goo blog サービス終了のお知らせ 

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

転勤を拒否する。

2015-09-14 | 日記

転勤を拒否する。


1 転勤を拒否された場合に最初にすべきこと
 転勤を拒否する社員がいる場合は,まずは転勤を拒否する事情を聴取し,転勤拒否にもっともな理由があるのかどうかを確認します。
 転勤が困難な事情を社員が述べている場合は,より具体的な事情を聴取するとともに裏付け資料の提出を求めるなどして対応して下さい。認められる要望かどうかは別にして,本人の言い分はよく聞くことが重要です。
 本人の言い分を聞く努力を尽くした結果,転勤拒否にもっともな理由がないとの判断に至った場合は,転勤命令に応じるよう説得するのが原則です。
 それでも転勤命令に応じない場合は,懲戒解雇 等の処分を検討せざるを得ませんが,懲戒解雇等の処分が有効となる前提として,転勤命令が有効である必要があります。


2 転勤命令の有効性
 転勤命令が有効というためには,
 ① 使用者に転勤命令権限があり
 ② 転勤命令が権利の濫用にならないこと
が必要です。


3 転勤命令権限
 就業規則に転勤命令権限についての規定を置いて周知させておけば,通常は①転勤命令権限があるといえます。併せて,入社時の誓約書で転勤等に応じること,就業規則を遵守すること等を誓約させておくことが望ましいところです。
 社員から,勤務地限定の合意があるから転勤命令に応じる義務はないと主張されることがありますが,勤務地が複数ある会社の正社員については,勤務地限定の合意はなかなか認定されません。他方,パート,アルバイトについては,勤務地限定の合意が存在することが多いところです。
 平成11年1月29日基発45号では,労働条件通知書の「就業の場所」欄には,「雇入れ直後のものを記載することで足りる」とされており,「就業の場所」欄に特定の事業場が記載されていたとしても,直ちに勤務地限定の合意があることにはなりません。ただし,それが雇入れ直後の就業場所に過ぎないことや支店への転勤もあり得ることをよく説明しておくことが望ましいところです。


4 転勤命令が権利の濫用にならないか
 ①使用者に転勤命令権限の存在が認定されると,次に,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが問題となります。正社員については,通常は転勤命令権限が認められるため,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが主要な争点になることが多いところです。
 使用者による転勤命令は,
 ① 業務上の必要性が存しない場合
 ② 不当な動機・目的をもってなされたものである場合
 ③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等,特段の事情のある場合でない限り権利の濫用になりません(東亜ペイント事件最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)。


5 ①業務上の必要性
 東亜ペイント事件最高裁判決が,「右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示していることもあり,企業経営上意味のある転勤であれば通常は①業務上の必要性が肯定されます。
 ただし,①業務上の必要性の程度は,②③の主張立証にも影響するため,①業務上の必要性が高いことの主張立証はしっかり行う必要があります。


6 ②不当な動機・目的
 退職勧奨 したところ退職を断られ転勤を命じたような場合や,労働組合の幹部に転勤を命じた場合に,問題にされることが多い印象です。
 ①転勤させる必要性が高ければ,②不当な動機・目的がないと言いやすくなるので,②不当な動機・目的がないといえるようにするためにも,①業務上の必要性を説明できるようにしておくことが重要です。


7 ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益
 まずは,単なる不利益の有無が問題となるのではなく,「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」の有無が問題となることに留意して下さい。
 社員の配偶者が仕事を辞めない限り単身赴任となり,配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるとか,多少の経済的負担が生じるといった程度では,③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとはいえません。
 単身赴任手当や家族と会うための交通費の支給,社宅の提供,保育介護問題への配慮,配偶者の就職の斡旋等の配慮は必須のものではありませんが,③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無を判断するにあたっては,転勤を命じられた社員の不利益を緩和する措置が取られているかどうかといった点も考慮されます。
 就業場所の変更を伴う配置転換については,子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があること(育児介護休業法26条)には注意が必要です。育児,介護の問題ついては,本人の言い分を特によく聞き,転勤命令を出すかどうか慎重に判断することをお勧めします。
 本人の言い分をよく聞かずに一方的に転勤を命じ,本人から育児,介護の問題を理由として転勤命令撤回の要求がなされた場合に転勤命令撤回の可否を全く検討していないなど,育児,介護の問題に対する配慮がなされていない場合は,③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして,転勤命令が無効とされるリスクが高まります。
 裁判例の動向からすると,特に,家族が健康上の問題を抱えている場合や,介護が必要な場合の転勤については,慎重に検討したほうが無難な印象があります。


8 転勤命令違反を理由とした懲戒解雇の有効性
 転勤命令自体が無効の場合は,転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇 は認められません。
 有効な転勤命令を正社員が拒否した場合は重大な業務命令違反となるため,懲戒解雇は懲戒権の濫用(労契法15条)とはならず有効と判断されることが多いですが,拙速に懲戒解雇を行った場合は懲戒権を濫用したものとして無効と判断されることがあります。
 社員が転勤に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供する等して転勤命令に従うよう説得する努力を尽くし,転勤命令に従う見込みが乏しいことを確認してから,懲戒解雇すべきでしょう。懲戒解雇を急ぐべきではありません。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


金銭を着服・横領したり,出張旅費や通勤手当を不正取得したりして,会社に損害を与える。

2015-09-14 | 日記

金銭を着服・横領したり,出張旅費や通勤手当を不正取得したりして,会社に損害を与える。


1 客観的証拠の収集と事情聴取
 金銭の不正取得が疑われる場合,まずは不正行為を裏付ける客観的証拠をできるだけ収集して下さい。不正が疑われる社員から事情聴取する際,客観的証拠と照らし合わせることにより,嘘や矛盾点が見抜きやすくなります。
 もっとも,金銭の不正取得は,本人の説明なしでは実態が分かりにくいことも多いため,客観的証拠を収集する努力をある程度したら,不正が疑われる社員から事情聴取して下さい。事情聴取に当たっては,事情聴取書をまとめてから本人に署名させたり,事情説明書を提出させたりして,証拠を確保します。
 事情説明書等には,何月何日の何時頃にどこで誰が何をしたのかといった問題となる「具体的事実」を記載させることが重要です。本人提出の事情説明書等に「いかなる処分にも従います。」と書いてあったとしても,問題となる具体的事実が記載されておらず,具体的事実を立証できないのであれば,懲戒処分や解雇 は無効となるリスクが高くなります。
 本人が提出した事情説明書等に説明が不十分な点や虚偽の事実や不合理な弁解があったとしても,突き返して書き直させようとしたりせずにそのまま受領し,追加の説明を求めるようにして下さい。せっかく提出した書面を突き返したばかりに,必要な証拠が不足して,訴訟活動が不利になることがあります。虚偽の事実や不合理な弁解が記載されている書面を確保することにより,本人の言い分をありのまま聴取していることや,本人が不合理な弁解をしていること等の証明もしやすくなります。


2 配置転換・降格
 当該業務に従事する適格性が疑われる事情があれば,配置転換を検討します。賃金額が減額されない配置転換であれば,明らかに嫌がらせ目的と評価できるようなものでない限り,無効にはなりにくいところです。
 管理職 としての適格性が疑われる場合には,人事権を行使して管理職から降格させることも考えられます。降格に伴い賃金額が減額される場合には,降格が人事権の濫用と評価されないよう,金銭の不正取得について十分に調査するなどして,降格の必要性を立証できるようにしておく必要があります。降格に同意する旨の書面を取得できるのであれば取得しておいて下さい。同意書を提出した場合には,懲戒処分の程度を検討する際にプラスの情状として考慮することになります。


3 懲戒処分
 不正があったことが証拠により客観的に認定できる場合は,不正行為の内容・程度・情状に応じた懲戒処分を行います。不正が疑われるだけで,証拠により客観的に不正行為が認定できない場合は,懲戒処分を行うことはできません。
 懲戒処分の程度を決定するに当たっては,故意に金銭を不正取得したのか,単なる計算ミス等の過失に過ぎないのかの区別が重要な考慮要素となります。
 社員が故意に金銭を不正取得したことが判明した場合は,懲戒解雇 することも十分検討に値します。ただし,不正取得した金銭の額,会社の実質的な損害額,懲戒歴の有無,それまでの会社に対する貢献度,反省の程度等によっては,より軽い処分にとどめるのが適切な場合もあります。
 過失に過ぎない場合は重い処分をすることはできないケースがほとんどなので,注意指導,始末書の提出,軽めの懲戒処分などにより対処することになります。


 自主退職を申し出られた場合の対応
 本人が自主退職を申し出た場合に,懲戒解雇 ・諭旨解雇等の退職の効力を伴う懲戒処分をせずに自主退職を認めるかどうかは,
 ① 重い懲戒処分をして職場秩序を維持回復させる必要性
だけでなく,
 ② 自主退職を認めた方が紛争になりにくいこと
 ③ 懲戒解雇・諭旨解雇等の退職の効力を伴う重い懲戒処分をした場合は紛争になりやすく,訴訟で懲戒処分が有効と判断されるためのハードルが高いこと
 ④ 懲戒解雇に伴い退職金を不支給とした場合は紛争になりやすく,訴訟においては懲戒解雇が有効であっても,退職金の一部の支給が命じられることが多いこと
等も考慮して,冷静に判断して下さい。


5 退職勧奨 する際の注意点
 「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。懲戒解雇となれば,再就職にも悪影響があるだろう。退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できるような事案ではなかったことが後から判明したようなケースは,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等の主張が認められ,退職が無効となったり,取り消されたりするリスクが高いところです。
 懲戒解雇できる事案でもないのに,懲戒解雇の威嚇の下,不当に自主退職に追い込んだと評価されないようにして下さい。退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多いということにも留意して下して下さい。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となることがあります。


6 不正取得した金銭の返還方法
 不正に取得した出張旅費等の金銭は,「書面」で返還を約束させ,会社名義の預金口座に振り込ませるか現金で現実に支払わせるのが望ましいところです。賃金から天引きすると,賃金全額払いの原則(労基法24条1項)に違反するものとして,天引き額の支払を余儀なくされることがあります。
 月例賃金を減額して実質的に損害賠償金を回収しようとする事案が散見されますが,賃金減額の有効性を争われて差額賃金の請求を受けることが多いですし,退職されてしまった場合には回収が困難となりますので,お勧めしません。


7 身元保証人に対する損害賠償請求
 社員に対し損害賠償請求できる場合であっても,身元保証人に対し同額の損害賠償請求できるとは限りません。裁判所は,身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき社員の監督に関する会社の過失の有無,身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いた注意の程度,社員の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌するものとされており(身元保証に関する法律5条),賠償額が減額される可能性があります。身元保証の最長期間は5年であり(身元保証に関する法律2条1項),自動更新の合意は無効と考えるのが一般的です(同法6条参照)。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト  


会社に無断でアルバイトをする。

2015-09-14 | 日記

会社に無断でアルバイトをする。


 会社に無断でアルバイトしている社員がいる場合は,まずはよく事情聴取する必要があります。
 アルバイトしている事実が確認され,それが企業秩序を乱すようなものである場合は,口頭で注意,指導して,アルバイトを辞めてもらうことになります。
 会社に無断でアルバイトしている社員に対し,アルバイトを辞めるよう促した場合,アルバイトを辞める旨の回答が得られるケースがほとんどです。

 単にアルバイトを辞めるよう説得するにとどまらず,会社に無断でアルバイトをした社員に対し,何らかの処分をしようとする場合は,話しは簡単ではありません。
 就業時間外の行動は自由なのが原則のため,社員の兼業を禁止するためには,就業規則に兼業禁止を定めて,兼業禁止を労働契約の内容にしておく必要があります。
 そして,何らかの処分をするためには,兼業により十分な休養が取れないなどして本来の業務遂行に支障を来すとか,会社の名誉信用等を害するとか,競業他社での兼業であるとかいった事情が必要となります。
 企業秩序を乱すようなアルバイトを辞めるよう注意,指導しても辞めようとしない場合は,書面で注意,指導し,それでも改善しない場合は,懲戒処分を検討することになります。
 解雇 までは難しい事案が多く,紛争になりやすいので,解雇に踏み切る場合は,その有効性について慎重に検討すべきでしょう。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

2015-09-14 | 日記

注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。


1 パワハラ とは
 パワーハラスメントは法律上の用語ではなく,統一的な定義はありません。
 平成22年1月8日付け人事院の通知では,パワーハラスメントは,一般に「職権などのパワーを背景にして,本来の業務の範疇を超えて,継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い,それを受けた就業者の働く環境を悪化させ,あるいは雇用について不安を与えること」を指すとされています。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』(平成24年1月30日)は,「職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。


2 パワハラの行為類型
 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では,以下のようなものを挙げています。
 ① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
 ② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
 ③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
 ④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害(過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
 ⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)


3 パワハラを巡る紛争の実態
 パワハラを不満に思い,公的機関などに相談している労働者の数は多いが,パワハラを理由とした損害賠償請求がメインの訴訟,労働審判 はあまり多くなく,解雇 無効を理由とした地位確認請求,残業代 請求等に付随して,損害賠償請求がなされることが多いです。解雇無効を理由とした地位確認請求,残業代請求等に付随して,パワハラを理由とする損害賠償請求がなされた場合は,業務指導に必要のない不合理な言動をしているような場合でない限り請求棄却になりやすく,仮に不法行為責任等が認められたとしても慰謝料の金額は低額になりやすい傾向にあります。


4 適法性と適切性
 パワハラが問題とされる言動には,
 ① 違法な言動
 ② 適法だが不適切な言動
 ③ 適切な言動
の3段階があります。
 ②適法だが不適切な言動は数多く見られますが,①違法な言動とまで評価される言動はごく一部に過ぎません。「パワハラかどうか?」という問題設定がなされることが多いですが,程度の問題として考えた方が実態を正確にイメージすることができます。不適切な言動であっても違法と評価されるとは限りませんが,違法と評価されなかったからといって直ちに適切な言動というわけではありません。


5 違法性の判断基準
(1) 違法なパワハラに該当するかどうかの一般的な判断基準
 「行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうか」により,不法行為法上違法と評価されるかどうかを検討するのが通常です。
 単純化して説明すると,
 ① 業務遂行上必要な言動か(目的)
 ② 社会通念上,許容される範囲を超える言動か(程度)
を検討することになります。
 ①指導教育目的等の業務遂行上必要な言動であれば,やり過ぎない限り,②社会通念上,許容される範囲を超えていないと評価されることになります。他方,①業務上必要のない言動の場合は,②社会通念上,許容される範囲を超えると評価されやすくなります。
 セクハラの対象となる性的言動は業務を遂行する上で不要なものであるのに対し,パワハラの対象となる指導教育,業務命令等は業務を遂行する上で必要なものであるため,業務を遂行する上で必要のない性的言動と比較して,違法とまでは評価されにくい傾向にありますが,業務遂行上必要のない言動については,違法と評価されやすくなります。
(2) 参考裁判例
 ア ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件東京地裁平成24年3月9日判決
 「この点,世上一般にいわれるパワーハラスメントは極めて抽象的な概念で,内包外延とも明確ではない。そうだとするとパワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには,質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。したがって,パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係,当該行為の動機・目的,時間・場所,態様等を総合考慮の上,『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が,職務を遂行する過程において,部下に対して,職務上の地位・権限を逸脱・濫用し,社会通念に照らし客観的な見地からみて,通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合に限り,被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。」
 イ 海上自衛隊事件福岡高裁平成20年8月25日判決
 「一般に,人に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合には,心身の健康を損なう危険があると考えられるから,他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は,原則として違法であるというべきであり,国家公務員が,職務上,そのような行為を行った場合には,原則として国家賠償法上違法であり,例外的に,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として,違法性が阻却される場合があるものというべきである。」
(3) 労災認定において心理的負荷が強いとされている言動
 パワハラとの関係では,以下のようなものについて,客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。
 ① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた
 ② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
 ③ 治療を要する程度の暴行を受けた
 ④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑥ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑦ 業務に関連し,重大な違法行為(人の生命に関わる違法行為,発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた
 ⑧ 業務に関連し,反対したにもかかわらず,違法行為を執拗に命じられ,やむなくそれに従った
 ⑨ 業務に関連し,重大な違法行為を命じられ,何度もそれに従った
 ⑩ 業務に関連し,強要された違法行為が発覚し,事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)
 ⑪ 客観的に,相当な努力があっても達成困難なノルマが課され,達成できない場合には重いペナルティがあると予告された
 ⑫ 退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,執拗に退職を求められた
 ⑬ 恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された
 ⑭ 突然解雇の通告を受け,何ら理由が説明されることなく,説明を求めても応じられず,撤回されることもなかった
 ⑮ 非正規社員であるとの理由等により仕事上の差別,不利益取扱いを受け,仕事上の差別,不利益取扱いの程度が著しく大きく,人格を否定するようなものであって,かつこれが継続した

6 業務指導の重要性
 近年では,上司の言動が気にくわないと,何でも「パワハラ」だと言い出す社員が増えています。そのような社員は,勤務態度等に問題があることが多く,むしろ,注意,指導,教育の必要性が高いことが多い印象です。部下にとって不快な上司の言動が何でもパワハラに該当するわけではありません。上司の部下に対する注意,指導,教育は必要不可欠なものであり,上司に部下の人材育成を放棄されても困ります。パワハラにならないよう神経質になるあまり,上司が部下に対して何も指導できないようなことがあっては本末転倒です。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』は,
 「個人の受け取り方によっては,業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも,これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には,パワーハラスメントには当たらないものとなる。」
 「なお,取組を始めるにあたって留意すべきことは,職場のパワーハラスメント対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにするということである。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し,上司としての役割を遂行することが求められる。」
としています。


7 コミュニケーションの重要性
 パワハラ紛争の原因には様々なものがありますが,コミュニケーション不足又はコミュニケーションの取り方が下手なことが主な原因となっているものが多い印象です。コミュニケーションが不足していたり,コミュニケーションの取り方が下手だったりすると,パワハラだと受け取られやすくなります。コミュニケーション能力を向上させるとともに,十分なコミュニケーションを取ることができるよう努力して下さい。
 コミュニケーション能力が不足しているためにパワハラだと言われてしまう場合は,懲戒処分を行うよりも,研修,降職,配置転換等により対処した方が有効な場合もあります。


8 無断録音
 パワハラの状況は,部下により無断録音されて,証拠として提出されることが多いです。訴訟では,無断録音したものが証拠として認められてしまうのが通常です。
 部下が上司をわざと挑発して,不相当な発言を引き出そうとすることもあります。無断録音されていても問題が生じないよう指導の仕方に気をつけて下さい。


9 違法なパワハラと評価されないための心構え
 自分の言動が録音されていて,社長,上司,裁判官等に聞かれても問題ないような言動を心がければ,通常は違法なパワハラと判断されるようなことはしないのが通常です。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


勤務態度が悪い。

2015-09-14 | 日記

勤務態度が悪い。


1 注意指導
 勤務態度が悪い社員は,注意指導してそのような勤務態度は許されないのだということを理解させる必要があります。訴訟や労働審判 になって弁護士に相談するような事例では,当然行うべき注意指導がなされていないことが多い印象があります。
 勤務態度が悪い社員を放置することにより,他の社員のやる気がそがれたり,新入社員がいじめられたり,仕事を十分に教えてもらえなかったりして,退職してしまったりすることがありますし,金品の横領,手当等の不正受給の温床にもなります。
 上司が,勤務態度が悪い社員に対して注意指導した場合,反発を買うことは珍しくなく,トラブルになることもあるせいか,注意指導を怠る上司が散見されます。当然行うべき注意指導を行うことができる上司は,注意指導できない上司よりも高く評価する必要があります。勤務態度が悪い社員が注意指導に従わない場合には,直属の上司1人に任せきりにせず組織として対応して下さい。当然行うべき注意指導を行って勤務態度が悪い社員の反発を買うよりも,勤務態度が悪い社員を放置したままにしておいて異動を待った方がマイナス評価がつかず得だと考える上司が出てこないようにする必要があります。
 長年にわたって勤務態度の悪い社員を放置してきた職場において,新任の上司があるべき勤務態度に是正しようとして反発を買い,トラブルになることが多いところです。勤務態度が悪くても長年放置され,態度の悪さが年々悪化してきた社員の態度を改めさせるのは難易度が高く,解雇・退職の問題に発展することも多いですので,勤務態度の悪さが悪化する前に,対処する必要があります。こういった社員は,時間をかけて根気強く注意指導していく必要があり,注意指導しても従おうとしないからといって,放置してはいけません。 
 口頭で注意指導しても勤務態度の悪さが改まらない場合は,将来の懲戒処分,退職勧奨,解雇,訴訟活動を見据えて,書面で注意指導します。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟や労働審判になった場合,勤務態度の悪さを改めるよう注意指導した証拠を確保することもできます。
 当事務所に相談にいらっしゃった会社経営者から「自分の勤務態度が悪いことや何度も注意指導されてきたことは,本人が一番よく分かっているはずです。」との説明を受けることが多いですが,訴訟や労働審判では,労働者側から,自分の勤務態度は悪くないし,注意指導を受けたことは(ほとんど)ないと主張がなされるのがむしろ通常です。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,当該社員の勤務態度の悪さが甚だしいことや十分に注意指導してきたことを立証するのが困難となってしまいます。
 「上司も,部下も,同僚も,取引先もみんな,彼(女)の勤務態度が悪いことを知っていますし,法廷で証言してくれると言っています。」という話をお聞きすることも多いですが,一般的には,紛争が表面化してから作成された上司・同僚・部下の陳述書や法廷での証言はあまり証拠価値が高くありません。取引先の社員に訴訟で証人になるよう頼むことは,それ自体ハードルが高いことが多いです。「彼(女)の勤務態度が悪い。」という点では関係者の意見が一致していたとしても,何月何日の何時頃,どこで何をどのようにしたから勤務態度が悪いと評価することができるのかといった具体的事実を聞いても,具体的日時場所等を説明できないことは珍しくありません。勤務態度が悪いことを基礎付ける具体的事実を説明できないと証拠価値が高く評価されにくくなります。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。


2 懲戒処分
 書面で注意指導しても勤務態度の悪さが改まらない場合は,懲戒処分を検討することになります。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていきます。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが,懲戒処分もせずにいきなり解雇したのではよほど悪質な事情がある場合でない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも,勤務態度が悪い社員に対して注意指導や懲戒処分ができないようでは,組織として十分に機能しているとはいえません。必要な注意指導や懲戒処分を行い,職場の秩序を維持するのは,会社経営者の責任です。


3 退職勧奨
 勤務態度の悪さの程度が甚だしく,十分に注意指導し,懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず,改善の見込みが乏しい場合には,会社を辞めてもらうほかありませんので,退職勧奨 解雇 を検討することになります。十分に注意指導し,繰り返し懲戒処分を行っており,解雇が有効となりそうな事案では,解雇するまでもなく,退職勧奨に応じてもらえることが多いところです。
 他方,勤務態度の悪さの程度がそれほどでもなく,十分な注意指導や懲戒処分がなされていない等の理由から解雇が有効とはなりそうもない事案,誠実に勤務する意欲が低かったり能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案,本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等では,退職届を提出させる難易度が高く,退職に同意してもらうために支払う割増退職金等の金額も高くなりがちです。


4 解雇
 勤務態度の悪さの程度が甚だしく,十分に注意指導し,懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず,改善の見込みが低い場合には,退職勧奨と平行して普通解雇 懲戒解雇 を検討することになります。
 普通解雇(狭義)とは,能力不足,勤務態度不良,業務命令違反等,労働者に責任のある事由による解雇のことをいい,懲戒解雇とは,使用者が有する懲戒権の発動により,一種の制裁罰として,企業秩序に違反した労働者に対し行われる解雇のことをいいます。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用や懲戒権濫用当たらないことも必要となります。②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないというためには,普通解雇や懲戒解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど社員の勤務態度の悪さの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に普通解雇や懲戒解雇に値すると考えただけでは足りません。
 勤務態度が悪い社員の普通解雇や懲戒解雇が②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないかを判断するにあたっては,勤務態度の悪さが業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,勤務態度が悪い理由,謝罪・反省の有無,勤務態度の悪さを是正するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されます。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


遅刻や無断欠勤が多い。

2015-09-09 | 日記

遅刻や無断欠勤が多い。


1 注意指導
 遅刻や無断欠勤が多い社員は,注意指導して遅刻や無断欠勤をしてはいけないのだということを理解させることが重要です。当たり前の話のように聞こえるかもしれませんが,訴訟や労働審判 になって弁護士に相談するような事例では,当然行うべき注意指導がなされていないことが多いという印象です。
 従来,ルーズな勤怠管理をしていた職場の場合,従来であれば容認されていた程度の遅刻や無断欠勤をしたからといって,直ちに処分することは困難ですので,今後は遅刻や無断欠勤には厳しく対処する旨伝え,それでも改善しない場合に懲戒処分等を検討していくことになります。
 口頭で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,書面で注意指導することになります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,遅刻や無断欠勤を注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇 は無効であるといった主張がなされることが多いです。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラ であるなどと反発を受けることも珍しくありません。


2 懲戒処分
 書面で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが,懲戒処分もせずにいきなり解雇したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,よほど悪質な事情がある場合でない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも,遅刻や無断欠勤の多い問題社員に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,会社経営者や上司として当然行うべき仕事ができていないと言わざるを得ません。必要な注意指導や懲戒処分を行い,職場の秩序を維持するのは,会社経営者や上司の責任です。


3 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても遅刻や無断欠勤が改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇 退職勧奨 を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇 事由,懲戒解雇 事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか 等を検討する必要があります。


4 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要であり,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,②解雇権又は懲戒権を濫用したものとして無効となってしまいますし,そもそも①解雇事由に該当しない可能性もあります。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 遅刻や無断欠勤が多い社員の解雇の有効性を判断するにあたっては,遅刻や欠勤が業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,遅刻や欠勤の理由,謝罪・反省の有無,遅刻欠勤を防止するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されることになります。
 注意指導,懲戒処分等で遅刻や無断欠勤をしなくなるのであれば,注意指導等により是正すれば足りるのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では遅刻や無断欠勤の頻度が改善されないかどうかが問題となります。
 客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分をしても遅刻や無断欠勤は改善されないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


協調性がない。

2015-09-09 | 日記

協調性がない。


1 協調性のなさの程度
 協調性がないといっても程度問題であり,通常許される個性の範囲内に収まっている程度の問題なのか,それとも,社員としての適格性が問われ,又は企業秩序を阻害するものなのかを見極める必要があります。よく検討しないまま主観的に協調性がないと決めつけてしまうのは危険です。周囲の社員に問題があることもあるので,客観的に判断するためにも,本人の言い分もよく聴取して事実確認をする必要があります。

2 注意指導
 協調性のない社員の対処法としては,注意指導して,周囲と協調性を保つことの重要性を理解させることが何よりも重要です。
 口頭で注意指導しても改善しない場合は,書面で注意指導する必要がある場合もあります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,協調性のなさを注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇 は無効であるといった主張がなされることが多くなっています。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。

3 配置転換
 配転の余地があるのであれば,協調性がないとされている社員を別の部署に配転させ,配転先でもやはり協調性がないのか確かめてみた方が無難です。周囲の社員に問題があることもあり,配転先では協調性がないとは評価されない可能性があります。他方,配転先でも協調性がないために周囲との軋轢が生じるようであれば,本人に問題がある可能性が高いと言わざるを得ません。

4 懲戒処分
 書面で注意指導しても改善しない場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありませんが,懲戒処分もせずにいきなり解雇したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,悪質な事情がない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高くなります。
 そもそも,協調性のない問題社員 に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,かえって周囲の社員が迷惑を被って職場の雰囲気が悪くなってしまい,場合によっては退職者が続出することになりかねません。問題点があるのに十分な注意指導もできず,懲戒処分にもできず,いきなり解雇するほかないというのでは,コミュニケーション不足の職場と言うほかありません。必要な注意指導や懲戒処分を行うとともに,職場の雰囲気を良くするためにリーダーシップを発揮するのは,会社経営者の責任です。

5 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても著しい協調性のなさが改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇 退職勧奨 を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇 事由,懲戒解雇 事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。

6 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要ですし,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,そもそも①解雇事由に該当しないだとか,②解雇権又は懲戒権を濫用したとして,無効となってしまいます。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 協調性を欠くことを理由とする解雇が客観的に合理的なものであるかどうかを判断するにあたっては,協調性が特に必要とされる業務内容,職場環境かどうかという点を効力する必要があり,チームワークが重視される共同作業が多い業務内容なのか,少人数の職場なのか等を検討する必要があります。
 注意指導,懲戒処分等で協調性のなさが改善されるのであれば,注意指導や懲戒処分で改善させればいいのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では著しい協調性のなさの改善が期待できないかどうかが問題となります。客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分等をしても改善の見込みがないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分等を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


労働者代表の意見聴取や労基署への届出を怠った場合,就業規則変更の効力はどうなりますか。

2015-09-09 | 日記

労働者代表の意見聴取や労基署への届出を怠った場合,就業規則変更の効力はどうなりますか。


 就業規則を変更するに当たっては,労働者代表の意見聴取や労基署への届出が必要となります(労契法11条・労基法90条)。
 しかし,就業規則変更の効力について定めた労契法10条は,就業規則変更が有効となるための要件として労働者代表の意見聴取や労基署への届出を規定していません。
 したがって,労働者代表の意見聴取や労基署への届出がなかったからといって直ちに就業規則変更の効力が否定されるものではなく,同条の「その他の就業規則の変更に係る事情」として考慮されるにとどまるものと考えられます。

 甲商事事件東京地裁平成27年2月18日判決も,以下のとおり判示し,私見と同様の結論を採っています。
 「本件では,就業規則の変更にあたって,労働基準監督署への届出がなされ(書証略),外形上,労働者代表者の意見聴取もなされている(書証略)ところであるが,原告らは就業規則の変更に伴う労働者の過半数代表者の意見聴取手続が行われていないと主張しており,従業員代表を選ぶための投票等の手続がとられた事実も証拠上認めることはできない(証拠略)。」
 「もっとも,就業規則の変更にあたっては,従業員代表の意見聴取,労働基準監督署への届出がなされていることが望ましい(労契法11条,労基法90条)ものの,就業規則の変更の有効性を認めるための絶対的な条件であるとはいえず,これらの事情は,労契法10条における「その他の就業規則の変更に係る事情」として,合理性判断において考慮される要素と解される。」
 「そうすると,本件においては,就業規則の変更は労働基準監督署に届け出られているものの,従業員代表の意見聴取がなされているとは認め難い。しかしながら,このことだけをもって,就業規則の変更が無効になるとまでは解されない。」

 

≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


労働契約書に所定労働時間が8時間と明記されているが,就業規則には7時間30分と規定されている場合

2015-09-09 | 日記

所定労働時間が8時間であることが全従業員の共通認識であり,労働契約書にも所定労働時間が8時間と明記されていますが,就業規則には所定労働時間が7時間30分と規定されています。所定労働時間は8時間ですか,それとも7時間30分ですか。


 所定労働時間が8時間であることが全従業員の共通認識であったとしても,就業規則の明文の効力を否定する理由にはなりません。
 また,就業規則で定める基準に達しない労働条件は無効であり,就業規則で定める基準が適用されますので(労契法12条),労働契約書に所定労働時間が8時間と明記されていたとしても無効となり,就業規則で定める所定労働時間(7時間30分)が適用されます。
 したがって,所定労働時間が8時間であることが全従業員の共通認識であり,労働契約書にも所定労働時間が8時間と明記されていたとしても,訴訟等において(元)従業員から,就業規則に所定労働時間が7時間30分と規定されているから所定労働時間は7時間30分だと主張された場合は,所定労働時間は7時間30分であると認定される可能性が高いと思います。
 甲商事事件東京地裁平成27年2月18日判決は,設問と類似の争点に関し,上記説明と同様の理由に加え,「就業規則は,使用者が労働者の同意を必要とせずに,一方的に定めることができるものである以上,その記載を誤って変更してしまったにしても,その責任は使用者において負うべきである。」などとして,所定労働時間を7時間30分と認定しています。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


訴訟準備に時間を費やしたために他の仕事ができなかったことによる損害を請求することはできますか?

2015-09-09 | 日記

会社の機密情報を持ち出した元従業員に対する損害賠償請求訴訟において,訴訟準備に時間を費やしたために他の仕事ができなかったことによる損害について請求することはできますか。


 会社の機密情報を持ち出した元従業員に対する損害賠償請求訴訟において,機密情報の持ち出しが違法と判断された場合,機密情報の持ち出しと相当因果関係のある損害については請求することができます。
 もっとも,訴訟準備に時間を費やしたために他の仕事ができなかったことによる損害が機密情報の持ち出しと相当因果関係のある損害であることを主張立証することは必ずしも容易ではありません。
 通常は,訴訟準備に時間を費やした時間数やその具体的作業内容,当該訴訟準備がなければ利益を得られるはずだった他の仕事の具体的内容等の主張立証をすることになりますが,一般的にはハードルが高いように思います。

 レガシィ事件東京地裁平成27年3月27日判決においても,原告会社は,情報漏洩行為により代表取締役らが調査を行ったり,和解交渉や準備書面作成のため代理人と打ち合わせしたり,各種資料作成をするなどして時間を費やしたことにより,本来の税務・営業活動等に従事することができなくなった時間が生じ,その時間に業務を行うことができなくなって利益を喪失したと主張しましたが,認められませんでした。
 民事訴訟法248条では,「損害が生じたことが認められる場合において,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる。」と定めており,一定の場合に損害の立証の負担の軽減が図られていますが,同判決では,原告会社主張の損害は,民事訴訟法248条にいう「損害が生じたことが認められる場合」という程度に立証されておらず,また,そもそも「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき」に当たるものでもないから,同条による相当な損害の認定もできないとして,同条の適用を否定しています。

 なお,会社の機密情報を持ち出した元従業員に対する損害賠償請求訴訟において請求すべき損害としては,機密情報持ち出しにより顧客を喪失したなどの事情があればその損害の請求をすることが考えられますし,そのような損害が立証できない場合であっても慰謝料の請求をすることが考えられると思います。


≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをした場合の法的リスク

2015-09-09 | 日記

女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをした場合,どのような法的リスクがありますか。


 女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをした場合,労基法4条に違反しますので,使用者は6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
 また,民事訴訟を提起された場合,得られたであろう賃金との差額相当額の損害賠償請求を受ける可能性があります。差額の賃金請求が認められるかどうかについては,見解に争いがあり,定説はありません。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


男性にのみ住宅手当や家族手当を支給し,女性には支給しないという扱いにすることはできますか。

2015-09-09 | 日記

男性にのみ住宅手当や家族手当を支給し,女性には支給しないという扱いにすることはできますか。


  男性にのみ住宅手当や家族手当を支給し,女性には支給しないという扱いにすることは,労働者が女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをすることを禁止している労基法4条に違反しますので,このような扱いにすることはできません。


≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


新たに採用する女性の賃金を一律に男性の賃金よりも低く設定するような取扱いをすることはできますか?

2015-09-09 | 日記

過去に仕事の能率が悪い女性がいたことから,新たに採用する女性の賃金を一律に男性の賃金よりも低く設定しようと考えているのですが,このような取扱いをすることはできますか。


 労基法4条は,労働者が女性であることを理由として,賃金について,男性と差別的取扱いをすることを罰則付きで禁止しています。
 具体的に能力差があることが確認できているわけではないのに,新たに採用する女性の賃金を一律に男性の賃金よりも低く設定することは,労働者が女性であることを理由として賃金について男性と差別的取扱いをするものとして労基法4条に違反しますので,このような扱いをすることはできません。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」に関する調査結果を利用するに当たっての注意点

2015-09-09 | 日記

平成27年6月15日に公表された「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」に関する調査結果を利用するに当たっての注意点を教えて下さい。


 平成27年6月15日に公表された「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」に関する調査結果は,紛争解決システムの運用の実態の概要を理解するために参考にすることはできるかもしれません。
 しかし,この調査結果は,あくまでも一般的傾向を公表しているに過ぎず,個別具体的事案では同調査結果における一般論とはかけ離れた結果になることも起こり得ます。
 したがって,同調査結果は一般的傾向の理解に使うにとどめ,個別具体的事案の判断においては同調査結果に頼り過ぎないよう注意する必要があります。
 個別事案の対応に当たって知る必要があるのは,当該個別事案の見込みであり,一般論では足りないのです。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト


社員が生き生きと働くことができ,万が一訴訟を提起された場合でも勝てるようにするためには

2015-09-08 | 日記

社員が生き生きと働くことができ,労使紛争が起きにくく,万が一労働問題に関する訴訟を提起された場合でも勝てるようにするためには,どういったイメージで労務管理を行えばよろしいでしょうか。


 労働問題に関する訴訟で勝てるようにするために法令を遵守することは当然必要となりますが,労務管理の在り方としては,形式的に法令を遵守しているだけでは十分とはいえません。社員の多くが「この会社で働くことができて幸せだ。」と思いながら働いている状態にすることを目指すべきですし,少なくとも「他の会社で働くよりは,うちの会社で働いていた方がまだ幸せ(マシ)だ。」くらいは思ってもらえるようにする必要があります。
 この会社で働くことができて幸せだと思ってもらえるような労務管理を行うことにより,社員が生き生きと働くことができるようになり,会社も利益が上がりやすくなりますし,社員のキャリア形成にもプラスに働くという好循環が生まれることになります。また,労使紛争は起きにくくなりますし,一部の問題社員との間で労使紛争が生じて訴訟を提起されたとしても,勝つ確率が格段に高くなります。
 他方で,社員が「他の会社で働くよりも不幸だ。(良い転職先が見つかったら,すぐにでも辞めてやる。)」と思いながら働いているようでは,労使紛争が起きやすく,訴訟でも負ける確率が高くなります。社員の士気が低ければ,業務効率も悪化しますので,会社が利益を上げることも,社員が良好なキャリア形成することもできなくなるという悪循環に陥る可能性が高くなります。



≫ 弁護士法人四谷麹町法律事務所

 会社経営者のための労働問題相談サイト