アルバニトハルネ紀年図書館

アルバニトハルネ紀年図書館は、漫画を無限に所蔵できる夢の図書館です。司書のWrlzは切手収集が趣味です。

『空を泳ぐ女』/倉科遼・玉置一平

2009-06-04 | 青年漫画
 


いつからだろう…
空を泳ぐ夢を見るようになったのは……
私は夜空へ泳ぎ出す--
最初はとても心地よい。
でも空で泳ぐのは難しい…
私は次第に疲れて落ちてしまいそうになる…
落ちないために私は必死でもがく--
苦しい--


これまで様々な「女」を描いてきた倉科遼(くらしなりょう)が、毎回違った漫画家と組んで「ビッグコミックスペリオール」に連載している『十人十艶(じゅうにんといろ)』の2作目です。
一作目は岩下博美作画による『星を食べる女』。

主人公の中村今日子27歳は太陽テレビ入社5年目の女子アナウンサー。局では「ナカキョン」の愛称で呼ばれ、早朝のニュース番組「モーニングサン」の情報キャスターの司会をしていたが、ある朝遅刻をして放映に間に合わなかった。しかし自分の後輩が代役を務め、なんの支障もなくいつものように進行する番組。今日子は自分の存在は何なんだろうと疑問を抱く。

一ヶ月の謹慎を言い渡される今日子。それは事実上の番組降板。「可愛い」だけがウリで、年齢的にも曲がり角の彼女。
そんな時、2年前から交際していた、大リーグ移籍の決まった恋人の木坂良輔(きざかりょうすけ)にプロポーズされる。女子アナとしてまだ満足な仕事をしていない、しかし東京ジャガースのエースと寿退社すれば何不自由ない生活を手に入れられるかもしれない。限界に来ている自分には格好の逃げ道だ。
今まで与えられた原稿をカメラの前でただ読み上げ、追従(ついしょう)笑いするだけだった彼女は、番組を降ろされたからといって給料泥棒をさせるわけにはいかないと、フリーディレクターの水元(みずもと)が取材してきたドキュメンタリーのナレーションの仕事を命じられます。
水元が撮ってきたのは中東の紛争で難民となった子供達のドキュメント。リハーサルが始まると、「バラエティーじゃないんだ! そんな舌っ足らずの甘えたような声と喋りはやめてくれ!!」と怒鳴られる。チャラチャラした局アナには無理だと言う水元に、それなら映像を通して見せてくれと今日子は言い返す。大国間のパワーゲームに翻弄され紛争で荒廃した小国、その紛争で家族を失い途方に暮れる子供達の姿。その映像を見て「伝えたい」と、自分がマスコミを志した原点を思い出した今日子は何度ものリテイク、深夜に及ぶ作業で、初めて難しい仕事をこなしたという満足感を得る。
降板させられた今日子の前にある選択肢は、政治力に優れていて社の役員達とのパイプも太い先輩アナウンサーの久保田に抱かれて番組に返り咲くか、木坂と寿退社して結婚を逃げ道にしてメンツを立てるか。
仲の良いミカ先輩はそれで女子アナを続けられるのなら一回くらいやらせればいいと言う、母は女の幸せは結婚だと言う。
仕事と引き替えに上司から関係を迫られていると水元の働いているバーに相談に行くと、彼は女子アナなんて所詮電波芸者で寝るのも仕事だと、わざと今日子を突き放す。


それなら抱かれてやる、電波芸者になってやると、久保田と食事に行く今日子。だが「女子アナなんてテレビの前の視聴者に肉体(からだ)を売るのが仕事なんだ…」と言われブチ切れた今日子は、自分はテレビでやりたいことがあってこの仕事を選んだのだと、久保田を殴り倒してしまう。
殴られた反動でカツラ(笑)が取れてしまった久保田は、お前のやりたい仕事はアナウンサーじゃなくて「報道」だと、その違いも分からないお子様のくせにいっぱしの口利くなと今日子を睨み付ける。
もう自分の女子アナ人生は終わりだと、良輔からのプロポーズを受ける今日子。まだ女子アナとなってやりたいことをやっていない今日子はまたあの空を泳ぐ夢をみる。夢の中で助けを求めると、自分の手をつかんですくい上げてくれたのは、婚約者の良輔ではなく、水元だった。

自分はまだ自分にしかできない仕事を何一つしていないとミカ先輩に結婚を逃げ道にしてしまった葛藤を打ち明ける今日子、自分達の仕事は所詮、番組のお飾りだと答える先輩。

女性に限らず、男でも自分の本当にやりたい仕事をやり、仕事に生き甲斐を感じている人は少ないと思います。今の仕事は自分に向いているからと惰性で続けるのも、与えられたポジションをこなすだけと割り切るのも、どちらも一つの選択肢です。
しかし水元のように40近くになってもやりたい仕事のためにバイト暮らしを続けながら使命感を持って番組を撮っている人もいる。そんな水元のような生き方に憧れると言う今日子は、マスコミの中にいる義務と責任を認識し、原点に戻る。
本当にやりたい仕事をすれば、あの空を泳ぐ夢は見なくなる。
目覚めた以上、もうこれまでと同じ生活、同じ生き方は続けられないと、今日子は良輔のプロポーズを断る。婚約を破棄しフィアンセに殴られた今日子はその夜、また空を泳ぐ夢を見る。夢の中でもがき、しかし初めて自分で呼吸でき、水面に出られた今日子。とても大きく鮮やかな満月が頭上に見えた。

やりたかった仕事をせず、結婚に逃げることもできなかった今日子は、辞表を出せと冷たい視線の中、女子アナは辞めるが太陽テレビを辞めるつもりはないと答える。水元は自分に、太陽テレビには居づらいからヨソの下請け会社に行くのは逃げることだと言った。太陽テレビの報道部への異動を希望する今日子。
本人が行きたいと言うなら行かせてやれと口を利いてくれるミカ先輩。「ナカキョン… もう逃げられないわよ。いいわね?」。


私は中村今日子、28歳--
今日もこの太陽テレビで働いている…
私らしく生きるために--
そして私は--
空を泳ぐ夢を見なくなった--


お薦め度:★★★☆☆
万人向けだとは思いませんが、私は気に入ってます。
現実に向き合うと言いながら、水元も今日子も「綺麗事」で終わっている感じはしますが、私はそれで構わないと思います。「漫画」と云うメディアは自分にとって何なのかということはうまく書けないので割愛しますが、真実を突き付ける媒体ではなくあくまでも「漫画」であって欲しい、そんな思いを込めて3つ星。

第1話の試し読みができます。
http://big-3.jp/bigsuperior/rensai/zyuuninntoiro/index.html

マクロミルへ登録
【マクロミル】アンケート会員募集中!謝礼ポイント有

↓3作目はまだなの?
にほんブログ村 漫画ブログ コミックス感想へにほんブログ村
にほんブログ村 トラコミュ 漫画、マンガ、まんが、コミックへ漫画、マンガ、まんが、コミック
にほんブログ村 トラコミュ 青年マンガへ青年マンガ

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。