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『ゴルゴ13』第51巻「毛沢東の遺言」

2008-02-21 | 読書
『ゴルゴ13』第51巻
表題の『毛沢東の遺言』は1960年代末から1970年代まで中華人民共和国に吹き荒れた粛正と虐殺の嵐「文化大革命」とは一体何だったのかが外部、西側諸国からその全貌がつかめ始め、冷静に分析され始めた1981年1月作品。

物語は
-永かったプロレタリア文化大革命を終え、四人組を追放した中国はいま近代化という名の資本主義への道を、まっしぐらに進みはじめている……
と始まる。

この作品が描かれた時にはまだ生存していた中国革命の雄・葉剣英(1897-1986)が病床に弁公室(この場合「中国人民解放軍弁公室第四処"国防情報局"」のこと)の同志三人を呼びつけた。病状が再び悪化せぬうちに毛同志の「遺言」を伝えておきたい、と…。
それは1976年に死去した毛沢東の、華国鋒が無視した「もう一つの遺言」_
「もう一度小東郷に会ってみたい。小東郷を捜せ…」
小東郷とは、1944年の戦闘で壊滅状態の関東軍を殲滅し終えた時に銃撃戦に参加していた齢3歳の日本人の子供だった。
戦闘の指揮をとっていた葉剣英はその子供を殺さずに捕らえるように命じた。名を尋ねると東郷と名乗ったので「小東郷」と呼ばれ、毛沢東もこの子供に興味を示した。
毛沢東の期待に応えるように連日の厳しい訓練・英才教育で「あらゆる状況を突き破れる万能の人間」になりつつあった小東郷だが、ある日突然姿を消した。
原因は江青の嫉妬だった。
35年前に消息を絶った小東郷を捜す手掛かりは一枚の写真と日本軍の細菌部隊の将校がつけていたドクロの指輪。

日本が戦時中、中国にて発足させた研究期間に関して「中立的」な立場で書かれた本はあまりない。
「細菌部隊」と云う呼称を使用している段階で既に日本を「悪者」と決めつけている感がある。
731部隊の正式名称は「関東軍防疫給水部」であり、その本来の目的は伝染病の研究・予防と飲料水の水質向上であった。
同部隊が人体実験を行っていたのは事実だが、『七三一部隊』(講談社現代新書)で著者の常石敬一が石井機関にいた内藤良一を訪問した時に示された、同部隊のあげた「成果」も羅列されている。
・乾燥人血漿(輸血代用)
・濾水機
・ペニシリン(碧素)
・BCG(乾燥)
・ペストワクチン
・発疹チフスワクチン
・コレラワクチン
・破傷風血清
ペニシリンも石井機関の成果だったわけだが、著者は1945年3月の東京大空襲で被災者に対してペニシリンが使用されたことを付記している。日本がペニシリンの開発に着手したのは1943年末からであるから、皮肉なことに中国大陸での「人体実験」がなければここまで早く量産体制に持ってゆくことはできなかっただろう。

話を『ゴルゴ13』に戻そう。
細菌部隊の上級将校「内藤高人」が藤尾高夫と名を変えて今も日本で生きていると云う情報を元に弁公室の三人は日本へ向かう。
その時藤尾はイラク海外保安局からの依頼でゴルゴに命を狙われていた。
ところが我々はあなたの戦争犯罪を暴き立てに来たのではない、小東郷の話を聞きたいと訪ねてきた弁公室の三人は「ゴルゴ13」を知らなかった_
「おはずかしいのですが
……わが国の情報機関は、文革の混乱のためにメンバーが入れかわったりしまして………
海外情報蒐集が出遅れているのが、現状です……」
藤尾の証言によると、写真の少年はあの時の「創出児」だろう、「ルーベンスボルン作戦」、ナチス・ドイツを真似て優秀な東洋人の血をかけあわせて超高度東洋種族の創出に取り組んだ作戦。
小東郷の父親は東郷宗介、母はジンギス汗の末裔「ツベルマ」_

ゴルゴが「デューク・東郷」の名を使っていることすら知らなかった弁公室の三人は足取りを追って飛騨山中で世捨て人となっている東郷宗介を訪れる。息子の名は「狂介」。
東郷宗介は自分の体に半分流れている忌まわしい血を忘れたくて超高度東洋種族創出所でツベルマと毎晩交合していた。だが生まれてきた子供は今や「ゴルゴ13」と呼ばれる殺人機械だった、ゴルゴの現在の顔写真を見せられ東郷宗介はそう確信し彼を飛騨山中に呼び出す。
「用件を聞こうか………」
「私を……覚えているか……!?
おまえの父親の、東郷宗介だ………!!」
一言も語らないゴルゴ。重苦しい沈黙が漂う。
刀を抜くと同時にゴルゴの銃弾に倒れる東郷宗介。
「き…狂介!!……」
と名を呼ばれても何の感情も顔に出さないゴルゴ_

一方、ジャーナリストのマンディ・ワシントンの元にマッジ・ペンローズの草稿の一部が発見されたとの情報がもたらされる。
イギリスとアイスランドの中間にあるミルズ島にあった原稿、そこにはゴルゴの出生の秘密が記されていた。
その原稿を追い求めてミルズ島にやってきた弁公室の三人、だがこれを読めば小東郷とゴルゴ13が同一人物であるか否かがはっきりするというその瞬間、ゴルゴが現れた。
弁公室の三人を冷徹に始末するゴルゴ。
あんたは"小東郷"なのかと尋ねる、死んでいく相手にも心を許さない殺人機械_

三人の死の報が北京に届く。
だが葉剣英には「小東郷の死亡記録が見付かった」との虚偽の報告が為された。
「"小東郷"は死んでいたのだ!
それでいいんだよ、それで……
これ以上長老たちに弁公室を、ひっかきまわされたのではたまらん!!…………
いつまでも長老ヅラするのはこれくらいにしておいてもらおう…」

ゴルゴの出生の秘密は遂に明かされることはなかった。否、彼等はそれに「触れる」ことをやめたのだ_


「毛沢東の遺言」(1981/1)
「橋は崩れた」(1980/2)
「モナリザの弾痕」(1981/2)
の3作を採録。

尚、マンディ・ワシントンに関しては第14巻『日本人・東研作』
マッジ・ペンローズに関しては第43巻『ミステリーの女王』
を参照のこと。

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