山川草一郎ブログ

保守系無党派・山川草一郎の時事評論です。主に日本外交論、二大政党制論、メディア論などを扱ってます。

第二次イラク戦争は始まっている

2004年04月12日 | 日本の外交
ファルージャでの一時停戦が決まったが、イラク情勢はバグダッドが陥落した1年前に比べても、どんどん悪化しているようだ。一部には「暴力の連鎖」という言葉を用いて、「米軍がイラクから撤退しない限り混乱は収拾しない」という論調が根強く見受けられる。

確かに米軍のモスク攻撃や、子供にも死傷者が出ていることから、一般住民の間に米軍への「憎しみ」が渦巻いていることは事実だろう。しかし、よく見ると、現在の混乱はそんな簡単な構図ではなさそうにも思う。

そもそも、米軍の交戦相手は刻一刻と変化しているのだ。開戦当初は当然、フセイン政権とその正規軍が敵だった。バグダッド陥落後しばらくは、サダム決死隊などの残党勢力による断続的なゲリラ攻撃を受けた。

サダム・フセイン氏が拘束されて以降は、ゲリラ攻撃に代わって、外国から侵入してきたテロ組織による自爆テロが頻発し、そうした状況が最近まで続いていた。これらは、本来フセイン政権とは関係のないアルカイダなどの国際イスラム原理主義勢力が首謀しているとと言われた。

そして、ヤシン師殺害後の現在は、イラク国内のイスラム教徒の一部が過激派となって暴動を繰り返しているようだ。彼らの目標は、米軍の統治を終わらせて、イスラム教に基づく新国家を作ること。一部で指摘されているように、6月末に米軍統治が終わり、間接選挙で新政権の枠組みが決まるとすれば、イスラム教スンニ派は政権内で主導的地位につけないと見られている。

そもそも新しいイラクの国家像として、欧米型の民主国家をイメージしている米国と、イランのような宗教国家を構想しているイスラム教徒との間は、埋めがたい溝があるのだ。従って、イスラム教徒は団結して、選挙が実施される前に米軍を追い出す必要がある。追い出した後は、スンニ派とシーア派の間で内戦が始まるだろう。これは本質的に「暴力の連鎖」などとは無縁の、権力闘争なのだ。サダム・フセインという重しをはずしてしまったがために噴出した宗教的民族主義とも言えるだろう。

こうして見ると、米軍の交戦相手は(1)イラク正規軍(2)残党ゲリラ(3)国際テロ組織(4)国内イスラム教徒―という変遷を遂げている。もはや事態は「テロとの戦争」ではなくなりつつあるのだ。占領軍を追い出し、自らの手で新政権を作ろうとする抗争。歴史的にそれは「独立戦争」と呼ばれる。

第二次世界大戦前後のインドシナでは、米軍により日本軍が追い出された後、現地人とフランス軍との戦争が起こった。後にベトナム戦争へと引き継がれるあのプロセスが、現在のイラクで始まりつつある。

フセイン体制の打倒は、確かに多くのイラク民衆にとっては超法規的「解放戦争」の一面があった。しかし、今や事態は新しい局面に入っている。「第二次イラク戦争」は既に始まっているのだ。(了)



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