パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

Hot Market ~ NYU ELJ Colloquium 2007

2007-02-13 23:59:08 | 環境ネタ
 火曜日は例の一年コースの「お仕事」の日なんですが、オフの日程をやりくりして、この日を空けて、NYUのEnvironmental Law Journal主催の1 dayシンポジウムに行ってきました。ネタは温暖化のマーケット、動きが激しすぎるので頭をupdateするのに丁度よいかぁ~と思って。行ってみると運営サイドもパネラーも見知った顔がいくつかで懐かしい。と思ったら、あれ、昨秋ワシントンDCで一緒に飲んだUさんがなぜココに??? あっ、丁度ボストン、NYなど出張中なんですねぇ~ 他にも今の大学のクラスメートとか。
 3パネルあって、nothing new to meというのもあれば、全然知らなくて非常にためになった話もありました。勝手ながら私が面白かったと思った点のみ(後者+α)を(マニアック長文注意)。

○Auction Revisited
 去年の12月にNY州がRGGIの排出量初期割当(アロケーション)を100%オークションにする案の発表があって随分驚いたのですが、他州(CT, ME, VT)も続いているようです(注:元々RGGIのモデルルールでは最低25%はオークションしなさいとなっていて、それ以上の詳細は各州に委ねられています)。ちらと聞いたところだと100%オークションにしたいという話は実は随分前から出ていたようです。
 なぜ驚いたかといえば、排出量取引のアロケーションといったら、エコノミストはほぼ全員一致でオークションを支持し(平たく言うと機会費用まで勘案すると割当方式如何に関わらずコストは発生するので、オークションでやった方が効率的)、ただ実際はpolitical feasibilityの点もあってgrandfathering(過去排出量そのままをタダで交付)と相場は決まっていると思っていたからです(去年の授業でRevesz教授も冗談まじりに話してた)。90年のClean Air ActでできたSO2排出量取引もそうだし(オークションは3%弱だけ)、最近始まったEU-ETsもそうです。だから最低25%というだけでも驚いていたのに、100%ですかぁ~と。
 RGGI自体がうまくいくわけがないと達観しているから被規制側が激しく抵抗していないだけではなかろうかという気もしないのではないのですが、パネルの話を聞いているとオークションと過去排出量無償交付で電気代が変わらないというシミュレーションが結構効いているのかなぁ。あるいは行動経済学の成果の一つ(Endowment Effectは流動性の高い財の場合は無視できる)が効いているのかなぁ? RGGIの話が出てくる以前の電力自由化やらいろんな補助金のバランスがからんでいるよう(要するに石炭に過度に甘かったよう)なので、単純化はできないことは確かですけど。

○Lessons from EU-ETs
 パネルごとに話題になっていましたが、多くの人が指摘するところは段々収斂されてきているように思いますね。
 ・Length; 第2フェーズまで入れても期間が短かすぎ
 ・Breadth; カバーが広い方がいい
 ・Depth; 初期割当が緩すぎ、既存大排出者が棚ボタ
 ・まぁ不満はあるけど頑張っているほうじゃないの
方向性は正しくて、改善の余地は大きいって評価で、特に期間が短いので投資しにくいというのはよく聞きますね。

○Financial Market
 一番面白かった点です。普段はリーガルor Policy Orientedなコミュニティの話を聞くことばかりなので、EcoSecurities(CDM等のコンサル)やNatsource(排出権アセットマネジメント&取引仲介)、MissionPoint(環境株式ファンド)からのビジネス関係者の話は新鮮だった(いや彼らのプレゼンは企業紹介みたいでイマイチだったんですけど質疑応答が有意義だった)。
 少し前にNYの金融市場の地位低下を懸念する報告書(いわゆるSOX法が厳しすぎるとか)が話題になっていたのですが、その中で他の市場例えばロンドンと比べてどうこうという話があって、パネルの議論でアメリカにカーボン市場がまだ生まれていないことが市場間の競争でも不利に働くか、という議論をしていました。「全くその通りだよぉ~、毎日のコーヒーの量は増えっぱなし」という答え、「いざ始まればアメリカは世界の排出量の1/4だからNYやシカゴがすぐ挽回できるはずさ」という答え、「NYはSO2の排出量取引以来デリバティブを扱ってきた()アドヴァンテージがあるから全然心配してないね」という答え、三者三様ではありましたが、現状のまま(本格的カーボン・マーケットがアメリカにない)というのが受け容れがたいというのは間違いなさそう。 SO2の排出量取引は私の聞き及ぶところ当初不活発で、やがて増えるも自社内取引or相対取引が多いということだったはずでは?と思ったので、デリバティブってなんのことだろうっと思ったら排出枠のオプション取引とかのことみたいです(例えばコレ)。なーるほどね、例えば1年後の石油や石炭購入の際のリスクヘッジと同じ感覚なのねぇ~。他にもあるのかなぁ? 確かにEU-ETsがここまで成熟していないだろうという想像はつきますね(枠余ってますから、そんなこと考える需要がないでしょう)。想像ついでだと、RGGIやビンガマン法案にSafety Valveなる価格に連動して義務内容が変わる仕組みが入っているのですが、これもデリバティブ由来かと思ってみたり。
 実はイギリスが2002年に(提案はもっと前)どこよりも早くUK-ETsを導入した狙いの一つがシティーの復権だったわけで(規制・環境影響評価書のpara 19)、導入直後のロンドンでチラと話を聞いたときは取引低調・マダマダ手探りって感じでしたが、それから5年も経たずに少なくともNY界隈に脅威を与えるまで成長したわけだ(注:上記の報告書ではロンドン市場に後れを取っている面を認めている。もっともカーボンマーケットへの言及はありません)。

 っとまぁ、まさしくHot Marketを感じられたのでした。こういう見聞をすると無意識に自国と比べるクセがあるのですが、ため息節約のため今回はやめておいた方がいいのかなぁ    (注:14日記)


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2 コメント

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マンハッタンの北側でも (r_shi2006)
2007-02-16 02:38:50
偶然にしては出来過ぎなくらい同じような情報が流れています。

先々週の水曜日、Columbia Business SchoolでNatsourceとEcoSecuritiesの方がCarbon Marketについて語るセミナーがありまして、質疑応答の内容もほぼ同じでした。

また、宿題で読むように言われたEnvironmental Finance誌の2006年10月号に、ロンドンの投資銀行の方による、EU-ETSを「Longer, Wider, Deeper」にすべきという記事が載っていました。

そして、これは友人のブログに載ってた話ですが、先週の土曜、日本で開かれた環境セミナーで、イースクウェアという会社からの講演者が「日本の温暖化対策は遅れている。環境省と経団連の対立が原因だ。」という趣旨のことを仰っていたそうです
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RE; (そらまめ)
2007-02-17 01:10:51
EU-ETsの評価は同じような評価を昨秋ぐらいから何度か聞いてやっぱり固まってきたということですかね。マーケットの話は素人頭にはややキツかったのですが、CAAのオフセットの頃からすると30年もある蓄積の重みってのはやっぱりデカイのかぁというか、侮れんと言うか、やっぱりため息がいっぱい出そうになるのでやめます
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