相続させる遺言とその周辺

2018-07-18 23:35:46 | 相続法・相続税法

【例題】Xが遺言を残して死亡した。Xには、妻A、子B、子Cがいるほか、生前懇意にしていた知人Mがいる。

(1-1)遺言に「Aに自宅を相続させる」と記載されていた場合。

(1-2)遺言に「Aにすべての遺産を相続させる」と記載されていた場合。

(2-1)遺言に「Mに自宅を譲る」と記載されていた場合。

(2-2)遺言に「Mにすべての遺産を譲る」と記載されていた場合。

 
[「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」記載の意義]

最二判平成3・4・19民集45巻4号477頁[いわゆる香川判決]は、公証実務が創出した「相続させる」遺言を積極的に追認した。

[a]「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」旨の遺言は、遺贈と解すべき特段の事情のない限り、遺産分割方法の指定(民法908条)である。

[b]「純粋な遺産分割方法の指定」であれば、その後の遺産分割において共同相続人間で異なる合意(遺産分割)をすることは可能である。ところが、相続させる遺言においては、他の共同相続人も遺言に拘束され、これと異なる遺産分割協議や審判をすることができない。□潮見198-9,202

[c]純粋な遺産分割方法の指定」であれば、相続が開始しても特定相続人に当該遺産の権利が当然には移転せず、その後の遺産分割を要する。ところが、相続させる遺言においては、特段の事情(例;当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせた)のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡時(=遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に「相続」により承継される。

[c-1]この帰結として、相続させる旨の遺言によって当該遺産(不動産)の所有権を取得した特定相続人は、単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができる。遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではない(最三判平成7・1・24集民174号67頁)。

[c-2]さらに、最二判平成14・6・10集民206号445頁によれば、相続させる遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異ならず、(法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるという命題から)当該相続人は、相続させる遺言によって取得した不動産を登記なくして第三者に対抗できる。□潮見202-4,287

[d]当該特定相続人は相続放棄の自由を有するから、その者が相続放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになる。

[e]相続させる遺言によって遺留分を侵害される他の相続人は、遺留分減殺請求権の行使をすることができる。

・なお、対象とされた特定遺産の価額が特定相続人の法定相続分を超えることがある。この場合、「特定相続人について相続分の指定がなされており、かつ、当該遺産をもって当該指定相続分を充たすようにとの遺産分割方法の指定がなされている」と解される。香川判決以前の高裁判例として、東京高判昭和45・3・30高民集23巻2号135頁。□潮見203

 

[「すべての遺産を特定の相続人に相続させる」記載の意義]

・先の「対象とされた特定遺産の価額が特定相続人の法定相続分を超える場合の処理」と平仄を合わせるならば、特定相続人にすべての遺産を相続させる旨の遺言は、「特定相続人の相続分を100%と指定する(+すべての遺産をもって当該指定相続分を充たす旨の遺産分割方法の指定)」と解されよう。□道垣内715

最三平成21・3・24民集63巻3号427頁も、相続債務の承継をめぐる争点において、「すべて相続させる=(原則として)100%相続分指定」との理を肯定している。□潮見204-5

 

[遺贈の受遺者は第三者のみ?]

・以上の理解からすれば、「相続人に対する遺贈」は原則として観念できず、「(特殊な)遺産分割方法の指定」「指定相続分」のいずれかに収斂することになろう。すなわち、遺贈については、第三者の遺贈を論ずれば足りる。□道垣内716-7 ※ホントか?

 

潮見佳男『相続法〔第5版〕』[2014]

道垣内弘人『リーガルベイシス民法入門〔第2版〕』[2017]

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