日常

ヒッグス粒子と「重さ」

2012-07-05 18:15:05 | 時事
ヒッグス粒子の発見、すごい!
夢がありますね。

でも、あんだけ小さい粒子を検出するのに、あんだけどでかい施設とお金が必要になるっていうのは皮肉なものです。

物質のミクロのミクロまで到達。

素粒子(クォーク・レプトン)
陽子・中性子(ハドロン)
原子核
原子・分子
物質
生物
人間
地球
宇宙

マクロ世界はミクロ世界のアナロジーで説明され、同じようにミクロ世界もマクロ世界のアナロジーで説明される。
入れ子構造のようなもの。
手塚先生の「火の鳥、未来編」を読んだとき、そういう世界の神秘に衝撃を受けたものです。
空中浮遊やスプーン曲げやお化け・・・なんかよりも、よっぽどそのことの方がすごい!


物質の果てに来たので、次は、物質に還元できない世界に向かうでしょうね。
別に神秘的でも怪しい世界でもなく。当たり前のように、「不思議そのもの」としてこの世界に満ち満ちている森羅万象の「フシギ」。
不思議を不思議と受け取る素直な心。
モノ(物質)としてないけれど、確かにそこにあるもの。
コトバだけでギリギリ感知できるもの。
普段の生活は、そういうものの方が圧倒的に多いわけですからね。





ヒッグス粒子の例えが、
『人混みを通り抜けるとき、人気がある人は多くの人(=ヒッグス粒子)がまとわりついて動きづらくなる。この「動きづらさ」が、「質量・重さ」である。』
というのは面白いですね。

松尾芭蕉が追求したような「軽み」を目指すには、不必要なものを所有せず、風が通り抜けるように自由に生きる、ってことなんでしょうか。
そうなると「重さ」は「軽み」になる。

物理の世界って、ほんと面白いです。ほんとうは僕らにとっても身近な世界のはず。
物理学は「もの(物)のことわり(理)」を学ぶ世界ですからね。
心理学は「こころ(心)のことわり(理)」を学ぶ世界。
いろんなものの「ことわり(理)」を、好き嫌いや偏見を捨てて「軽やかに」学びたいものです。

せせこましい仕事や勉強が飽きてきたら、宇宙とか物理の本を読んでると、悩みそのものがアホらしくなってきて気分が晴れます。(ただ、脳が「あの世」に行っちゃってなかなか日常世界に復帰できない。笑)

○アインシュタイン,インフェルト「物理学はいかに創られたか」岩波新書 (1963/9/20)

〇南部 陽一郎「クォーク 第2版」ブルーバックス(1998/2/20)

〇R.P.ファインマン「物理法則はいかにして発見されたか」岩波現代文庫(2001/3/16)

〇ブライアン グリーン「エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する」草思社 (2001/12)

〇リサ ランドール「ワープする宇宙―5次元時空の謎を解く」日本放送出版協会 (2007/06)

〇レオン・M. レーダーマン「対称性―レーダーマンが語る量子から宇宙まで」白揚社 (2008/04)

○W.ハイゼンベルク,E.M.リフシッツ, P.A.M.ディラック, E.P.ウィグナー, H.A.ベーテ, O.クライン「物理学に生きて―巨人たちが語る思索のあゆみ」ちくま学芸文庫(2008/1/9)

〇サイモン シン「宇宙創成」新潮文庫(2009/1/28)

〇フランク・ウィルチェック「物質のすべては光―現代物理学が明かす、力と質量の起源」(2009/12/18)

〇ブライアン・グリーン「宇宙を織りなすもの――時間と空間の正体」草思社 (2009/2/23)

〇橋本省二「質量はどのように生まれるのか―素粒子物理最大のミステリーに迫る」ブルーバックス (2010/4/21)

○グレアム・ファーメロ「量子の海、ディラックの深淵――天才物理学者の華々しき業績と寡黙なる生涯」早川書房 (2010/9/24)

○アーサー・I・ミラー「137 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯」草思社(2010/12/14)

〇ブライアン・グリーン「隠れていた宇宙」早川書房 (2011/7/22)





(以下は個人的にお勉強)

■ヒッグス粒子

ヒッグス粒子は、宇宙を構成するすべての物質に「質量」を与えるものとして、イギリスの物理学者ピーター・ヒッグス氏が1964年に存在を予言。
1960年代以降、物理学の標準理論で予言された17の素粒子のうち、ただ1つ見つかっていなかった素粒子でもある。

ヒッグス粒子が存在しなければ星や生命なども生まれないと考えられるため、「神の粒子」とも言われる。


ヒッグス粒子は宇宙のすべての物質に「質量」・「重さ」を与える。
137億年前、宇宙誕生のビッグバンで生み出された大量の素粒子は、当初は質量がなく自由に飛び回っていた。
その後、ヒッグス粒子が宇宙空間を満たし、素粒子がヒッグス粒子とぶつかることで次第に動きにくくなり、物質を構成していったと物理学者たちは考えた。

ヒッグス粒子にぶつかることで動きにくくなる。この「動きにくさ」が質量そのものだと考えられている。

ヒッグス粒子はよくパーティー会場のたとえ話で説明される。
会場を訪れた大勢の人たちが「ヒッグス粒子」だとする。その人波の中を、有名人が通りすぎようとすると、多くの人にまとわりつかれて動きづらくなる。この「動きづらさ」が、質量・重さだと。


ヒッグス粒子を見つけるための実験は、スイスジュネーブ郊外にあるCREN(ヨーロッパ合同原子核研究機関)に設けられた巨大なトンネル状の加速器。円周は27キロ。山手線一周に匹敵する。

加速器は陽子を猛スピードで正面衝突させて、高いエネルギーの状態を人工的に生み出し、新たな粒子が生じるのを確認する。
CRENは、5000億円の予算と16年の歳月を費やし、2008年に運用を開始した。

陽子と光を同じ速さで正面衝突させると、宇宙が誕生した大爆発「ビッグバン」直後に似た高いエネルギーの状態が再現され、さまざまな粒子が生じる。
1秒間に数億回もの衝突で得られる膨大なデータを解析することになる。





ノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士の理論からその存在が予測されたヒッグス粒子が、宇宙を満たす謎の暗黒物質(ダークマター)と同じものであるという新理論を、大阪大の細谷裕教授がまとめた。

“二つの粒子”は、物理学の最重要テーマで、世界中で発見を競っている。

暗黒物質は安定していて壊れないが、ヒッグスは現在の「標準理論」ではすぐに壊れるとされており、新理論はこれまでの定説を覆す。
証明されれば宇宙は私たちの感覚を超えて5次元以上あることになり、宇宙観を大きく変える。

ヒッグスは、質量の起源とされる。
普段は姿を現さないが、他の粒子の動きを妨げることで、質量が生まれるとされる。

一方、衛星の観測などから宇宙は、光を出さず安定した暗黒物質で満ちていると予想されている。
細谷教授は、宇宙が時間と空間の4次元ではなく、5次元以上であると考え、様々な粒子が力を及ぼしあう理論を考えた。
その結果「ヒッグスは崩壊せず、電荷を持たない安定した存在」となった。




我々が住む宇宙は3つの空間次元と1つの時間次元からなる4次元時空のように見えるが、実は5次元以上の高次元世界で、3の空間次元以外の余剰次元はコンパクトに巻き上げられていると超ひも理論では説明していた。

ところが、リサ・ランドール博士らは余剰次元の大きさは無限大もあり得ると。
ではなぜ検知できないのかというと、我々の世界を構成する素粒子が全てブレーンと呼ばれる膜のようなものに捉えられており、グラビトン以外の粒子は高次元空間と相互作用ができないためという。
この理論はLHCの1TeVくらいのウィークスケールエネルギーで検証可能ということで、その結果が注目されている。


(高エネルギー加速器研究機構より)
■<宇宙創成の瞬間>
天文学者ハッブルは、地球から遠く離れた天体がどちらを見ても地球から猛スピードで遠ざかっている事を観測で明らかにしました。これは宇宙が一様に膨張していることの証拠です。

また、得体の知れない雑音電波としてペンジャースとウイルソンを悩ませた、宇宙を満たしている弱い電波(宇宙マイクロ波背景輻射)は、宇宙の膨張とともに温度が下がり続けている黒体輻射(ビッグバンの残光)であることがわかりました。邪魔な雑音電波と思われたものが実は宇宙がビッグバンより始まったことを示す決定的な証拠となる世紀の大発見だったわけです。

今から 約137億年ほど前、私たちの宇宙は大爆発とともに生まれたと考えられています。
その誕生直後の宇宙は、熱く煮えたぎり、高いエネルギーの光で満たされていました。この光が雑音電波の正体だったわけです。
現在、私たちは、このビッグバンの痕跡の中で生活しているのです。


宇宙の進化の歴史は、物質の進化の歴史であると同時に、力の進化の歴史でもあります。

現在の宇宙論によれば、重力が他の力と同じように重要になる創成より10-43秒まで時間をさかのぼって考えることができます(これより前は、量子揺らぎによって、時間とか空間という概念そのものが怪しくなります)。

創成より『わずか』1マイクロ秒間の世界は、基本粒子であるクォークとレプトンの世界でした。

コライダーによる高エネルギー実験は、まさに、この最初の1マイクロ秒間の、クォーク・レプトンの世界に何が起こったのかを、実験室内に再現しているのだと考えることができます。
例えば、現在計画中の大型高エネルギー加速器で到達可能なエネルギーは、宇宙年齢にして10兆分の1秒(10-13秒)に対応しています。温度はエネルギーに比例するので、これは、宇宙の温度にして1016度、つまり、1兆度のそのまた1万倍の温度に対応します。さらに宇宙創成直後に迫る10-38秒のときには、力は大統一されていたと考えられています。

さらに進んで、重力を含む全ての力の超対称大統一理論が確立されれば、宇宙創成のほとんど瞬間まで迫ることができるのです。


宇宙は『真空のゆらぎ』から生まれ、インフレーションと呼ばれる急激な膨張により、過冷却状態になったと考えられています。
その時真空に蓄えられたエネルギーが急激に開放され、宇宙は熱い火の玉となりました。


■<新粒子発見、20世紀なかば>
一般に、物質を構成する最も基本的な粒子を素粒子と呼んでいます。
地球上のものは、1億分の1センチメートル程度の大きさの原子からできています。
また、原子はその大きさの1万分の1の原子核と、その回りに引き付けられた電子よりできています。
さらに、原子核は幾つかの陽子と中性子が結び付いたものです。


1897年、J.J.トムソンは真空管を通る陰極線が電子であることを発見しました。この発見が素粒子発見の第一号です。

当時、物理学者の興味の対象でしかなかった電子が、100年の後エレクトロニクス技術の基礎となり、TV、パソコンを始めとする今日の高度情報化社会を生み出しました。
特に、テレビのブラウン管は陰極線をそのまま利用しています。

1930-1940年代には宇宙線の中から、電子の反粒子である陽電子、ミューオン、湯川秀樹博士の予言したパイ中間子などが発見されました。
1950年代以降、粒子加速器を用いて、陽子の反粒子である反陽子そしてK中間子を始めとする多くの粒子が生成され発見されました。その総数は数百にも上ります。
そのほとんどは電気力より100倍の大きさの強い力を及ぼしあうハドロンの仲間です。
すべての粒子には、陽電子、反陽子などのように互いに出会うと消滅してしまう反粒子が存在することも判明しました。

電子や陽子以外の粒子は、自然界で安定に存在することができません。
それらの平均寿命はきわめて短く、すぐに、パイ中間子、K中間子、ミューオンなどの比較的寿命の長い粒子に崩壊してしまいます。
また、中性子は原子核の中だけで安定に存在し、その外に置かれたとき平均寿命15分20秒で崩壊し陽子、電子、ニュートリノに変化してしまいます。


歴史的には、陽子、中性子そして他のハドロンも素粒子と呼ばれていました。
それらはクォークという粒子で構成されている複合粒子であることがわかりましたので、厳密な意味で素粒子ではありません。
本来、素粒子とは『内部構造を持っていない粒子』を指します。

現在のところ、物質の素粒子は、
電子、ニュートリノ、ミューオンなど強い力を感じないレプトン、そして、ハドロンを作るクォークです。


■<クォークとレプトン>
1960年代、数百種類にも上るハドロンを分類するよい方法が提案されました。
陽子、中性子などバリオン族はクォークと呼ばれる小さな素粒子3個、
また、パイ中間子など中間子族は一対のクォークと反クォークからできていると考えるアイディアでした。

当時、3種類のクォークがあると考えられました。たった3つのクォークによって、数100のハドロンを分類し、その性質を予測できることは革命的な進展でした。

3つのクォークはアップ、ダウン、ストレンジと名付けられました。
電子がその電荷を通じて電磁気力を感じるように、クォークは『赤、青、緑』の3つのカラー荷を通じて強い力を感じます。

このクォークモデルの提唱以来、今日まで、数多くのクォーク探索が行われましたが、未だ単独では発見されていません。これは強い力の持つ特異な性質によるためと考えられています。

クォークは単独で取りだした形では見つかっていませんが、その存在は、高エネルギーのレプトンで陽子を激しくたたく(非弾性散乱)実験により、陽子の中に存在する点状粒子(パートン)として確認されています。


レプトン(軽粒子)とは、強い力を感じない素粒子のことです。
それらは電子、ミューオン、タウとそれと対をなす電子ニュートリノ、ミューオン・ニュートリノとタウ・ニュートリノです。
ミューオンは20世紀の初頭に宇宙線の中で発見され、タウは電子陽電子衝突型加速器で20年ほど前に発見されました。


■<秩序あるクォーク・レプトン>
1970年代になると、電子・陽電子コライダーによる高エネルギー実験が精力的に行われるようになりました。
これらのコライダーでは電子と陽電子が消滅し、クォークと反クォークが対生成されることが観測されました。

確かに、低いエネルギーでは、カラー荷を持ち半端な電荷を持つアップ、ダウン、ストレンジの3種類のクォークが対生成されていました。
電子・陽電子の衝突エネルギーを高くしていくと、さらに2種類のクォークが次々と発見されました。
第4番目のクォークはチャーム、第5番目はボトムと名付けられました。
チャーム発見とほぼ同時期に、電子、ミューオンに続く電荷を持つ第3番目のレプトンも発見され、タウと名付けられました。


5つのクォークの内、アップとチャームは +2/3e の電荷を持ち、残りのダウン、ストレンジ、ボトムクォークは-1/3e の負電荷を持っていることも確かめられました。電子は -e の電荷を持っています。

さらに仲間分けをしてみると、6つのクォークが3つの対( +2/3e 電荷、-1/3e 電荷)を形成することが強く示唆されます。
1973年に、このような6クォークの理論が、4つめのチャームクォーク発見の前年に小林と益川によって提唱されていたことは特筆に値します。
ボトムクォークと対をなすと期待されていた第6番目のトップクォークは、1995年になってようやく陽子・反陽子コライダーで発見されました。


また、レプトンも電荷を持たない3つのニュートリノを加えた6種類あり、クォークと同様に3世代を形成しています。
これら世代は質量以外同じ性質をもっており、どうして3つの世代を必要とするのか、また、このようなクォーク・レプトンの対称性はどのような法則に基づくのかなど謎に包まれています。



■<粒子と反粒子>
イギリスの天才物理学者ディラックは、自然をつかさどるもう一つの基本法則であるアインシュタインの相対性理論と合体させる作業にとりかかりました。
非相対論的なニュートン力学が、光の速さに近いスピードで運動する物体に適用できないように、量子力学も、相対性理論との合体なくして、高速で運動する電子を正しく扱うことができないことは明らかだったからです。

こうしてできあがったのが、電子の相対論的運動方程式であるディラック方程式です。
この方程式を解いてみると、-eの負の電荷を持つ電子を表す解だけでなく、電子と同じスピンや質量を持ちながら、+eの正の電荷を持つ粒子と解釈できるもう1つの解が出てきたのです。
これは予想外のことでしたが、今にして思えば、電子の反粒子である陽電子に対応する解に他なりませんでした。
ほどなく、こうして予言された陽電子が実験で見つかりました。これは、相対論的量子力学の輝かしい勝利でした。


今では、素粒子を記述する相対論的量子場理論の必然的な帰結として、全ての素粒子が、それと同じ質量を持ち、電荷のような符号を持つ(加算的)量子数が正負反対であるような反粒子の相棒を持つことが分かっています(符号を持つ量子数を持たない粒子の場合は、自分自身が自分自身の反粒子だとみなせます)。
相対論的量子場理論が描く素粒子の世界は、以下に説明するように、粒子と反粒子が次々と生まれたり消えたりしながら移り変わっていくとてもダイナミックな世界です。


■<対消滅と対生成>
粒子と、反粒子が出会うと、量子数が正と負で打ち消しあってゼロになり、真空と同じ状態になります。
そしてそこには、もともと粒子と反粒子が持っていたエネルギーが残ります。これを対消滅といいます。
静止した粒子と反粒子が対消滅した場合には、アインシュタインの関係式
E = mc2
によってエネルギーと質量が等価であることが分かっていますから、粒子と反粒子が同じ質量を持つことを考え合わせると、そこには2mc2 のエネルギーが残されることになります。
高いエネルギーに加速された粒子と反粒子が正面衝突して対消滅した場合には、消滅した点にはさらに高いエネルギーが集中して残されます。


対消滅とは反対に、真空の1点に2mc2 以上のエネルギーを集中させれば、そこから粒子と反粒子の対を取り出すことができます。
これを対生成と呼んでいます(ここまであいまいにエネルギーの集中と呼んできたものは、実は粒子と反粒子を対にして生み出す力を秘めた、光子や、Z粒子、グルーオンなどの力の粒子の特殊な状態だと考えられます)。

十分なエネルギーを注入できれば、宇宙創成直後の超高エネルギーの世界にしか存在しなかったような、重い粒子を作り出すこともできるのです。高エネルギー衝突型加速器は、まさにこの方法を使って、今まで人類が知らなかった新粒子を見つけたり、また、それらの粒子の間に働く力を調べるための装置なのです。


■<反物質の世界>
全ての粒子にその反粒子が存在し、それらが出会うと対消滅してエネルギーになってしまうのだとすると、もし私たちの近くに反粒子だけでできているような反物質があったら大変です。
もし私たちの銀河系の近くに反物質でできた反銀河系があったら、私たちの銀河は消し飛んでしまうでしょう。
それなのに、私たちの身の回りだけでなく宇宙を見渡す限り反物質の世界などどこにも見あたりません。


ロシアのサハロフ博士、日本の吉村太彦博士、アメリカのワインバーグ博士らによって提唱された仮説は次のようなものです。

● もともと、宇宙創成直後の超高エネルギーの世界では、粒子と反粒子が対消滅、対生成を繰り返し、それらは同数あった。
● それらの大部分は宇宙の冷却に伴って対消滅してしまった(消滅のエネルギーが宇宙の膨張で薄まって、再度対生成できなくなった)。
● しかし、粒子と反粒子で反応法則にわずかな違いがあり、その差の分だけ粒子だけが残った。


この仮説では、粒子と反粒子でそれを支配する法則がわずかに違う点が決定的に重要です。
この粒子と反粒子のわずかな違い、これを「CPの破れ」と呼んでいます。

この破れの本質は、未だ謎に包まれています。しかしながら、クォークが6種類以上あれば、この破れが自然に理論に現れることは、小林と益川によって指摘されています。
この理論を検証し、また、CPの破れの本質に迫ろうとするのが、Bファクトリーの実験です。


■<自然界の4つの力>
19世紀末、物質が、少数のクォーク、レプトンからできていること、そして、それを支配しているのがたった4種類の力であることが分かりました。
しかもこれらの力は全て力の粒子を交換することによって働くことが分かったのです。これは20世紀の科学の生み出した偉大な成果の一つです。

それらの自然力の4つの力とは、「重力、電磁気力、弱い力、強い力」です。

<重力>
重力はすべての素粒子に引力(万有引力)として働きます。
重力は遮られることなく無限遠まで働くため、マクロの世界を支配しています。
地球、太陽、銀河系などの天体の運行をつかさどり、巨大な宇宙の構造を作り出しています。

私たちを地球に引きつけている重力は、重力子の交換によって伝わります。重力子は質量を持たないので無限の遠方までとどきます。
●重力=重力子の交換

重力は質量に比例します。一方、質量はエネルギーと等価です。
E=mc2

重力はすべての粒子に働きます。しかし、素粒子の質量は非常に小さく、現在の加速器で到達できるようなエネルギーでは素粒子間の重力は非常に小さく無視できますが、ビッグバンによる宇宙創成直後のような超々高エネルギーでは重要になってきます。

<電磁気力>
電磁気力は電気力と磁気力の2つの力として私たちの身近にあります。この一見違った2つの力が実は同一のものであることは、19世紀にはすでに解明されていました。

よく知られている静電気や磁石の力だけでなく、私たちが日常経験する重力以外のすべての力は電磁気力です。

特に、電子と原子核を結びつけ原子を作る力、原子同士を結びつけ分子を作る力は、電磁気力です。
電磁気力は、光子の交換によって伝わります。光子は質量を持たないので、遮られなければ電磁気力も遠くまでとどきます。
●電磁気力=光子の交換


電磁気力は電荷に比例します。電荷を持った粒子は、目に見えない光子(仮想光子)をお手玉しながら走っています。言い換えれば、電荷粒子は光子の衣を着ています。
電子が電磁石などで急に向きを変えられると、光子の衣が引きちぎられて飛び出します。これが放射光です。

<弱い力>
弱い力はとても短い距離の間でのみ働きます。
通常、電磁気力よりもはるかに弱いのでこの名前がつけられました。すべてのクォーク、レプトンに働きます。

これは、原子核のベータ崩壊、中性子、パイ中間子などの粒子の崩壊の原因となる(粒子の種類を変えることのできる)力です。
日常は経験することのない力ですが、ミクロの世界では重要な役割を果たしています。
●弱い力=W,Z粒子の交換

弱い力を媒介する力の粒子、W、Zは大きな質量を持っています。
そのため、力の本質的な強さを表す結合定数は電磁気力と同程度ですが、力が届く距離が非常に短く、力の見かけの強さが弱く見えるのです。力の強さが弱すぎて、日常世界で感じることはありません。


W粒子や、Z粒子は、もともと光子と同様に質量を持たないゲージ粒子ですが、真空中のヒッグス場との相互作用により質量を持ったと考えられています。
ヒッグス場との相互作用がなければ、これらの力の粒子の運ぶ力は、もともとは同じものだと考えられます。
そこで、現在では、光子の伝える電磁気力と、WやZが伝える弱い力は、電弱力としてまとめられています。

<強い力>
強い力は全てのカラー荷を持つ素粒子に働きます。
電磁気力の 100 倍程の大きさを持つ最も強い力なので、この名前がつけられました。
クォークを結びつけ、陽子 (p) や中性子 (n) を作り、また陽子同士の間に働く電気的な斥力に打ち勝ち、中性子とともに原子核を作ります。
●強い力=グルーオンの交換

強い力はカラー荷に比例します。クォークのカラー荷には、赤、青、緑の三原色があります。
強い力を媒介する力の粒子グルーオンには白を除く色の組み合わせ 。
3(赤、青、緑)×3(反赤、反青、反緑)-1(白)=8

つまり8種類あり、いずれも質量を持ちません。
しかし、グルーオン自体がカラーを持ちグルーオンをお手玉するので、力は距離が離れるほど強くなり、核子(陽子、中性子)の大きさ程度以上の距離になると全体として白色の状態しか安定に存在できません。(カラーの閉じこめ)
従って、強い力の到達距離は、グルーオンが質量を持たないにもかかわらず短く、日常感じることはありません。


■<力の大統一と素粒子理論>
電弱力(電磁気力と弱い力)はクォーク、レプトンともに感じることができるのに対して、強い力はクォークのみしか感じることができません。

このことはクォークとレプトンの対称性から、一見、不自然のように思われます。
もし、電弱力と強い力が統一され同一の力となれば、この対称性は完全なものとなります。
この統一を達成しようとする試みは大統一理論と呼ばれ、高エネルギー物理学の一大目標となっています。

一般に、2つの素粒子の距離が近づくとともに、または、力の強さはエネルギーが大きくなるとともに、量子論的なゆらぎの効果によって変わります。
エネルギーとともに、電磁気力は強くなり、強い力は弱くなります。
さらに、エネルギーを高くしていったらどのようになるのでしょうか。
標準理論によれば、3つの力の強さは互いに接近しますが、いくら高エネルギーになっても等しくなりません。
力の大統一はないのでしょうか。私たちは力の背後にあるものが、クォーク・レプトン世界の対称性であることを知っています。
大統一を達成するために未知の対称性があるのでしょうか。


クォーク・レプトン世界には、フェルミオンのクォーク、レプトンの他に、ボゾンのゲージボゾン、ヒッグス粒子が存在します。
フェルミオンは半整数のスピンを持ち、ボゾンは整数のスピンを持つ素粒子です。

今まで、フェルミオン中の対称性から3つの力を見てきましたが、フェルミオンとボゾンの間にも対称性がきっとあるはずです。
この対称性は超対称性と呼ばれ、フェルミオンをボゾンに、また、ボゾンをフェルミオンに変換します。
これに基づく超対称性理論は、すべてのフェルミオン(ボゾン)には、超対称粒子のボゾン(フェルミオン)の相棒がいることを予言しています。
超対称性を仮定してみると、確かに、3つの力が非常に高いエネルギーで等しくなり、力が大統一されます。

このように、超対称性粒子を発見することが力の大統一の鍵となります。
超対称性は時空の対称性でもあるため、重力をも統一する超対称大統一理論へと導くものと考えられています。
また、超対称性理論は標準理論では決めることのできなかったヒッグスボゾン(ヒッグス粒子)同士に働くヒッグス力を弱い力と結び付け、ヒッグス粒子が比較的軽いこと(ヒッグス粒子の質量は150GeV/c2以下)も予言しています。

■<ニュートリノとニュートリノ振動>
素粒子のうち、レプトン族には、電子、ミュ-粒子、タウ粒子とそれぞれと対を成す、3種類のニュ-トリノがあります。
ニュ-トリノは、電荷を持たないレプトンであり、他の粒子との相互作用は、いわゆる弱い相互作用しかありません。
従って、宇宙からやって来るニュ-トリノは地球をも貫いて行きます。
また、ニュ-トリノは、理論の上からは、質量がゼロでなければならない理由はありませんが、実験的には質量はほぼゼロとされて来ました。
しかし、実験によってその質量を測定する試みは、色々な方法で行われて来ましたが、未だ、上限値を与えるにとどまっています。


ニュートリノは、弱い相互作用のみで現れるもので、たとえば、放射性同位元素がベ-タ崩壊する場合には、原子核の中の中性子が陽子と電子と電子ニュ-トリノに崩壊することで、電子ニュ-トリノが発生します。
したがって、原子炉からは大量のニュ-トリノが発生していますし、水素などの核融合で輝いている太陽からも大量のニュ-トリノが地球にふってきています。
また、パイ中間子は、短い寿命の後、ミュ-粒子に崩壊しますが、このとき、ミュ-ニュ-トリノを伴っています。

もし、ニュ-トリノにわずかでも質量があるとすると、3つのニュ-トリノ間での転換が許されて、相互に移行する可能性があります。


■<ヒッグス粒子と質量>

物質はクォークとレプトンからできています。
クォークもレプトンも6種類みつかっており、それ以上はなさそうです。

それらの物質粒子の間に働く力(相互作用)には強い力、電磁力、弱い力および重力の4種類があります。

これらの力を伝える媒介粒子として、
8種のグルーオン(強い力)、光子(電磁力)、3種のウィークボゾンW+,W-,Z(弱い力)があります。

粒子間に力が働くためには粒子がそれに対応したカラー(強い力)、電気(電磁力)、ウィーク電荷(弱い力)とよばれる「電荷」を持っているからです。
クォークは強・電・弱の3つの力を感じるのはそれらの3つの「電荷」をみな持っているからで、レプトンはカラーを持たず強い相互作用をしません。


相互作用のかたちは、場の量子論(ゲージ場理論)にもとづいています。
強い力は量子色力学(QCD)、電磁力と弱い力はワインバーグ・サラム理論で記述され、この2つの理論を合わせて「標準模型」とされています。
この標準模型はすばらしい予言能力を持つ理論で、1電子ボルトの原子のふるまいから1000億電子ボルト(100 GeV)の高エネルギー現象までを厳密に計算することができるのです。
量子力学と相対性理論の延長線上にある近代物理学の輝かしい成果と言ってよいでしょう。



標準模型が原理として用いているゲージ場理論が成り立つには、すべての素粒子の質量が厳密にゼロでなくてはなりません。
ところが、クォークやレプトンは質量をもつことが実験からわかっています。 

この矛盾は、現在の宇宙が「ヒッグズ場」の中に浸っていると仮定すると解くことができます。

標準理論では、ビッグバン直後には、全ての素粒子が、何の抵抗を受けることもなく真空中を自由に運動できていたと考えます。
つまり、全ての素粒子に質量がなかった時代です。

しかし、ビッグバンから、10-13秒過ぎたころに、真空の相転移が起こり、真空がヒッグス粒子の場で満たされてしまったと考えられます。
これはちょうど水蒸気が冷えて、液化して水になる状況に例えられます。
宇宙の冷却とともに真空はヒッグス粒子の海になってしまったわけです。

クォークやレプトンはヒッグス場と反応し、あたかも水の中を泳ぐ魚のごとく、ヒッグス場によるブレーキを受けることになり質量のある粒子と同じふるまいをします。

光はヒッグス場とは反応しないので光速で飛び質量はゼロのままです。


ヒッグス場は本当に存在するのだろうか?
電磁場が存在すれば光子があるように、ヒッグズ場が存在すればヒッグス粒子が最低1種類あるはずです。

これまでの実験でまだ発見されていないので、ヒッグス粒子は114 GeV より重いはずです。
理論の予言もまた間接的実験結果も、ヒッグス粒子は 1000 GeV (1兆電子ボルト)より低い領域に存在すると強く示唆しています。
とくに 200 GeV より低い事がかなりの程度の確率で示唆されています。


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あっぱれ! (牧)
2012-07-06 01:15:43
自分も、物理の美しさにはいつも感動しているので、今回のニュースにも驚きと感嘆。
内容にコメントすべきでしょうが…まったく違う視点から。
こんなに丁寧に、かつすっきりと重点をまとめたら、高校生なんかが学校の物理の授業で『「質量」について最近の知見を含めまとめなさい。』みたいな宿題出されたら、絶対、この記事をまるまるコピペして、「優」をもらってしまう!
とか、ふとくだらないことを思って書き込んでしまいました。
それぐらい、読んでいてよくわかるなあと思う記事でした。いつもだけど。さすが。
あっぱれ!2  (さ。)
2012-07-06 02:42:51
まとめうますぎるなあ。すごいなあ。本当に頭がよいんだなあ(今更デスガ…笑。いつも気軽に話しかけてスミマセン。)。脱帽デス。将来出版されるであろう、いなばさんの本も、楽しみにしております故。

物理というのは、宇宙につながっていて、自分たちが生きていることにもつながっていて、その揺らぎの大きさが、爽快ですね。究極にあっちとこっち。こういうの見たら、自分の悩みって一体何だっけ・・・とバカバカしくなったりして。笑。【宇宙の極限を3分であらわしてみた】http://youtu.be/qgMdDT2K12A


「動きづらさが、質量・重さ」というのは、ピンとくるなあ。そこのところ、よく考えてみたい!オモシロイ! 先日偶然お会いしたKさんは、まさに、そのバランスが絶妙でした。軽さと重さ、鋭さと柔らかさ、刀と器、そのどちらをも持っている方だなあと思い、感動しました。突き抜けている人というのは、風通しがよいものですね。気持ちがよい。人は風が起こせるんだなあと感動しました。岡潔さんの写真とか、もう、それはもう本当に風通しがよいというか・・・!奇跡のリンゴの木村さんも! 


脱帽といえば、坂本龍一さんの ODAKIAS (再稼働反対)にも脱帽でした。http://soundcloud.com/ryuichi_sakamoto
このように、人々の叫び声を、音楽に、芸術にしてしまう。勿論、そのことが目的ではないだろうけれど、これを聞いていると、色々な人の記憶や感情が、ズームアウトしたりズームインしながら、絶妙な時のゆらぎのなかでとらえられて、何だか余計にぐっとくるものがあります。。もともとこういう、人の叫び、唸り、が、音楽の根っこ、人間の根っこにあるんだよなーと、感じました。


そしてそして、関係ないけど、この絵、すごくイイネ!

Unknown (いなば)
2012-07-09 08:42:33
>まきさん
なんかカナダにいるってのが信じられないねぇ。インターネットはすごいものだ。ほんとに。

物理の開設はいろんなとこにネットで書いてあるから、普段からいろんなのを保存してるんだよね。だから寄せ集めの知識です。それを統合したりするのも楽しい。

勉強って、高校とか大学までじゃなくて、大人になってからもみんなで学ぶとことかあるといいよねぇ。もちろん、勉強は最終的には独学に行きつくんだけど、やはり複数の人と共同で勉強して刺激受ける側面ってのはあるよねぇ。

アメリカに比べてカナダは過ごしやすそう。カナダライフうらやましかー。わしも英語勉強せなばー。最近は発表とか外人の前ですることが多くなってしまって必要に迫られてきた。いまがその時期なんだろなー。ほんとはカナダみたいに1日中英語を強制される方がおぼえは速いはずなんだけどねぇ。



>さ。さん
そうそう。
「動きづらさが、質量・重さ」みたいなんだよね。
基本的にはE=mc2でエネルギーと質量が等価とすると、そのエネルギーの凝集形態として(空即是色)、物体の形や重さっていうのはあると思うんだけど。そのことである種の動きづらさ(物質化)の宿命からは逃れられないわけで。


最近素粒子の勉強してたんだけど、それは、「原子を東京ドームの大きさとすると、原子核はマウンドにおいてあるボールのようなもので、そのスカスカのところを電子が確率的に電子雲を描きながら存在している。それだけ原子がスカスカの構造なら、ものを触っても、なんで手が通り抜けないのか?」ということ。なのです。このことを疑問に思って調べてたら、ボソン粒子の「パウリの排他原理」に行きついたのです。ちなみに、パウリはユングとも親交が深かったノーベル賞もとった物理学者。
○アーサー・I・ミラー「137 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯」草思社(2010/12/14)
● カール・グスタフ・ユング、W.パウリ、河合隼雄(翻訳)「自然現象と心の構造―非因果的連関の原理」海鳴社 (1976/01)

とかがあります。


フェルミ粒子(フェルミオン)はクォーク、レプトンである電子、ミュー粒子、ニュートリノ。
「パウリの排他原理」では、2つ以上のフェルミオンが同じ量子状態を持つことはできない。だから、フェルミオンの世界では同じ場所(空間)に同じものが重なることができない。

それに対して、ボース粒子 (ボソン)は、光子(素粒子間の相互作用を媒介するゲージ粒子)、ウィークボソン、グルーオン(スピン1) 。重力子 (グラビトン)(スピン2)。ヒッグス粒子は(スピン0)。
ボソンは「パウリの排他原理」の拘束を受けないとされているので、1つの体系内で色んな粒子が同じ量子状態をとることができる。
ボソンは時間や空間の同じ場所に幾つも重なって存在できるのに対して、フェルミオンはエネルギー的に異なった状態に分かれて存在する。これが二つの粒子の大きな違い。

フェルミオンの性質のおかげで、物と物とは同じ空間に重なって存在できない。だから、日常では僕らが何かを通り抜けてしまうことは起こらない。これが自分の問いへの答え。
ただ、ボソンは「パウリの排他原理」に従わなくていい。おそらくこの素粒子の世界が、不可思議な世界(超能力、精神観応・・・)の原理なのかな、と。
そう考えて、勝手にいろいろ納得してたものです。

そんなボース粒子 (ボソン)の中で最小のヒッグス粒子は(スピン0)が見つかった、ということは、また新たな世界が開けそうですねぇ。まさしく、空即是色、色即是空(形なきものは形あり、形あるものは形なく)の世界。お釈迦様はすごいねー。

・・・
坂本龍一さんのも面白いねぇ。
・・・
この絵、描いててもなんだかよくわかんないねー。笑