません。
「ヨンダくん、だいじょうぶですか」
こっくりとうなづいた、ちいさなヨンダくんは、
「ぼく、ヨンダクラブ学校へいきたいとおもいます」


田中さんは、おどろきました。
おもわず、「ヨンダくんのおかあさんは、いいといいましたか。ほかのパンダのこどもたちは」
と、たてつづけにしつもんしたくなるのを、ぐっとがまんします。
「ぼく――」
ヨンダくんは、つづけます。
「ひとりで、ヨンダクラブ学校へいくことはできますか」
それをきいた田中さんは、きゅうに、むねがじいんとしました。
そのむかし、田中さんじしんが、ひとりでちほうのいえをでて、とうきょうの学校へしんがくしたときのことを、おもいだしたのです。
きぼうと、ふあんと、さびしさと、そしてそして――。
そのころ、田中さんははたちまえのせいねんでした。
でも、ヨンダくんはまだ、こんなにちいさいのです。


きっと、ヨンダくんはおかあさんからしかられたにちがいありません。
なんどもなんども、はなしあいをして、そして、
「かってにしなさい。そんなに、学校にいきたいなら、ひとりでいえをでていきなさい」
そういわれたのではないかと考えると、田中さんは、ヨンダくんがいじらしくてなりませんでした。

●ちいさなヨンダくん24-(2)

2006年12月24日 23時23分23秒 | ちいさなヨンダくん
どのくらい、あるいたでしょうか。
はじめてみる、大きなモミの木の「むろ」に、おかあさんパンダは、パンダのこどもをだいていました。
「おかあさん……」
ヨンダくんは、じぶんも、モミの木のむろにはいあがろうとします。
おかあさんパンダは、パンダのこどもをだいて、ねているようでした。


パンダのこどものおなかは、よくなったのでしょうか。いまは、すやすやとねいきをたてています。
ヨンダくんは、なみだをぬぐって、おかあさんパンダのあしもとに、うずくまりました。
そこは、まえのすあなのように、きもちよくかわいていません。
まえにいたすあなでは、ヨンダくんはまいにち、おかあさんと、パンダのこどもと、ヨンダくんのねるばしょを「ととのえて」いました。
ねどこには、かわいたくさをしきつめて、おかあさんパンダのあしもとには、ヨンダくんがはいりこめるくぼみを、つくっておくのです。ちゃんとそうしていないと、ヨンダくんのねるばしょは、なくなってしまいそうなくらいに、ちいさなすあなだったからです。


ようやくみつけた、おかあさんパンダがそばにいるのに、ヨンダくんはなぜか、さびしくてさびしくてしかたありませんでした。
おかあさんパンダをおこさないように、そっと、そのあしにしがみついてみます。
いぜんは、そうすると、ヨンダくんはあんしんしてねむれたのです。
でも、いまは―― 。


ひとりぼっちになってしまったようなさびしさが、くらやみからうずをまいて、ヨンダくんにおそいかかってきます。
また、なみだがこぼれそうになるのを、ぐっとがまんして、ヨンダくんはおかあさんパンダのからだに、じぶんのかおをこすりつけました。

●ちいさなヨンダくん24-(1)

2006年11月19日 17時39分19秒 | ちいさなヨンダくん
おおつぶのなみだがこぼれるのをぬぐうこともできず、ヨンダくんは、めのまえのけしきがぼうっと、かすんでいくようなきがしました。
「あのね、ぼくね」
カヤの木のおじいさんに、――といいかけたまま、つづけることができずに、ひっくひっく、としゃくりあげます。
おかあさんパンダが、ヨンダくんにくるりとせなかをむけてしまったからです。

そして、おかあさんパンダは、パンダのこどもをかかえて、すあなからでていってしまいました。
どこにいくの、ぼくもつれていって。おいていかないで。
ことばにならならず、しゃくりあげるヨンダくんののどには、あついかたまりがこみあげてきて、あたまがくらくらします。

おいていかれたヨンダくんは、あとからひとりですあなをでました。
おかあさんパンダのにおいをおいかけて、どろだらけになりながら、いきさきをさがします。
どんなにわかってもらえなくても、おかあさんのそばにいたいのです。
おかあさん、ぼくここにいます。

みなみかぜのおねえさんも、かやのきのおじいさんもたすけてくれない、まっくらな森のなかを、ヨンダくんはあるきました。
こわさと、ふあんにおしつぶされそうになりながら、むちゅうでおかあさんパンダをさがして、あるきつづけました。

●ちいさなヨンダくん23

2006年11月18日 23時23分00秒 | ちいさなヨンダくん
(おなかがいたくなったのは、)*1 あんなにたくさん、のいちごをたべすぎたりするからです。
「どうしよう、どうしたのかしら」
おかあさんパンダは、しんぱいそうにパンダのこどものせなかをさすります。
ヨンダくんも「おろおろ」して、すあなを、でたりはいったり。カヤの木のおじいさんなら、なんでもしっているのだけれど。こういうときは、どうしたらよいか、おしえてくれるのではないかしら。

「ぼうや、だいじょうぶ」
そのあいだにも、パンダのこどもは「うんうん」うなって、それいじょう、よくもわるくもなりません。
「いちどにたくさん、のいちごをたべたりするからだよ」
どうしたらよいのか、カヤの木のおじいさんにききにいくつもりで、ヨンダくんはそういいました。
おかあさんパンダのかおいろが、かわります。

「なんですって、なにをたべたの」
「のいちごをたくさん……」
ヨンダくんは、こういうときにうそをついたりするこどもではありませんでした。これいじょう、パンダのこどものぐあいがわるくなったりしたら、たいへんですもの。
しょうじきにこたえるヨンダくんに、おかあさんパンダは、つづけてなにかをきこうとします。
そこに、おかあさんパンダのこどもは、さっとわってはいりました。
「ぼくは、いやだっていったんだけど。はやくたべないなら、ひとつもわけてやらないぞ、って」
――じぶんのほうが、ヨンダくんよりよい子だと、おかあさんパンダにおもわれたかったのです。

あっ、とおもったのは、つぎのしゅんかん。
おかあさんパンダのおおきなてが、さっとふりあがって、ちいさなヨンダくんのほおを、ピシッとうちました。
あっけにとられるヨンダくんのめから、そうとしらぬまに、ポロポロとなみだがこぼれおちます。

ヨンダくんは、なにもいえませんでした。
ほんとうの「いきさつ」を、おかあさんパンダにはなしたらどうでしょうか。
いえいえ、そんなことをしたら、パンダのこどもは、おかあさんパンダにしかられてしまいます。
それに、「つげぐち」するみたいで、わるいですものね。

――でも、ほんとうにそうだったでしょうか。


*1 前の更新は7月30日です。

●ちいさなヨンダくん22

2006年07月30日 23時29分41秒 | ちいさなヨンダくん
田中さんは、いちだいけっしんをしていました。
田中さんみずから、ヨンダくんのおかあさんに、ヨンダクラブ学校のはなしをしようとおもったのです。

それというのも、ちかごろのヨンダくんは、田中さんのめからみて、とてもあぶなっかしいのです。
「木のむろ」へ本をよみにかようのも「おざなり」に、パンダのこどもたちとのあそびにかけだしていきます。
そのりゆうを、うすうす田中さんはわかっていました。
ヨンダくんは田中さんに、「学校のことを、おかあさんにはなしてみる」といったのですが、うまくはなしだせなくて、むりをしていることはいちもくりょうぜんです。

「これはいけないぞ」
ヨンダくんのおかあさんというのはどういうものなのか――それは、おとなのヨンダなのかパンダなのか、けんとうもつきませんでしたが、こわがっているばあいではないと田中さんはかんがえました。
ちょっかんてきに、いまのじょうたいはヨンダくんにとってよいものではないと、田中さんはきづいていたのです。
できるだけはやく、ヨンダくんをヨンダクラブ学校へひきとらなければ。
ヨンダくんをこまらせないように、ヨンダくんのおかあさんとはなすきかいを、田中さんはうかがっていました。


さて、そのよるです。たいへんなことがおこったのは。
「おなかがいたいよう」
おかあさんパンダのこどもが、ねどこにはいるまえに、おなかをかかえてくるしみだしました。

●ちいさなヨンダくん21

2006年06月20日 23時39分28秒 | ちいさなヨンダくん
「キミのところのチビ、ちかごろずいぶんつきまとうね」
大きいパンダのこどもが、ヨンダくんのおかあさんパンダのこどもにはなしかけます。
「よせやい」
おかあさんパンダのこどもは、ヨンダくんにきこえないように、こえをひそめて、
「あんなの、うちのこじゃないよ」
それでも、いつもとすこしちがうようすで、いっしょうけんめいきのぼりしたり、ニコニコしながら、なにかいいたそうに、こちらのようすを見ているヨンダくんのことが、きになります。

「あ、あぶない」
ほかのパンダのこどもたちより、ひとまわりもふたまわりもちいさいヨンダくんが、つるりとてをすべらせて、木からおちそうになりました。
おかあさんパンダのこどもは、おもわずてをのばして、ヨンダくんをささえます。
「ありがとう」
ぼく、あぶないとこだったね。そういって、にっこりするヨンダくんを、あきれたようにながめながら、
「ちいさいのに、むちゃしてらあ」
「キミみたいに、ぼくもおおきくなりたいな」
「じゃあ、もっともっとたべなきゃね」
「ササの葉ばかり、そんなにいっぱいたべられないもの、ぼく」
パンダのくせに、ササの葉をたべられないなんて、へんなこだな、というかおで、おかあさんパンダのこどもは、ヨンダくんを見ました。
ササの葉は、夏も冬もかれることなく、あおあおとして、パンダのすむ森にしげります。
春になると、あまいタケノコがかおをだすのでたのしみですが、それいがいは、くるひもくるひも、ササの葉をやまのようにたべて、パンダのこどもたちは、大きくなるのです。
じつは、パンダのこどもたちは、ササの葉いがいの、くだものや「きのみ」もだいすきです。でも、おいしいくだものや「きのみ」は、そういつもいつも、あるわけではありませんものね。

「あのね、ぼくね」
はなしをするのが、うれしくてしかたがないようすで、ヨンダくんは、目をかがやかせています。(いままで、おかあさんパンダのこどもと、こんなにいっぱい、はなしたことは、なかったのです)
「おいしい『のいちご』がなっているところを、しってるんだけど」
「え、ほんとう」
おかあさんパンダのこどもは、くいしんぼうです。
ヨンダくんがはなしおわるのもまたずに、そこへつれていけと、せきたてました。
あんないする、ヨンダくん。
みなみかぜのおねえさんがおしえてくれたはらっぱで、あかい『のいちご』は、いまをさかりに、たわわにみのっています。
「わあ」
なんて、おいしそうなのでしょう。おかあさんパンダのこどもは、かけだしていきました。

「いちどにたくさんたべたら、おなかをこわすよ」
ヨンダくんが、しんぱいになっても、おかあさんパンダのこどもは、とりあおうとしません。
「なんだよ、ケチケチするな」

そんなヨンダくんたちを、もっとしんぱいそうに、かげから見ているものがありました。
――ヨンダクラブたんさくたいの、田中さんです。

●ちいさなヨンダくん20

2006年04月12日 22時03分57秒 | ちいさなヨンダくん
ヨンダくんは、がっこうのことをおかあさんにそうだんできずにいます。
なにしろ、がっこうへかよっているパンダのこどもというのは――みわたすかぎりでは――いないのです。
ヨンダくんは、かんがえました。
「ぼくひとりじゃなくて――」
パンダのこどもたちみんなで、がっこうへいきたいというのです。
そうです。それですよ。そのためには。
「ぼく、みんなと――パンダのこどもたちと、もっとなかよくならなきゃ」
つぎのひから、ヨンダくんはいつにもまして、せっきょくてきにパンダのこどもたちとあそぶようになりました。

●ちいさなヨンダくん19

2006年04月02日 21時27分50秒 | ちいさなヨンダくん
「がっこうへ、ね。ぼく、いってみたいです」
「ヨンダクラブがっこうへきてくださるなら、しんぱいすることはなにもありません。ぼくが、せきにんをもってあんないしますから。きみはただ、きてくれさえすればよいのです」
田中さんが、ねっしんにそういうと、ヨンダくんはにっこりわらいました。
「すると、ね。ぼく、おかあさんにそうだんしなくちゃね」
「え、――」
「おかあさんにそうだんしなくちゃ。ぼく、おかあさんがいるんだよ」
「なんですって」
「あのね。ぼく、おかあさんがいるんだよ」
もういちど、ゆっくりそういったヨンダくんの、とくいそうなかおったら。

ヨンダくんのこたえは、田中さんをこんらんさせました。
ヨンダくんに、おかあさんがいるって。そんなはなしは、きいたこともないぞ。
『ヨンダくんたんさくマニュアル』に、そんなれいはのっていたかしら。
いえいえ、ヨンダくんについて、わかっていることは、すべてべんきょうしたのです。せんぱいたいいんのあとについて、たんさくのじっちけいけんもつみましたが、そんなはなしは、きいたこともありません。
しかし、そのことをヨンダくんにむかって、くちにするきにはなれませんでした。
なぜか、それは「してはならないこと」のようにおもわれたのです。
田中さんは、こまってしまいました。

よる。たんさくたいのきちにもどって、『ヨンダくんたんさくマニュアル』をよみなおしながら、田中さんは、せんぱいのたいいんへ、そうだんのでんわをかけます。
「でも、ぼくのみつけたヨンダくんには――」
ぼくのみつけた、にちからをこめて、田中さんはいいました。
「ぼくのみつけたヨンダくんには、おかあさんがいるというのですよ」
おや、へんですね。はなしながら、田中さんは、なんだかとくいそうなのです。
「ヨンダくんについては、まだわかっていないことも、たくさんあるからなあ」
でんわのむこうでは、せんぱいたいいんが、はっきりしないことをいいます。
田中さんは、ふしぎにまんぞくでした。
田中さんのみつけたヨンダくんには、おかあさんがいる。これは、しんじじつではないのでしょうか。
ぼく、おかあさんがいるんだよ――そういって、にっこりわらったヨンダくんの、とびきりかわいらしいえがおを、田中さんはおもいました。

●ちいさなヨンダくん18

2006年03月25日 21時39分42秒 | ちいさなヨンダくん
「がっこうでは、せいふくをきなければならないのですか」
「きまりではありません。じゆうなのです」
「――じゆう」
「ええ、じゆうです。せいふくは、だい1きせいと、だい2きせいをまちがえないように、めじるしにあるだけですから」
「じゆうですか、じゆうなのですね」
「ええ、じゆうですよ」
こたえながら、おかしくなって、田中さんはクスッとわらいました。
ヨンダくんたら、ずいぶんせいふくがきになるのだな。きっと、あかいTシャツをきてみたいのだろう。よし、それなら。ヨンダくんのきにいりそうなはなしができるぞ、と田中さんは思いました。
「いまなら、だい3きせいのにゅうがくに、まにあいます。だい3きせいのせいふくは、みどりのTシャツですよ」
「ああ、じゆう」
うっとりする、ヨンダくん。
「ヨンダクラブがっこうへ、いらっしゃいませんか」
しんけんなかおで、田中さん。

●ちいさなヨンダくん17

2006年03月15日 22時23分24秒 | ちいさなヨンダくん
そういうわけで、つぎのひも田中さんは、おなじばしょでヨンダくんをまっていました。
「こんにちは、ヨンダくん。きょうは、ヨンダクラブ学校のしょうかいをもってきました」
いったい、どういうことでしょう。田中さんは、ヨンダくんが本をよむことをしっているだけではなく、ひそかにいきたいとおもっていた、学校のことまで、はなしだすのです。
「ぼくのことを、よくしっているのですね」
と、ヨンダくん。
「いいえ」
田中さんは、はずかしそうにあたまをかきました。
「いっしょうけんめいなのです、ぼく。きみは、ぼくがはじめて、ひとりでみつけたヨンダくんですもの」
「ぼくいがいのヨンダくんに、あったことがあるのですか」
「ありますとも。ヨンダクラブたんさくたいですからね。でも、いままではずっと、ぼくひとりではなく、せんぱいのたいいんと、いっしょだったのです」

なんと、田中さんは、ヨンダくんのほかにも、ヨンダくんがいるといいます。
「パンダのこどもたちだったら、ぼくのほかにもいっぱいますけど」
「それは、ただのパンダでしょう。げんみつにいうと、パンダとヨンダはちがうのです」
「ただのパンダ、なんていういいかた、ぼくはいやです」
「これは、しつれいしました。でも、パンダのこどもたちのことはしりませんが、ヨンダくんたちは、みんなヨンダクラブ学校へかようのですよ」

そういって、田中さんはいちまいのしゃしんを、ヨンダくんにみせてくれました。
本にかこまれたひろいへやで、なんにんものヨンダくんたちが、おもいおもいに、たのしそうに本をよんでいます。
「うわあ、ここはどこですか」
「ヨンダクラブ学校のとしょしつです」
「みんな、あかいTシャツをきていますね」
「あかいTシャツは、ヨンダクラブ学校だい2きせいの、せいふくなのです」

●ちいさなヨンダくん16

2006年03月12日 20時52分04秒 | ちいさなヨンダくん
こんなにちかくで人間をみるのは、ヨンダくんにとってはじめてのことでした。
「どうしてぼくをさがしているの」
「やはり、ヨンダくんなのですね」
「あ、しまった」
「いいえ、きみがヨンダくんだということは、わかっていましたとも。ヨンダくんが本をよむと、たんさくたいのヨンダレーダーがはんのうするのです」
ふたたび、くびをかしげるヨンダくん。
「つまりですね、ヨンダくんをひつようとしている人間がいるのです。人間にはヨンダくんがひつようなのです」
「あなたのいうこと、ぼく、よくわかりません。それにね、いそいでいるの」
「それでは、またあす、ここでおあいしましょう。きみが本をよみにいくとちゅう、すこしだけ、ぼくとはなしをしてくれたら、うれしいです。ぼくは、きみにやくそくしたことを、まもります」

●ちいさなヨンダくん15

2006年03月05日 21時23分08秒 | ちいさなヨンダくん
そういうわけで、「木のむろ」にある本と、学校へいきたいとおもっていることは、ヨンダくんひとりのひみつでした。
うららかな春のごご、木のむろへといそぐヨンダくんを、おもいがけないこえがよびとめる、あの日までは。

「ヨンダくんではありませんか」
だれもしらないはずの、もりのこみちでよばれてふりかえると、そこにいるのは、なんと人間でした。
「ヨンダくん、ヨンダくんだ」
そのひと――人間は、かんきわまったようすで、ヨンダくんへあゆみよろうとします。
おもわずにげだそうとする、ヨンダくん。

「まって、まってください。おねがい」
人間は、われにかえったように、あゆみをとめました。
「ぼくは、きみにきがいをくわえないと、やくそくします」
「あなた、人間でしょう」
「そうです。ヨンダくんを、さがしているんですよ」
ヨンダくんは、くびをかしげて人間をみあげます。
「もうしおくれました。ぼくは、ヨンダクラブたんさくたいいんで、田中といいます」

●ちいさなヨンダくん14

2006年03月01日 22時04分50秒 | ちいさなヨンダくん
そのよる、ほんとうにヨンダくんは、学校のことをおかあさんにきいたでしょうか。
こたえは、「いいえ」です。
それというのも、ヨンダくんは、かんがえぶかいこどもでした。
本のなかには、学校のはなしだけではなくて、学校へかよえないこども、というのもでてきます。
「ドリトル先生」にでてくる、トミー・スタビンズくんがそうです。おうちがまずしくて、学校へいけなかったのです。
ものがたりや、しょうせつだけではなくて、でんきのなかにも、学校へかよえなくて、くろうしてべんきょうしたひとたちがおおぜいいます。
学校へかよえない、というのは、なにか「じじょう」があることなのです。
まわりをみまわせば、学校へかよっているパンダのこどもというのは、いませんでした。パンダのこどものかよう学校があるというはなしを、きいたこともなかったのです。

「ああ、どうしよう」
おかあさんをこまらせるようなことだけは、したくないヨンダくんです。

●ちいさなヨンダくん13

2006年02月27日 22時43分42秒 | ちいさなヨンダくん
なかでも、ヨンダくんがきになってしかたないのは、にんげんのこどもたちが、学校へいくおはなしです。

「クオレ」、「愛の一家」、「ビーチャと学校ともだち」、「ふたりのロッテ」、「あしながおじさん」、「アン」、「ケティ」、「トム・ソーヤー」――百トンのはんせんにのって、うみをひょうりゅうし、ながいなつやすみをすごしたしょうねんたちも、学校へかよっていました。
学校には、さまざまなこどもたちがいます。先生がいます。つくえをならべて、みんなでべんきょうしています。
でも、ほんとうは――ほんとうの学校って、どんなところかしら。ぼくも、いってみたいな。
きょう、おうちへかえったら、おかあさんに学校のことをきいてみようと、ヨンダくんはおもいました。

じつのことをいうと、おとながこどもたちの「ためになるように」、「わざと」かいた本を、ヨンダくんはあまりすきではありません。(だから、なかには、きらいな本もあるのです。ないしょですよ)