アルバニトハルネ紀年図書館

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『無抵抗都市』/丸尾末広

2010-08-15 | 青年漫画
 
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一九四六・東京
連続婦女暴行殺人の
白面の色魔Kが逮捕されたその夏
一組の奇妙な男女の出会いがあった。



戦争未亡人の惨めな戦後を描いた『無抵抗都市』。『丸尾地獄 II』という1200部限定の上製本に採録された物で私は持っています。
この作品の前編が掲載された『ガロ』1993年5月号のインタビューで、作者の丸尾末広は「(戦後の焼け野原の)ほんの一ヵ月くらいの間のことを描こうと思っているんだけどね。」と意欲的(?)に語っていて、前後編の予定は手間をかけ過ぎたのか、およそ80ページを4回に分けて描くという結果になりました。



敗戦から一年、闇市に店を出すこともできず、路上で一本3円のろうそくを売っていた若杉セツ子とその息子・光(ヒカル)の前に、壁から醜い男が現れる。平井と名乗ったその小人は、母子の素性をなぜか知っており、自分は米軍将校と知り合いだからと食料を差し出し、女に結婚を迫る。しかし彼女は自分は未亡人ではないと言い張る。
「西洋人の目から見れば日本人などみんな小人(ミゼット)のようなもの そんな奴等がどうして私を差別できるのです」。
チフスだろうと占領軍だろうと、空襲にくらべればこわくないはずだという平井の言葉は、女には届かない。弱い生き物は擬態して身を守るしかない。そして彼女は愛の言葉をささやく小人を心の中で嘲笑する一方で、復員した夫が息子を連れ去る悪夢にうなされ続ける。
食べ物で懐柔された息子が平井に殺されることにより悪夢は現実となるが、女はまだ真相を知らない。

この焼き鳥を喰べろと女を元気づける平井。寝苦しいバラックに米兵が踏み込んできて彼女を犯そうとした夜、女は自分を助けてくれた平井に抱かれてしまう。

「私はなんと意志の無い女だろう
ふと気がつけば、この男に抱かれているではないか
そうだ 私は夫のいるガダルカナルが地球の何処にあるのかも知らない馬鹿女だ」。

警察から真相を聞かされ、平井が姿を消す。日本国憲法が公布されたその年の秋、バンザイを叫ぶ者達と涙を流す者達の人混みの中で、人肉を喰い、人殺しの子を身ごもった女は嘔吐する。その光景を見下ろしていた平井は壁のシミと同化して完全にこの世から姿を消す。

描き直された結末では女は腹を切って死ぬ。

私は自殺するのではない
腹の中のできものを切り取るのだ
夫がここへ来る前に床のシミに擬態して隠れていよう



お薦め度:★★★★☆
丸尾末広の描く漫画は汗と糞尿にまみれている。女は屈辱的な抱かれ方をし、美しく描かれた死体は食糧になる。
若杉セツ子という女性は陵辱された日本そのもの。新円の発行により財産を奪われ、新憲法の公布により価値観を奪われた日本を体現している。
8月15日にこんな「汚物」を読み返すのもまた一興ではないでしょうか。



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