日常

「更級日記」とセンター試験

2016-01-16 01:14:43 | 時事
ここ最近は仕事が忙しく、メール返信がせいぜいで、本を読む時間すらもない。

ただ、なぜか目の前にあった「更級日記」を読みふけった。
「更級日記」は、平安時代に菅原孝標女が書いた13歳から52歳までの約40年間の回想録。
彼女が40年の間に見た「夢」が、要所要所に重要な伏線・メタファーとして効いてくる。仮に「日記」の体裁をとった前衛的な芸術作品。


「更級」とは、
本文の「月も出でで 闇にくれたる 姨捨に なにとて今宵 たづね来つらむ」の歌が、
『古今和歌集』「わが心 慰めかねつ 更級や 姨捨山に 照る月を見て(よみ人しらず)」
を本歌取りしていることに由来するらしい。

日本の古典や芸術は、この「本歌取り」という手法を使うことで、こちらの勉強を高級な形で強いてくる。
こちらの魂にそっと触れるように。
その手法により、先人の芸術のいのちを静かに受け継いでいるようだ。

琳派の尾形光琳の工藝作品も、秘された本歌取りが分からないと、その深さが分からないことに最近気付いたのだった。



明日はセンター試験の試験監督に行く。

自分が受験生の時は、まさか自分がそういう立場になるとは夢にも思わなかった。
そこに過去の自分の面影を見て、初心を思い出すきっかけになる。

研修医の先生を見ていると、自分が医師になったころの初心を思い出す。
医学部の学生を見ていると、自分が医学部に入ったころの初心を思い出す。
センター試験の受験生を見ていると、高校生、浪人生だったころの初心を思い出す。
こどもを見ていると、自分がこどもの眼で世界を認識していたころの初心を思い出す。
赤ん坊を見ていると、自分がこの世界に希望と不安を持って白紙の状態で生まれてきたころの初心を思い出す。

・・・・・・
初心に帰ることは、自分の中に流れている「時」が重層的に重なり合い響きあう事。
途中までしか見ていなかった「夢」をもう一度見直してみるように。

過去の自分は、見渡せば色々なところにいる。
だから、未来の自分もきっと色々なところにいるだろう。
そして、現在の自分をきっと暖かい目で見守っているに違いない。


そう思いながら、センター試験の受験生を暖かく見守る。過去と現在と未来の自分と共に。
だから、手抜きせずに精いっぱい頑張ってほしい。
応援しています。

2 コメント

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Unknown (ヤジマ)
2016-01-18 08:31:32
いつもブログで勉強させてもらってます。
まさに『風姿花伝』の名言ですね。
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Unknown (INA)
2016-01-19 00:24:17
風姿花伝は本当に奥が深いです。古典をよんでいると、まさにマンツーマンで講義を受けてるような気分がしてきて、こんなに贅沢なことはないなぁ、としみじみ思います。
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