
”カリフォルニア”というと、なんとなく一年中陽光きらめく暖かい土地という印象があるのですが、実は、北カリフォルニアの冬は雨期です。毎年ハロウィンの頃から降り始める雨は、2月のバレンタインデーを過ぎるあたりまでずっと降り続きます。”カリフォルニアの青い空”などどこへやら、冷たい雨に加えて、時には激しい雷雨や集中豪雨の”冬の嵐”もしばしば。毎日どんよりした日がつづきます。
そんな冬の楽しみのひとつは虹です。雨が通りすぎたあとにちょっと陽が射すとすぐに虹がかかるのです。広い空一杯に大きくフルブリッジの虹がかかることもよくあり、また、時には、高速道路を走りながら、何マイルにもわたって、くぐってもくぐっても何重にも虹が重なって見えることなどもあって、そんなときは、なんとなく「良いことありそう!」な気がして嬉しくなります。(ブログ記事:『晴れのち曇り ときどき雨 ところにより雹』)
さて、しばらく雨が続くと、春から初秋まで毎日晴れ渡る砂漠型の気候で完全に”夏枯れ”て茶色くなっていた丘や野原に短い草が生え始め、ぐんぐん育ってやわらかい緑で丘を覆います。そう、日本と違って……と言うよりも、”冬枯れ”で茶色くなる日本とは反対に、北カリフォルニアでは雑草が青々と芽吹くのは11月から12月、まさに冬の最中なのです。年が変わって立春を過ぎるあたりから、日当りのよい斜面に野生の水仙や菜の花が咲きはじめ、そこから春がひろがってゆきます。
スタンフォード大学のキャンパスの裏にひろがる丘の斜面に牛が放牧されるのもこの頃です。緩やかな斜面をゆっくりと移動しながら、時には小雨の中でも、のんびりと日がな一日草を食んでいる牛たちを見るたびに思い出されるのが『Ferdinando』。闘牛になるための気の強い牛を育てる牧場で生まれ育ったのに、なぜか花が好きで花が好きで、日がな一日花の匂いを嗅いでばかりいる「花の好きな牛」のお話です。春だなぁと思ったら、必ず読みたくなる一冊です。
女の子が森へ遊びに行って、いろいろな動物や虫に出会うお話『わたしと遊んで(Play with Me)』もいかにも春らしい絵本です。薄い黄色を基調にした柔らかな色づかいと繊細なイラストを眺めるだけでいかにも春の気分に慣れること請け合い。森の木立の間にある小さな池のほとりに座った女の子の頬をなでる風の暖かさや、目を閉じた女の子の鼻をくすぐる新芽の匂いや花の香りまでがただよって来そう。女の子が着ているワンピースもいかにも春の風情です。
春の日差しは皆を外に誘い出します。我が家の周辺も、この1-2週間、急に散歩に出てくる犬が増え(それも子犬が多くてかわいい!)、乳母車に乗った赤ちゃんが増えました。ジョギングする人も薄着になり、軽々と明るい表情で走っています。
そんな春の日にぴったりなのは、”お散歩”や”お出かけ”のお話ですよね。最初はいいお天気に誘われて”船遊び”に出たのはガンピーおじいさんです。ひとりでのんびり川下りを楽しむつもりが、「ねぇ、乗ってもいい?」「ぼくも乗せて」「わたしも!」と次々に動物や子どもたちがやってきて、船はいっぱいになってしまいます。『静かにしているんだよ』と言われたのに、みんな、やっぱりはしゃいでしまい……とうとう船はひっくり返ってしまいました。『Gumpy's Outing』。
「きょうは、いいてんき!」とのんびり散歩に出かけたのはゾウ君です。
「ゾウ君、どこ行くの?」
「散歩だよ、いっしょに行こう」
ところが、出会う動物たちはみんな
「ねぇ背中に乗せてよ!」
「背中に乗せてくれるなら、ね」
気のいいゾウ君は「うん、うん」と言って、皆を次々と背中に乗せてあげてお散歩を続けます。
でも、だんだん重くなって、ついに……水たまりにばっしゃ~ん!
でも、大丈夫! みんなにっこにこ! きょうはいいてんき!
この日本発の「ゾウくんのさんぽ」は英訳されて出ています。『Elephee's Walk』。
さて、春と言えばニンジン! 春だなぁと思ってから種をまいても間に合うのが嬉しい。芽吹いたばかりの新芽はちょっとポピーに似ていますね。ニンジンと言えば、この絵本! お百姓さんが丹精こめたニンジン畑の誘惑に逆らえず、やわらかくておいしい盛りのニンジンを、次々と掘リ出して食べてしまったのは? そう、おなじみの『ピーター・ラビット(Peter Rabbit)』です。またニンジンと言えば、忘れてはいけないもう一冊は『The Carrot Seed』です。ニンジンの種をまいて一生懸命育てる男の子のお話は、きわめつきにシンプルで”超”がつくくらい短いのに、イラストもお話も含蓄があると評判。ロングセラーの人気絵本は、子どもだけでなく会社の研修のテキストや、起業家の間で幅広く読まれているそうです。
そして最後は、私の大好きな「木」の絵本です。春は木も美しい季節です。葉を落として、冬風の中でくっきりと細く尖っていた梢が、春の日差しをあびてだんだん白っぽくゆるんできたな……と思っていると、やがてほどけるように、やわらなか小さな葉がでて来て……あっと言う間に輝く新緑になります。そんな様子を身近に眺めることのできる木があるのは、実に楽しいものです。 『A Tree is Nice』。
芽吹く前には、よく目をこらしてみないと見落としてしまうのだけれど、梢の先に小さくとまって寒い冬風に耐えて春を待っている”冬芽”は、それぞれの木によって形も色も十人十色の個性派ぞろいです。日本には、そんな冬芽ばかりを、一つずつじっくり撮影した写真集絵本『ふゆめがっしょうだん』があります。本当に「木の芽の写真」ばかりが載っているのですが、これが実に可愛いのです。図鑑としても使えそうなデザインで、でも、小さな子には絵本としても十分楽しめます。2月生まれの我が家の娘は、2歳になるちょっと前、寒くてお散歩に出かける気持ちわかない日に、こたつでこの絵本を初めて読んだのですが、読み終わるや、すっくと立ち上がって「ふゆめ、見に行こ!」と宣言。とっとと玄関に行って靴を履きました。そんな、なつかしい思い出のある絵本です。
春に是非読みたい絵本も、たくさんありますね。