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退職勧奨したところ解雇してくれと言い出す。

2014-02-15 | 日記

退職勧奨したところ解雇してくれと言い出す。

1 経営者を挑発して解雇させ,多額の金銭を獲得してから転職しようと考える社員
 最近では,経営者を挑発して解雇させ,多額の金銭を獲得してから転職しようと考える社員が増えています。退職勧奨した社員から解雇してくれと言われたからといって,安易に解雇すべきではありません。後日,解雇が無効であることを前提として,多額の賃金請求を受けるリスクがあります。解雇するようしきりに催促し,解雇理由証明書を交付するよう要求してきたら要注意です。
 当該社員が退職することに同意しているのであれば,解雇するのではなく,退職届を提出させるか,合意退職書に署名押印させて下さい。
2 退職勧奨と失業手当の受給条件
 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)を理由として離職した者は「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,失業手当の給付制限等に関し労働者が不利益を受けることにはなりません。つまり,失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はないのです。退職届を出してしまうと,失業手当の受給条件が不利になると誤解されている場合には,丁寧に説明し,誤解を解くよう努力して下さい。
 なお,助成金との関係でも,会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることには注意が必要です。
3 解雇予告手当の請求
 即時解雇した場合,解雇予告手当の請求を受けることがありますが,解雇予告手当の請求は解雇の効力を争わないことを前提とした請求ですし,解雇予告手当は平均賃金の30日分を支払えば足りるので(労基法20条1項),そのリスクは限定されます。
4 解雇無効を前提とした賃金請求
 解雇の無効を前提として,解雇日以降の賃金請求がなされた場合に会社が負担する可能性がある金額は,高額になることがあります。単純化して説明すると,月給30万の社員を解雇したところ,解雇の効力が争われ,2年後に判決で解雇が無効と判断された場合は,既発生の未払賃金元本だけで,30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。解雇が無効と判断された場合,実際には全く仕事をしていない社員に対し,毎月の賃金を支払わなければならないことを理解しておく必要があります。
5 無断録音
 退職勧奨,解雇のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。退職勧奨,解雇を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。
 退職勧奨は,やり過ぎると不法行為になることがありますが,自分の発言が無断録音されて上司や社長や裁判官や弁護士に聞かれても差し支えないと考えられる言動であれば,不法行為が成立するようなことは滅多にありません。
6 解雇してくれと言われて解雇したところ解雇の効力が争われ,解雇が無効と判断されるリスクが高い場合の対処
 解雇してくれと言われて解雇したところ解雇の効力が争われ,解雇が無効と判断されるリスクが高いような場合は,解雇を撤回し,就労を命じる必要がある場合もあります。この場合,解雇日の翌日から解雇撤回後に就労を命じた初日の前日までの解雇期間に対する賃金の支払義務を負うことになりますが,出社を命じた初日以降については出社しない限り賃金支払義務を負わないのが原則です。
 解雇を撤回して就労を命じた場合,実際に戻ってくるのは4人~5人に1人程度という印象です。解雇期間中の賃金請求をする目的で形式的に復職を求める体裁を取り繕う社員が多いですが,要望どおり解雇を撤回して就労命令を出してみると,いろいろ理由を付けて,実際には復職して来ないことが多いというのが実情です。労働組合の支援があるような場合でない限り,復職は難しいケースが多いのではないかと思います。
7 ありのままの解雇理由を伝えることの重要性
 勤務態度が悪い社員,能力が著しく低い社員を退職勧奨したところ,解雇して欲しいと言われ,本当の理由を告げて解雇すると本人が傷つくからといった理由で,解雇理由を「事業の縮小その他やむを得ない事由」等による会社都合の解雇(整理解雇)とする事案が散見されます。このような事案で解雇の効力が争われた場合,整理解雇の有効要件を満たさないのが通常であり,ほぼ間違いなく整理解雇は無効と判断されることになります。
 解雇が避けられないような場合は,ありのままの解雇理由を伝えるようにして下さい。無用の気遣いをして,ありのままの解雇理由を伝えられないと,裏目の結果となることが多くなります。
8 解雇が無効と判断された場合に,解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額
 解雇が無効と判断された場合に,解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は,当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。解雇当時の基本給等を基礎に算定されますが,各種手当,賞与を含めるか,解雇期間中の中間収入を控除するか,所得税等を控除するか等が問題となります。
 通勤手当が実費保障的な性質を有する場合は,通勤手当について負担する必要はありません。
 残業代は,時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものであることから,通常は負担する必要がありません。ただし,一定の残業代が確実に支給されたと考えられる場合には,残業代についても支払を命じられる可能性があります。
 賞与の支給金額が確定できない場合は,解雇が無効と判断されても,支払を命じられませんが,支給金額が確定できる場合は,賞与についても支払が命じられることがあります。
 解雇された社員に解雇期間中の中間収入(他の事業上で働いて得た収入)がある場合は,その収入があったのと同時期の解雇期間中の賃金のうち,同時期の平均賃金の6割(労基法26条)を超える部分についてのみ控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁第二小法廷昭和37年7月20日判決,あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決)。中間収入の額が平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額を対象として利益額を控除することが許されます(あけぼのタクシー事件最高裁第一小法廷昭和62年4月2日判決,いずみ福祉会事件最高裁第三小法廷平成18年3月28日判決)。
 賃金から源泉徴収すべき所得税,控除すべき社会保険料については,これらを控除する前の賃金額の支払が命じられ,実際の賃金支払の際,所得税等を控除することになります。
 仮処分で賃金相当額の仮払が命じられ,仮払をしていたとしても,判決では仮払金を差し引いてもらえません。賃金の支払を命じる判決が確定した場合は,労働者代理人と連絡を取って,既払の仮払金の充当について調整する必要があります。
 他方,賃金請求が認められなかった場合は,仮払金の返還を求めることになりますが,労働者が無資力となっていて,回収が困難なケースもあります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所

弁護士 藤田進太郎

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