お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

シュールとリアルのはざまで

2011-03-24 | about 英語の絵本

Flotsam

今日ご紹介する絵本のタイトル『Flotsam』は、作者のデイビッド・ワイスナー(David Wisner)によれば「Something that floats(漂うもの)」という意味。ワイスナーの造語です。ハードカバー絵本の表紙の裏に印刷された”まえがき風”の短い文章で、彼は読者にこう語りかけています。「もしも何かが海を漂えば、それは、きっと浜辺に打ち上げられます。すると誰かがそれを見つけて驚き、きっと別の誰かにそのことを話します。そう、ちょうど、デイビッド・ワイスナーが今あなたに伝えようとしているように」

全巻、文字のない絵本です。主人公は、夏休みで海辺に遊びに来ている男の子。ある日、その男の子に『海からの贈り物』が届きます。そう、Flotsamです。ちょっと乱暴に波が送り届けてきたのは古いカメラ。男の子は中のフィルムを焼き付けてみました‥‥。

どこにでもありそうな、のどかな夏休みの海辺の情景で始まりますが、ページをめくっていくうちに、幻想的で、でもきわめて現実的に細密でもある(あるいは逆に現実的で細密なのにきわめて幻想的でもある、と言うべきかもしれません)ちょっと矛盾した印象の不思議な光景の描写へと展開していき‥‥。現実の場面が、気づかないうちにどこかで幻想と地続きになってしまうようなシュールな物語です。Flotsamとして男の子に届いたカメラは、海からの贈り物でもあり、同時に、過去からの贈り物でもあり、さらには世界中からの贈り物でもあり‥‥。だから、それを受け取った男の子は……未来に向けてそれを贈りかえします。

デザインも造りもしっかり絵本。ですから、小さい子でも小さい年齢なりに楽しめます。でも、内容はむしろ大人向きと言ってもよいくらいで、従い、大きな子も大人も一緒に楽しめて、家族全員が長く飽きずに読める絵本です。だから、もしかすると子どもの絵本の棚に置くよりもリビングルームに置く方がよいかもしれません。こういう本のことを、こちらでは『Coffee Table Book』とよんだりします。

小さい頃に海辺で遊んだ人は、この絵本で、それらの日々を懐かしく思い出されることと思います。昔は、子どもたちの時間は今よりもはるかにゆっくり流れていたような気がしませんか? 特に夏休みなどには、いつもよりとりわけゆっくり時間が流れるのが常でした。父が連れて行ってくれた海岸で日がないちにち、私が拾っていた”Flotsam”は小さな桜貝。見上げる空は真っ青で、真っ白な入道雲が高くわきあがり、目の前には見渡す限りの海が広がっていました。あの頃の私は、あり余る時間を贅沢にも好きなだけ無駄にして、好きなだけ遊び、好きなだけ退屈して、それでもまだあり余る時間の中で、これもあり余っていた空想力を解き放ち、水平線の向こうの世界に想像をめぐらせていました。でも、あの海の向こうにいつか自分が住むはずの町があるなんて……そのときは考えてもみませんでした。

Flotsamは2006年のニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーで、同年のベスト・イラストレーション賞を獲得しています。また作者のワイスナーは絵本の最高栄誉賞であるカルデコット賞を2度も受賞しています。受賞作は『Tuesday』と『The Three Pigs』ですが、どちらも、買ってやった娘よりも、私がはまってしまった大好きな作品です。あわせておすすめします。




コメント
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