分け入っても分け入っても本の森

本読む日々のよしなしごとをそこはかとなく♪

●ちいさなヨンダくん25-(1)

2006年12月26日 01時12分39秒 | ちいさなヨンダくん
ひとばんじゅう、まんじりともしないうちに、よがあけました。
ヨンダくんはだれよりもはやくおきだして、モミの木のむろをでます。


「ぼくは、ここをでていかなければならない」
ねむれないよるのあいだに、ヨンダくんはそうかんがえるようになりました。
おかあさんパンダのいるすあなをでて、ひとりで。でもどこへいったらよいでしょう。
人のよさそうな田中さんのかおと、ヨンダクラブ学校のはなしが、こころにうかびます。
あんなにたのしそうにおもわれた学校――かつて、ヨンダくんは、そこにいきたくてしかたなかったのです――が、いまはとてつもなくさびしいところに、おもわれてきました。


ぼくにはほかに、いくあてがない。
いえにかえるあてのないパンダのこどもでも、ヨンダクラブ学校は、うけいれてくれるのでしょうか。
「きしゅくしゃ」のある学校を、ヨンダくんはそうぞうしました。それは、かつてヨンダくんがよんだ本にでてきたのです。
「きしゅくしゃ」から学校へかようこどもたちも、ながい「きゅうか」のたびに、じぶんのいえにかえります。
でも、ヨンダくんには、もうかえるいえはありませんでした。


その日も、いつものもりのこみちで、田中さんはヨンダくんをまっていました。
「おや」
田中さんはすぐに、ヨンダくんのようすがおかしいことにきづきます。
はじめは、ヨンダくんがどこかケガをしているのではないかとおもいました。
でも、「こんにちは」と、田中さんにあいさつするヨンダくんは、いつもどおり、れいぎただしい、かわいいパンダのこどもにちがいありません。
「ヨンダくん、だいじょうぶですか」
こっくりとうなづいた、ちいさなヨンダくんは、
「ぼく、ヨンダクラブ学校へいきたいとおもいます」


田中さんは、おどろきました。
おもわず、「ヨンダくんのおかあさんは、いいといいましたか。ほかのパンダのこどもたちは」
と、たてつづけにしつもんしたくなるのを、ぐっとがまんします。
「ぼく――」
ヨンダくんは、つづけます。
「ひとりで、ヨンダクラブ学校へいくことはできますか」
それをきいた田中さんは、きゅうに、むねがじいんとしました。
そのむかし、田中さんじしんが、ひとりでちほうのいえをでて、とうきょうの学校へしんがくしたときのことを、おもいだしたのです。
きぼうと、ふあんと、さびしさと、そしてそして――。
そのころ、田中さんははたちまえのせいねんでした。
でも、ヨンダくんはまだ、こんなにちいさいのです。


きっと、ヨンダくんはおかあさんからしかられたにちがいありません。
なんどもなんども、はなしあいをして、そして、
「かってにしなさい。そんなに、学校にいきたいなら、ひとりでいえをでていきなさい」
そういわれたのではないかと考えると、田中さんは、ヨンダくんがいじらしくてなりませんでした。

●ちいさなヨンダくん24-(2)

2006年12月24日 23時23分23秒 | ちいさなヨンダくん
どのくらい、あるいたでしょうか。
はじめてみる、大きなモミの木の「むろ」に、おかあさんパンダは、パンダのこどもをだいていました。
「おかあさん……」
ヨンダくんは、じぶんも、モミの木のむろにはいあがろうとします。
おかあさんパンダは、パンダのこどもをだいて、ねているようでした。


パンダのこどものおなかは、よくなったのでしょうか。いまは、すやすやとねいきをたてています。
ヨンダくんは、なみだをぬぐって、おかあさんパンダのあしもとに、うずくまりました。
そこは、まえのすあなのように、きもちよくかわいていません。
まえにいたすあなでは、ヨンダくんはまいにち、おかあさんと、パンダのこどもと、ヨンダくんのねるばしょを「ととのえて」いました。
ねどこには、かわいたくさをしきつめて、おかあさんパンダのあしもとには、ヨンダくんがはいりこめるくぼみを、つくっておくのです。ちゃんとそうしていないと、ヨンダくんのねるばしょは、なくなってしまいそうなくらいに、ちいさなすあなだったからです。


ようやくみつけた、おかあさんパンダがそばにいるのに、ヨンダくんはなぜか、さびしくてさびしくてしかたありませんでした。
おかあさんパンダをおこさないように、そっと、そのあしにしがみついてみます。
いぜんは、そうすると、ヨンダくんはあんしんしてねむれたのです。
でも、いまは―― 。


ひとりぼっちになってしまったようなさびしさが、くらやみからうずをまいて、ヨンダくんにおそいかかってきます。
また、なみだがこぼれそうになるのを、ぐっとがまんして、ヨンダくんはおかあさんパンダのからだに、じぶんのかおをこすりつけました。