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**アカシアの木蔭で**

流れていく時間と逆らわずに流れていく自分を、ゆっくりペースで書いて行こうと思います

予感

2017年03月02日 | 病棟
患者さんに、死期を悟った行動だったのかなと感じることがあります。
施設が決まるまでの保護入院のSさんもそうでした。

認知症で気難しく暴言・暴力のみられるSさんは、
冷たい手が大嫌いでした。
ケアや検温時は 馬鹿野郎!冷たい手で触んな!と怒鳴り
拳骨で殴って来る。
気に入らないとすぐに手が出るタイプ。
でも、寂しがり屋の威張りん坊でもあることが少しづつ分かってきて
だいぶ病棟に馴染んで来ていましたが
あと3日で施設入所というタイミングで 急変しました。

夕食も全部食べ、消灯前に体を整えた時には
私の手を握って「合格」と笑いました。
人が居ないと大声を出しナースコール連打するために
付き添いさんに付いてもらっていましたが
ありがとね、と手を合わせて拝むので
付き添いさんが 初めてSさんにお礼言われたわ〜と茶化すと
「バーカ!」と笑いました。
今日はご機嫌だねえ!

その15分後に突然呼吸停止してAEDにも反応せず逝ってしまいました。

エンゼケアをしながら、付き添いさんが言ったの。
「あのね、夕方Sさんが窓の外に向かって
一生懸命両手を伸ばして、手招きしてた。
声掛けても聞こえないみたいに一生懸命だった。」

「母が迎えに来たのかもしれない。もう直ぐ1回忌なんです。
ここの病院に馴染んで施設に行きたくないから
急いで付いて行っちゃったのね。」
と言ったのは娘さんでした。

翌日 他のスタッフが急変にビックリしつつ言いました。
「昨日さ、変だったんだよ。
ケアの時、両手で冷たい手を包んで温めてくれた。
いつもなら拳骨パンチなのに」
「えっ!!私も同じ事された!」

何と無く死期を察して、みんなにお別れしてたのかもしれないね。



大丈夫、まだまだ 沢山残ってるよ!

2017年03月02日 | 病棟
uさんを大きな病院に送った。
左腕の硬直を伴う右手振戦?
看護婦はみんな、癲癇でもパーキンソンでなく他の原因を疑ってた。
精査して治療に繋がればいい。

昨夜ベッドサイドでゆっくり話をした。
麻痺で聴き取りにくいので、忙しいと話も出来ないけど、消灯後ならだいじょうぶ。
uさん、こう言ったんだよ。

「いいことが沢山の人生だった。
最後はこんなになっちゃったけど。
・・・・まだいいこと残ってるかな?
全部使い切っちゃったのかな?」

宝くじとか大きな幸せはなかなか来ないけど、中位ならまだまだ見つかるよ!
原因もピッタリの薬も判って前みたいに歯磨きや食事が出来たり、
ほら今だって、夜に美人と二人きりで話をしてるの、幸せじゃない?

ちょっと呆れた顔してましたが、まだあるかな?と言って目を瞑りました。
大中小、沢山のいいこと見つかりますように。

誰を見て仕事をしている?

2017年01月04日 | 病棟
Tさんは大腸癌ターミナルの患者さんでした。
最初は直腸に見つかりストマを作りましたが
5年経たないうちに、腹膜内や胃や肝臓、骨と
広範囲に手の施しようがないほど転移していました。

本人が家で死にたいと希望し、当院で往診を引き受けていましたが
胃の狭窄が強くなり、便汁を嘔吐するようになった挙句
誤嚥して肺炎を起こして夜中に救急搬送されてきました。
だいぶ長い間清拭もせず歯も磨けず
髪は吐いた便汁でガビガビ。
SPO2も下がって息が苦しく、尿失禁でぐちゃぐちゃの寝間着。

一人夜勤ですので、戦闘開始。
まず救急隊に手伝ってもらってレントゲン。
Mチューブ、Baカテ挿入。
モニター付けて点滴ライン確保。
抗生剤用意して、酸素開始とネブライザー&吸引。
採血を末血とCRPの機械にかけて
家族から話を聞くのはその後。
少し認知症の入った奥さんが不安そうなので椅子と白湯を用意して待ってもらいます。

意識ははっきりしていて「すまないね、夜遅くに」と切れ切れに話されます。

「辛ければこのまま寝て明日綺麗にしますが、どうしたいですか?」

「・・・髪も口も洗いたい。気持ち悪い。お願い」

体には負担かもしれませんが院長の許可も出たので、家族を返した後清潔介助開始。
頭の下にオムツを敷いてシャンプーとお湯でしっかり二度洗い。
口も歯磨き粉とブラシで磨きます。
起き上がれないので寝たまま横向きにパッドに吐き出してもらいます。
下半身は石鹸清拭。  ククゥ、時間かかるぅ!

酸素や点滴やMチューブのおかげでだいぶ表情は和らぎ、
少しの笑顔で「ありがと。眠れそう」
そう聞いた時には ヘトヘトでした。



そんなふうに最初の夜に受け持ったのが私でしたので、
Tさんはなんとなく私に心を開いてくれていました。
「一番苦しくて汚くてみっともないところを任せちゃったからな〜」
と、笑っていました。


ある日、検温に病室を訪れると 
Tさんは助手さんにマウスケアと髭剃りをしてもらっていました。
入れ替わるように部屋を出る助手さんの背に向かって、
Tさんが不機嫌と苦笑いを混ぜたような表情で、見えないようにしっしっと追い払う動作をしたんです。

「あれ?何かあったの?」
「・・・あの人は他の人と同じに綺麗にしてくれるけど、自分自身を見て仕事してる。
  しゃべるし笑うしヒゲも剃るけどね、心ん中は自分ばっかりなんだ。
  ああ忙しい、私は大変!私はこんなに頑張ってる!
  こんなに重症の可哀想な患者の面倒見てる!って、滲んで分かるんだよ」

なんとなく感じるものはわかりました。
忙しいを連呼して、落ち着いて相手に向かい合わないので
なんとなく上の空で 自分の話したいことばかり繰り返してる。
「何?あの人具合悪いの?死にそうなの?ああ怖い怖い!ああやだ!」
すぐそんなことを言うので 看護師に注意されています。

「24時間は無理だけど、病室にいる時間だけは専属タイムだもんね〜」
そう言うと、「まあゆっくりしてってくれ」と笑ってくれました。


短い時間でもきちんと自分の心が患者さんに向いているか
よそ見していないか
気を引き締めなくては、と思った出来事でした。


  







風邪ひき幽霊さん

2015年09月10日 | 病棟
病院に勤めていると 
目に見えない存在を感じることが多々あります。
それは神様だったり 幽霊的なものだったり

でも忙しさと 患者さんを生かすことに追われているので
不思議と怖さを感じないことが多いんです。


これは友達から聞いた話。


「うちの病棟の物品庫、出るんだよね~。」


「ああ、幽霊?どんな?」

「うん。夜ずっと コンコン咳してるんだよ。
 看護婦の8割ぐらいが気づいてる。」

「まあ、実際のところ無視!って感じだよね。
 あ~あと思いながらも 実害ないからね」

「そうなの。
 でもね、こないだの夜勤で★★先輩がね バッと席立って
 あたしの手を引っ張って 物品庫に行ったのよ。
 それでね、勢いよくドアを開けて
 『夜なんだから お静かにお願いします(怒)!!!!』
 って 怒鳴ったんだ~。」

「・・・・強いな」

「そしたら、咳 聞こえなくなった。
 他の夜勤さんも 居なくなったのかなって言ってる。

 でもね、咳で苦しんでた患者さんの幽霊だったかもしれないじゃない?
 ちょっと可哀想になって
  『咳止めと風邪薬を置いておいたら 静かにしてたかもね』
 って同期の子に話したら
 通りすがりのドクターが
  『診察しないと薬は処方できないな~』って笑ったんだよ」


先生のケチ!!



点滴経口摂取?!

2015年09月08日 | 病棟
一夫じいちゃんは 老衰と認知が進み 
食べるとムセては 誤嚥性肺炎で高熱を出します。
他の病院で造影をし 嚥下は無理なのことが分かり 
PEGかマーゲンチューブで栄養を入れるか
中心静脈栄養でハイカロリーの点滴を入れるか
補液のみで看取りかの選択になりました。

家族、PEGは望まず。
マーゲンチューブとCVは 認知のために自己抜去してしまい
余計危険です。
両手を抑制すれば 不安で暴れて泣くのです。

「90歳を越えているので 看取りで静かに・・・」
家族みんなの決断でした。


「のりちゃーん!マムさ~ん!ちょっと来て!!」
申し送りをしていると 助手さんの大声が聞こえました。

!!何があった!!

慌てて一夫じいちゃんの病室に行くと
じいちゃん、点滴の接続を外しちゅうちゅう吸っていたんです。
滴下を絞ってあったから、ほっぺが凹むほど必死で。

のりちゃんたら 第一声が
「・・・・・・一夫さん、おいしい?」だって。

血管が細いから さほどシーツへの出血もなく
横シーツの交換だけで済みましたが
のりちゃん 真顔で
「あ~あ、ソルラクトじゃなくて 5%糖液だったら良かったのに」って言うんだよ。
「だってさ、あんなに必死に吸ってるの見たら、怒れないよね。
 なんだか可哀想になっちゃったんだよ。」


飴玉ガーゼに包んでゴムで留めて しゃぶらせてあげることも考えたけど
肺炎で40度の熱を出しては 
意識がなくなるほどのダメージを受けてきたことを考えると
やはり無理かなあ。

お犬様

2015年09月02日 | 病棟
・・・・ふうう。




「食事が食べられず吐血した、とQQ車で搬入されたキリコさん、

 まだ70歳台なのに 何かオカシイんですよね」

そう申し送りを受け 夜勤に突入。



何かおかしい・・・?



胃カメラで潰瘍が見つかり、よくよく話を聞くと

市販薬を手当たり次第多量に飲んでしまっていたことが分かり

夫を亡くしたばかりで もしかしたら自殺企図?

そこがひっかかるのかな?とアミちゃんに尋ねると

「違う。違うの。ちょっとオーラが認知っぽいって言うか 目付きって言うか・・・。
 
 受け答えは出来るし多分長谷川式では高得点だと思うけど、何かがオカシイんだよ」


よく分からない。


夜中の1時。ナースコールが鳴りました。キリコさんです。


暗い部屋をのぞくと電気もつけず 胸の前にコールを握り締めて

キリコさんが座っていました。

「どうしましたか~~?」

・・・何も返答なし。

私を見るでもなくじっと前を向いてぶつぶつ何か呟いています。

いやな予感の中、ベッドに置いてあった犬のぬいぐるみをふと手にとって

「キリコさん、可愛いワンちゃんのぬいぐるみだね」と話しかけた途端、



「何を言うの!!これは神なのよ!!犬ではないっ!!

 有難い神なんだから あなたも拝みなさい!!」


目が三角になってる。

こちらの言うことは 全く入らない。

ええ ええ 拝んで祈りましたよ、ほんとの神様に。

(神様仏様、キリコさんが今晩おとなしく寝てくれますように)って。



翌朝院長に、かかる診療科が違いますから即行で対応して下さいって報告しました。




おせんべいどうぞ②

2015年08月25日 | 病棟
そして、2日前。


夕方検温に行くと、まさこ婆ちゃん ソフトせんべいの小袋を手に
美味しそうに頬張っていました。

「美味しそうだねえ!!うらやましいねえ!!」

そう言った私に、認知症で無表情な顔を向け
おせんべいをパリンと割って 差し出したんです。

「あ、有難うねえ。
 (・・・でも婆ちゃんさっきオムツの中に手を入れてたよね?)」

躊躇して目を上げると、家族がニコニコ笑って言うんですよ
「遠慮せずにどうぞ!婆ちゃんが分けてくれるなんてめずらしいから
 遠慮なく食べて!!」

・・・食べましたよ。食べましたとも(泣)!!


後から 皆に
「あんたは人が良いから」だの
「大腸菌せんべい 食べたの~?!ヤクルト飲んどけ~」だの
散々笑われてから
「次は、後で大事にいただきますって言いなね」って教えられた。


なんでそんな名案 思いつかなかったんだろう・・・・・

おせんべい どうぞ①

2015年08月25日 | 病棟
マサコばあちゃんは もう90歳を越え、
誤嚥性肺炎で入退院を繰り返しています。
認知症もあり ちょっぴり頑固でキツイ性分で
ご家族の本心は 「もう家で看るのは御免だわ!!」です。
だから、食思不良の脱水疑いで入院し
少しずつなら食べられることを確認して2週間預かり
「年齢もあるから誤嚥は繰り返す。
 経管栄養も望まないなら、水分メインで看とりましょう。
 訪問看護と往診で点滴管理をします」
と、ムンテラも行なっての退院だったのに 翌日、
「やっぱり食べない」とQQ車で連れてきました。

何の工夫をしたんだ!
朝食・昼食の二回だけで 押し込むのか!!

みえみえの家族の思惑に スタッフ一同うんざりしながら
病棟にベッドを用意し、長期戦に切り替える会議をしました。
・・・やってられないのですよ。
入退院のたびに発生する事務手続き。
書類とってアナムネ聞いて 看護記録を新しく立ち上げて・・・。


ほんとはね、お断りしているパターンの患者さんです。
家族も、病院に預けた途端、
あれして欲しい・これして欲しいと
自分たちが出来なかったことへの負い目を晴らすように
スタッフに次々要求してきます。
こちらも病院である以上 一人の患者さんばかりを
手厚く出来ないと、正直に伝えたうえでの長期切り替えで、
自由にしたければ在宅で看取っていただくと
しっかり了承をとりました。
最近やっと、病棟のマンパワー不足の中 スタッフが忙しく働いていること
患者さんに平等に関わろうと努力していることを分かってくれ、
また、介護から開放された安心感からか 
柔らかい雰囲気でお見舞いに来られるようになっていました。



そして先日、「お婆ちゃんが大好きなせんべいを食べさせたい」と提案され。
誤嚥をして必ず熱が出ることは 分かっています。
でも、ソフトせんべいOKの了承を院長に貰ったんです。

本人も「おせんべ、食べたいなあ」と何度か訴えていたのですよ。
・・・いくら入院とはいえ、死ぬまでここで過ごすのです。
看取りだからって、認知症だからって
好きなことの一つも出来ない時間だけを過ごすのは 
生きてるって言えないよね?










胃のなかの白いもの

2012年03月22日 | 病棟

 「今日さ、胃が痛くてご飯が食べられないから胃カメラ希望のおばあちゃんが来たんだよ。

 朝も食べてないって言うし 丁度検査室空いてたから

 やることになって・・・」

 

「それでね、内視鏡で胃の中探索してたら 白いものが見えた訳よ。」

「・・・白?なんじゃそりゃ?」

「カメラが姿を見失ったから 見間違いかと思ったんだけど

 も一回とらえたのよね。そしたら、今度は黒い線も見えて」

「え~~、まさか 紙 食べちゃってたの?」

「そうそう。

 引っ張り出してみたら 巣鴨のお札 だったよ

 観音様 出てきた~~

 おばあちゃんさ、

    『巣鴨のお札は頭痛にも腹下しにも腰痛にも良く効くから

     巣鴨に行ったら あんたも先生も 必ず買いなさいよ』 って。

 何度も力こめて勧めるもんだからさ、

 先生、『取っちゃっていいのかなあ?も一度戻そうか?』なんて言うのよっ!

 『だめですっ!!!』って みんなの声 揃っちゃったよ」

 

 

おばあちゃん、お札は 精神安定剤=単なる気休めですからね~~~!

 

 

 

 


百合を植えました

2011年04月20日 | 病棟

夜勤明けにホームセンターで 百合苗を30ポット買って庭のあちこちに植えました。

5000円くらいでした。  惜しくはありません。

今日亡くなった患者さんのご家族に どうしても受け取ってとポケットにねじ込まれた5000円でした。

 

Aさんは皮膚癌が発見されてから、遠い病院まで通い入院して、

ケモセラやガンマナイフやインターフェロンなど つらい治療を沢山しました。

やってもやっても 転移が次々見つかり、それは段々と命を脅かすほどに範囲を広げました。

肺にも脳も肝臓も腹腔内も骨にも 癌は広がっていきました。

適応する治療が無くなり 後は残された短い人生を自分で選ぶようにと大病院は退院となり、

自宅近くの往診&入院可能なうちの病院を紹介されてきたのです。

 

まだ70歳、充分自分の状態を理解でき、生きたい気持ちと絶望感とに揺れるAさんは とても難しい患者さんでした。

ご家族も24時間受け止めることが出来なくなり 

「点滴をしたら楽になる」というAさんの希望的予測を 院長は受け入れて入院になりました。

実際はデュロテップなどの薬に思えない貼る麻薬を増減して 日々の安楽を目標にしました。

ホスピスほどスタッフの人数的にも設備的にも恵まれていなく、理想的とはとても言えません。

そんな中、Aさんは私に要求が多かったんです。

 

「女らしく 静かに やさしく ゆっくり時間掛けて 何でもやってよ」

「もっともっと優しく! 直ぐに部屋から出て行かないでよ」

「すぐ来てもいいけど、すぐ行かないでよ。」

「もっともっと 優しくしてよ!!!」

 

自分は こんなに不満を持たれる優しくない看護婦なんだと 密かにへこんでいました。

 「でもさ、たぶん看取るのはマムさんだと思う。文句言いながらもマムさんに見送られたいんだと思う」

助手さんからも仲間からも 何故か宣言されてました。

・・・なんで そんなこと言うのよお・・・

 

ゆうべ、みんなの予言どおり私が看取りました。

急変、でも家族がお別れできるような一番いいタイミングの看取りでした。

 

 

夜中に駐車場でAさんを見送る私のポケットに、奥さんが押し込んでいったティッシュの包みが その5000円です。

なんとなく使ってしまうより 餞の何かを買いたかったのです。

Aさん、夏に百合の花が咲いたら、ちゃんと思い出すからね。

もっともっと、優しい看護婦になるからね。