人間のこころには時間を測定する二つの主な尺度がある。大きな方の尺度は人生の長さをその単位とするから、人生を測定することはできない。人生は動物的な威厳と単純さとを具えていて、穏やかな宿命論的観点から眺められるにちがいない。小さな方の尺度は意識の瞬間を単位とし、諸君が隣接する空間とか、意志のはたらきとか、打ち解けた口調の繊細さとか、自分の個性とかを考えるのは、この尺度からである。二つの尺度は非常にかけ離れていて、ほとんど二つの次元を明確化するような効果を与える。それらが接触しないのは、一方の尺度では大きすぎて考えられないものが他方の尺度では小さすぎてやはり考えられないからである。かくして、二つの単位の長さを一世紀および四分の一秒とすると、それらの比は一対一〇の一〇乗であり、それらの平均値は標準的な一日の労働時間となる。
「曖昧の七つの型」ウィリヤム・エンプソン著 星野徹、武子和幸訳 思潮社 1972年
富翁
「曖昧の七つの型」ウィリヤム・エンプソン著 星野徹、武子和幸訳 思潮社 1972年
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