分け入っても分け入っても本の森

本読む日々のよしなしごとをそこはかとなく♪

●ある昼下がり

2006年03月31日 21時39分22秒 | haiku(俳句)
午後のお紅茶をたしなむぼくに、緊急コールが。
「みか5さいちゃんが、幼稚園を脱走しました。保護者の方は、いらっしゃいますか」
ピーンときました、ぼく。
年度末に押し寄せる、誰もが嫌がる書類の山を、みか5さいちゃんとこに押しつけたりするから……。

春爛漫、桜満開の千鳥ヶ淵。
ボートにひとり、文庫本を抱えたみか5さいちゃんは乗り込もうと。
そこへ、ヨンダッシュで駆けつけ飛び込むぼくです、ぼくですよ、みか5さいちゃん。
「あ、ヨンダくんに、みつかっちゃった」
「だいじょうぶ、誰にも言いませんとも」
「もう今日は、幼稚園に戻らなくていいよね」
「いいですとも、いいですとも」
あとで、神保町に寄りましょうね。ケーキも買って、いいですからね。

 漕ぎいだして ひとりかも寝む 桜の濠(ほり)
  

●ちいさなヨンダくん18

2006年03月25日 21時39分42秒 | ちいさなヨンダくん
「がっこうでは、せいふくをきなければならないのですか」
「きまりではありません。じゆうなのです」
「――じゆう」
「ええ、じゆうです。せいふくは、だい1きせいと、だい2きせいをまちがえないように、めじるしにあるだけですから」
「じゆうですか、じゆうなのですね」
「ええ、じゆうですよ」
こたえながら、おかしくなって、田中さんはクスッとわらいました。
ヨンダくんたら、ずいぶんせいふくがきになるのだな。きっと、あかいTシャツをきてみたいのだろう。よし、それなら。ヨンダくんのきにいりそうなはなしができるぞ、と田中さんは思いました。
「いまなら、だい3きせいのにゅうがくに、まにあいます。だい3きせいのせいふくは、みどりのTシャツですよ」
「ああ、じゆう」
うっとりする、ヨンダくん。
「ヨンダクラブがっこうへ、いらっしゃいませんか」
しんけんなかおで、田中さん。

●ちいさなヨンダくん17

2006年03月15日 22時23分24秒 | ちいさなヨンダくん
そういうわけで、つぎのひも田中さんは、おなじばしょでヨンダくんをまっていました。
「こんにちは、ヨンダくん。きょうは、ヨンダクラブ学校のしょうかいをもってきました」
いったい、どういうことでしょう。田中さんは、ヨンダくんが本をよむことをしっているだけではなく、ひそかにいきたいとおもっていた、学校のことまで、はなしだすのです。
「ぼくのことを、よくしっているのですね」
と、ヨンダくん。
「いいえ」
田中さんは、はずかしそうにあたまをかきました。
「いっしょうけんめいなのです、ぼく。きみは、ぼくがはじめて、ひとりでみつけたヨンダくんですもの」
「ぼくいがいのヨンダくんに、あったことがあるのですか」
「ありますとも。ヨンダクラブたんさくたいですからね。でも、いままではずっと、ぼくひとりではなく、せんぱいのたいいんと、いっしょだったのです」

なんと、田中さんは、ヨンダくんのほかにも、ヨンダくんがいるといいます。
「パンダのこどもたちだったら、ぼくのほかにもいっぱいますけど」
「それは、ただのパンダでしょう。げんみつにいうと、パンダとヨンダはちがうのです」
「ただのパンダ、なんていういいかた、ぼくはいやです」
「これは、しつれいしました。でも、パンダのこどもたちのことはしりませんが、ヨンダくんたちは、みんなヨンダクラブ学校へかようのですよ」

そういって、田中さんはいちまいのしゃしんを、ヨンダくんにみせてくれました。
本にかこまれたひろいへやで、なんにんものヨンダくんたちが、おもいおもいに、たのしそうに本をよんでいます。
「うわあ、ここはどこですか」
「ヨンダクラブ学校のとしょしつです」
「みんな、あかいTシャツをきていますね」
「あかいTシャツは、ヨンダクラブ学校だい2きせいの、せいふくなのです」

●ちいさなヨンダくん16

2006年03月12日 20時52分04秒 | ちいさなヨンダくん
こんなにちかくで人間をみるのは、ヨンダくんにとってはじめてのことでした。
「どうしてぼくをさがしているの」
「やはり、ヨンダくんなのですね」
「あ、しまった」
「いいえ、きみがヨンダくんだということは、わかっていましたとも。ヨンダくんが本をよむと、たんさくたいのヨンダレーダーがはんのうするのです」
ふたたび、くびをかしげるヨンダくん。
「つまりですね、ヨンダくんをひつようとしている人間がいるのです。人間にはヨンダくんがひつようなのです」
「あなたのいうこと、ぼく、よくわかりません。それにね、いそいでいるの」
「それでは、またあす、ここでおあいしましょう。きみが本をよみにいくとちゅう、すこしだけ、ぼくとはなしをしてくれたら、うれしいです。ぼくは、きみにやくそくしたことを、まもります」

●ちいさなヨンダくん15

2006年03月05日 21時23分08秒 | ちいさなヨンダくん
そういうわけで、「木のむろ」にある本と、学校へいきたいとおもっていることは、ヨンダくんひとりのひみつでした。
うららかな春のごご、木のむろへといそぐヨンダくんを、おもいがけないこえがよびとめる、あの日までは。

「ヨンダくんではありませんか」
だれもしらないはずの、もりのこみちでよばれてふりかえると、そこにいるのは、なんと人間でした。
「ヨンダくん、ヨンダくんだ」
そのひと――人間は、かんきわまったようすで、ヨンダくんへあゆみよろうとします。
おもわずにげだそうとする、ヨンダくん。

「まって、まってください。おねがい」
人間は、われにかえったように、あゆみをとめました。
「ぼくは、きみにきがいをくわえないと、やくそくします」
「あなた、人間でしょう」
「そうです。ヨンダくんを、さがしているんですよ」
ヨンダくんは、くびをかしげて人間をみあげます。
「もうしおくれました。ぼくは、ヨンダクラブたんさくたいいんで、田中といいます」

●ちいさなヨンダくん14

2006年03月01日 22時04分50秒 | ちいさなヨンダくん
そのよる、ほんとうにヨンダくんは、学校のことをおかあさんにきいたでしょうか。
こたえは、「いいえ」です。
それというのも、ヨンダくんは、かんがえぶかいこどもでした。
本のなかには、学校のはなしだけではなくて、学校へかよえないこども、というのもでてきます。
「ドリトル先生」にでてくる、トミー・スタビンズくんがそうです。おうちがまずしくて、学校へいけなかったのです。
ものがたりや、しょうせつだけではなくて、でんきのなかにも、学校へかよえなくて、くろうしてべんきょうしたひとたちがおおぜいいます。
学校へかよえない、というのは、なにか「じじょう」があることなのです。
まわりをみまわせば、学校へかよっているパンダのこどもというのは、いませんでした。パンダのこどものかよう学校があるというはなしを、きいたこともなかったのです。

「ああ、どうしよう」
おかあさんをこまらせるようなことだけは、したくないヨンダくんです。