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日本工業新聞社事件東京地裁平成22年9月30日判決(労経速2088-3)

2011-01-04 | 日記
原告は,株式会社日本工業新聞社の社員であったAが会社から千葉支局長への配転の内示を受けた後に原告が会社に対してした複数回にわたる団体交渉の申入れを会社が拒否したこと,会社がAを千葉支局長に配転したこと,会社がAらの配布した原告の組合機関誌を回収したこと,会社がAの千葉支局赴任後における業務指示不遵守を理由としてAを懲戒解雇したことは,労組法7条1号,2号又は3号の不当労働行為に該当するとして,東京労働委員会に救済命令を申し立てましたが,都労委は,会社の上記各行為はいずれも不当労働行為に該当しないとして,原告の救済命令申立てを棄却する旨の命令を発しました。
原告は,本件初審命令を不服として,中央労働委員会に対して再審査を申し立てましたが,中労委は,原告の再審査申立てを棄却する旨の命令を発しました。
本件は,本件命令を不服とする原告が,その取消しを求めた事案です。

本判決は,
① 本件配転は,労組法7条1号又は3号の不当労働行為に当たるものということはできず,
② 本件懲戒解雇は,その実体面においても手続面においても違法なものではなく,労組法7条1号,3号又は4号の不当労働行為に当たるものということはできず,
③ 会社が原告による一連の団体交渉の申入れに応じなかったことは,労働法7条2号又は3号の不当労働行為に当たるものということはできず,
④ Eら会社役員が行ったAら3名による本件組合機関誌配布の制止及び本件組合機関誌回収は,会社の施設管理権行使の一環として適法にされたものということができ,これが労組法7条3号の不当労働行為に当たるものということはできない
として,原告の請求を棄却しました。
会社側がどのように対応すれば不当労働行為にならないのかを検討する上で,参考になる裁判例といえるでしょう。

上記③に関し,以下のように判断している点も興味深いところです(判決文の一部を加筆変更等しています。)

会社は,原告が労組法に適合した労働組合であるかどうか疑問を抱き,その点を確認するために組合規約,組合員名簿及び組合役員名簿の提出を求め,これが提出されない限り団体交渉には応じないとの態度で原告に対応していたことが認められる。
ところで,労組法の適用を受ける労働組合とは,労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又は連合団体であって,労組法2条ただし書各号の要件に該当しないものをいうのであり,このような労働者を主体とする団体として設立されたものであれば,労組法上の労働組合として扱わなければならないと解される。
他方,使用者にとっては,団体交渉の申入れをしたものが労組法上の労働組合かどうかの確認は,労組法11条所定の適合証明を受けていない労働組合については,組合規約等の書類や当該労働組合の活動実績の認識によって行うことになると考えられるところ,特に設立したばかりの労働組合については,その活動実績自体がなかったり,仮にあったとしてもそれを把握する機会がなかったりして,その確認は一般的に困難な場合があると考えられる。
原告は,平成6年1月10日に設立されているが,会社に対して結成通告がされたのは同月28日であり,それまでの間に会社に分かるような形で組合活動をしていたことはうかがえず,上記4日井野団体交渉の申入れは,同日からわずか1週間の間に行われているものである。
以上のことに加えて,Aは,平成4年2月に論説委員会付論説委員に発令される以前は産経労組の組合員であったものの,発令後は本件労働協約及び本件労働協約覚書によりその組合員になれない立場にあったことも併せかんがみると,会社が,Aが代表幹事であるとする原告からの団体交渉の要求を受けた際に,
① 原告が労働組合を標榜するのに,労働組合をうかがわせる名称を使用していないこと,
② 企業の枠を超えて結集したというのにその名称が「産経委員会」と企業の枠を設定したものとなっていたこと,
③ 労働組合の代表者として,通常は執行委員長1名であるのに,Aのほかに1名の計2名が代表者として記載され,かつ,その肩書が「代表幹事」と表記されていたこと,
④ もう1人の代表幹事は,時事通信社を解雇されて同社に結成されている労働組合の代表幹事であったこと
を捉えて,原告の労働組合としての法適合性に疑義を抱いたことが不合理であるとはいい難く,その疑義を払拭するべく,原告の代表者であるとするAに対してその実態を認識し得る組合規約等の資料の提出を求め,その提出がされて原告の労働組合としての実態の確認ができるまでは団体交渉に応じないとの態度をとったことは,最初の団体交渉申入れがされてから1週間という短い期間で連続的に行われた上記4回の団体交渉申入れのいずれに対しても,やむを得ない対応であるということができるから,その意味において正当な理由があるということができる。

弁護士 藤田 進太郎