原賃貸人と転借人の対決

2024-05-24 18:12:08 | 不動産法

【例題】Aは、自己が所有する建物αをBに賃貸し(賃料月額50万円)、Bは、Aの承諾に基づいてαをCに転貸した(転貸料月額65万円)。Cは、Bに対して約定とおりの転貸料を支払っていたものの、Bは、Aへの賃料の支払を怠っている。

 

[原賃貸人の選択(その1):転貸料の直接請求]

・原賃貸人は、契約当事者ではない転借人に対して、原賃料を上限として「転貸料」を直接に自己に払うよう請求することができる(民法613条前段)。賃借人からの原賃料回収が順調ならば無益ともいえるが、原賃料回収が難航した場合に有効な規定である。□潮見(1)476-8

・原賃貸人からの転借料請求にさらされた転借人は、「請求を受けた時点で、既に弁済期にある転貸料を支払った」との抗弁を提出できる。換言すれば、転借人は「弁済期前に転借料を前払いした」との主張では対抗できず(民法613条後段)、この意味で「前払いによる二重払いのリスク」は転借人が負担する。□潮見(1)477-8

 

[原賃貸人の選択(その2-1):転借人への明渡請求の可否=原賃貸借の継続中の場合]

・原賃貸人が転貸借を承諾し、かつ、原賃貸借が存続している限りは、原賃貸人は、転借人による目的物の使用収益を妨げることはできない(債権法改正でも明文化が見送られた)。□潮見(1)473-4

・換言すれば、転借人は、原賃貸人に対して、「転貸借契約に基づく目的物の占有権原」を対抗できる。□潮見(1)473-4

 

[原賃貸人の選択(その2-2):転借人への明渡請求の可否=原賃貸借の債務不履行解除の場合]

・原賃借人(転貸人)の債務不履行を理由として原賃貸借契約が解除された場合、不履行を犯した転貸人(原賃借人)は、もはや、転借人に対して目的物を使用収益させることができなくなるところ(履行不能)、特に「履行不能となる時期=原賃貸人が転借人に目的物の返還請求をした時」と解される(最三判平成9年2月25日民集第51巻2号398頁)。□潮見(1)481-2、澤野225-6

・原賃貸人からの返還請求にさらされた転借人はこれに応じるほかなく、さらに、遅くとも請求時以降の占有については不法行為or不当利得となる(前掲最三判平成9年2月25日)。□潮見(1)481-2

・目的物の使用収益を望む転借人としては、原賃貸借の未払賃料について「弁済をするについて正当な利益を有する第三者」として、弁済を実行して明渡しを免れる余地がある(民法474条1項)。もっとも、賃貸人としては、転借人に対して第三者弁済の機会を与える義務を負わない(最一判昭和37年3月29日民集第16巻3号662頁)。□潮見(1)482-4、澤野226

 

[原賃貸人の選択(その2-3):転借人への明渡請求の可否=原賃貸借の合意解除の場合]

・以上に対し、原賃貸借が合意解除されただけでは、転借人は目的物の明渡しを強制されない(民法613条本文)。同条項は、債権法改正以前の判例の立場を明文化したものである。□潮見(1)486-8、澤野225

・この場合は目的物の使用収益について原賃貸人と転借人が残されることになるが、両者の法律関係について見解が分かれている(多数説は「原賃借人から転借人への地位の承継」とする)。□潮見(1)486-8

 

[原賃貸人の選択(その2-4):転借人への明渡請求の可否=原賃貸借の期間満了の場合]

・賃貸借一般では、原賃貸借が期間満了により終了すれば、転借人は目的物を開け渡さなければならない。なお、建物賃貸借の場合は、原賃貸人から転借人に対して、原賃貸借の終了より6か月前の通知を要する(借地借家法34条1項、37条)。「通知(t1)→原賃貸借の期間満了(t2)→通知から6か月経過(t3)」となった場合、転貸借はt3まで存続するが(借地借家法34条2項、37条)、「t2~t3」の間の法律関係については争いがある。□潮見(1)488-90、澤野224

・これに対し、特にサブリース事案では、転借人(テナント)は、原賃貸借(サブリース契約)が終了した場合であっても(※)、信義則を理由に使用収益を継続できる余地がある(最一判平成14年3月28日民集第56巻3号662頁)。□潮見(1)488-90、澤野222

※サブリース契約において「原賃貸借が終了した場合は、原賃貸人(オーナー)が転貸人の地位を承継する」旨の約定があれば、転借人の明渡問題は生じない。□澤野222

 

澤野和博「(借地借家法)第34条」田山輝明・澤野順彦・野澤正充編『新基本法コンメンタール借地借家法〔第2版〕』[2019]

潮見佳男『新契約各論1』[2021]

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