山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

「戦争犯罪」と「戦争の罪」

2004年03月07日 | 日本の外交
北京発共同電によると、中国の李肇星外相が記者会見で、小泉純一郎首相の靖国神社参拝について「14人のA級戦犯が祭られている神社を参拝し、中国とアジアの人々の心を深く傷つけた。絶対に受け入れられない」とこれまで以上に強く批判した、とのこと。

そこで、1978年に靖国に合祀された14人について今一度、調べてみた。それによると、「A級戦犯」として起訴された軍人、文官は計28人だが、そこから死亡者を除いた25人が処刑されており、このうち靖国に「昭和受難者」として祭られた14人とは、絞首刑7人、終身禁固刑6人、懲役刑(20年)1人―のようだ。

この14人は、東京裁判で(1) 共同謀議(2) 対中侵略(3) 対米侵略(4) 対英侵略( 5)対オランダ侵略(6) 対仏侵略(7) 対ソ侵略(8) 残虐行為の命令(9) 故意又は不注意による防止の怠慢―などの罪に問われた。有罪と認定された事実は次の通りである。

<絞首刑7人>
 東条英機首相 →(1)(2)(3)(4)(5)(6)(9)
 板垣征四郎陸相 →(1)(2)(3)(4)(5)(7)(8)
 土井原賢二陸軍大将→(1)(2)(3)(4)(5)(7)(8)
 松井石根陸軍大将 →(9)
 木村兵太郎陸軍大将→(1)(2)(3)(4)(5)(8)(9)
 武藤章軍務局長 →(1)(2)(3)(4)(5)(8)(9)
 広田弘毅首相・外相→(1)(2)(9)
<終身刑6人>
 梅津美治郎参謀総長→(1)(2)(3)(4)(5)
 白鳥敏夫駐伊大使 →(1)
 小磯國昭首相   →(1)(2)(3)(4)(5)(9)
 平沼騏一郎首相  →(1)(2)(3)(4)(5)(8)
<懲役刑1人>
  東郷茂徳外相   →(1)(2)(3)(4)(5)

これを見ると確かに、白鳥を除く全員が(2)の「対中侵略」で有罪とされている。さらに、日本政府は1951年のサンフランシスコ条約で、連合国による「ジャッジメントを受け入れる」(第11条)と誓っているのだから、中国側の抗議にも一理あるようだ。

しかし、それでも釈然としないのは、「残虐行為の命令」や「防止の怠慢」は別にしても、対米、対中侵略戦争の責任を「個人」に負わせていることではないだろうか。

敗戦時に日本が受諾した「ポツダム宣言」は、第10条で「我々は、全ての戦争犯罪人に対して厳重なる処罰を加える。この戦争犯罪人には、日本人を奴隷化しようとした者、または連合国の捕虜に対して、民族滅亡を企図した訳ではないにしても、虐待を加えた者を含む」とあり、政治指導者の開戦責任までも問うことは明記されていない。

また、条文中の「民族滅亡を企図した訳ではないにしても」は、恐らくナチスによるユダヤ人殲滅犯罪を意識したものと思われる。周知のように、東京裁判と同時に行われたニュルンベルク裁判では、ナチス指導者の処刑が決定されている。ポツダム宣言は、その結果を見越したかのように「日本の戦争行為は、確かにナチスの犯罪とは違うだろうけれども、捕虜虐待などは訴追しますよ」と忠告しているのだ。

東京裁判では、アメリカ人の弁護士が「事後立法による処罰」に異議を唱えたけれども、裁判長は「ニュルンベルク裁判と東京裁判は1928年のパリ不戦条約に違反する行為を裁くものであり有効」として退けた。しかし、不戦条約については、自衛戦争を認めている上に、現在では「侵略戦争を違法化した」とする定説にも、異論が存在するようだ。

いずれにしても、ナチスによるユダヤ人抹殺や、日本軍による捕虜虐待などの「戦争犯罪」が個人の罪であるのに対し、戦争とは「国家」と「国家」の間の紛争であり、そうである以上、裁かれる当事者も「国家」でなければならない。東京裁判は「戦争犯罪」と「戦争」を混同していると思わざるを得ない。

B,C級戦犯とされた人々は(審理が尽くされたかどうかは別にして)戦争中の犯罪の罪を問われたのに対し、A級戦犯は、国が戦争を始めた責任を問われて処刑されたことになるのだ。戦争犯罪と異なり、戦争の責任で処刑されるべきは「国家」だったはず。
 
東京裁判が「平和に対する罪」で有罪にできたのは「日本国」だけであり、東條英機氏らの行政責任は、日本国民が問うべき性質のものというべきだろう。

こうした、法的に極めて問題のある判決を、サンフランシスコ条約で「受け入れる」とした日本政府にも、重大な瑕疵があると言える。とは言え、同条約が日本の国際社会への復帰の基礎となり、かつ米兵捕虜らの日本国、日本企業に対する賠償請求権を放棄していることから考えて、同条約を全面的に否定することも現実的でもないようだ。

判決受諾を規定した第11条の条文を改正するのが最善だが、当時の連合国に改正を納得させるのは不可能だろう。従って国家の罪を背負わされた「A級戦犯」は、国際法上は今も犯罪人ということになる。

日本国として、国連にA級戦犯の名誉回復を正式に申し入れるか、国際刑事裁判所に再審請求する方法も考えられるが、日本がいまだ「旧敵国」とされる現状では、いずれも容易でなさそうだ。(了)


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