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退職勧奨に応じて退職届を提出したのに退職の効力を争う。

2014-02-15 | 日記

退職勧奨に応じて退職届を提出したのに退職の効力を争う。

1 退職勧奨の法的性格
 退職勧奨とは,一般に,使用者が労働者に対し合意退職の申込みを促す行為(申込みの誘引)をいいます。退職勧奨が申込の誘因と評価できる場合には,労働者が退職勧奨に応じて退職を申し込み,使用者が労働者の退職を承諾した時点で退職の合意が成立することになります。
 退職勧奨を合意退職の申込と評価できる場合もあり,この場合には労働者が退職届を提出するなどして退職を承諾した時点で合意退職が成立することになりますが,労働者側が退職の効力を争っている場合には,裁判所は,労働者に有利に解釈し,合意退職の成立時期を遅らせる傾向にあります。
2 退職の申込みの撤回
 退職勧奨が申込の誘因と評価された場合には,退職勧奨を受けた労働者が退職届を提出して合意退職を申し込んだとしても,社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が退職を承諾するまでの間は退職の合意が成立していません。社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が退職を承諾するまでの間は,信義則に反するような特段の事情がない限り,合意退職の申込みの撤回が認められます。
 退職を早期に確定したい場合は,退職届の提出を受け次第速やかに退職を承諾する旨の決済を得て退職届受理通知を交付するなどして,退職を承諾する旨の意思表示を早期に行うようにして下さい。退職を認める旨の決済が内部的になされただけで,退職届を提出した社員に通知していない時点では,承諾の意思表示がなされておらず合意退職が成立していないと評価される可能性が高いものと思われます。
3 錯誤・強迫・心裡留保等
 退職届を提出した社員から,錯誤(民法95条),強迫(民法96条),心裡留保(民法93条)等が主張されることもありますが,退職届が提出されていれば,合意退職の効力が否定されるリスクはそれほど高くはありません。
 錯誤無効,強迫取消が認められる典型的事例は,「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ,退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できるような事案ではなかったことが後から判明したようなケースです。有効に解雇できるような事案でない限り,退職勧奨するにあたり,「解雇」という言葉は使うべきではありません。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となることがあります。
4 無断録音
 退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまうのが通常です。退職勧奨を行う場合は,感情的にならないよう普段以上に心掛け,無断録音されていても不都合がないようにして下さい。
5 慰謝料請求
 退職勧奨を行うことは,不当労働行為に該当する場合や,不当な差別に該当する場合などを除き,労働者の任意の意思を尊重し,社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではありません。その説得のための手段,方法がその範囲を逸脱するような場合には違法性を有し,使用者は当該労働者に対し,不法行為等に基づく損害賠償義務を負うことがあります。
 退職勧奨の各担当者が,自分の行っている退職勧奨のやり取りは全て無断録音されていて,訴訟になった場合は全てのやり取りが裁判官にも上司にも社長にも明らかになってしまうことを覚悟した上で退職勧奨を行えば,よほど退職勧奨に向いていない担当者でない限り,違法となるような退職勧奨を行うことはないのではないかと思います。

弁護士法人四谷麹町法律事務所

弁護士 藤田進太郎

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