Countdown To Kindergarten
アメリカの9月は新入学の季節。大学も高校も中学校も小学校もそれぞれ新入生(Freshman)を迎えます。
かつて”ピッカピカの一年生”という流行語があったように、日本では小学校への入学が人生の一大イベントですが、アメリカの義務教育は1年間の幼稚園(Kindergarten)教育課程から始まります。従ってこちらでは、小学校ではなく幼稚園が義務教育の初年度に当り、制度的にも幼稚園からが"学校(School)"と呼ばれ、それ以前の保育園など(Preschool)と区別されています。また物理的にも、幼稚園の建物は小学校と同じ敷地内にあるのが一般的で、先生方の人事も幼稚園と小学校の間を峻別せず、流動的に行われています。ですから、子どもたちが小学校1年生に上がる時には、学校の建物にも、先生にも、友達にも慣れ親しんでいて、新入学ではなく、どちらかというと進級気分です。もっとも、そもそも幼稚園はそのような"慣らし"のためにおかれているので、当然といえば当然なのですが。
そんなわけでアメリカでは、幼稚園への入学が親子とも"はじめての学校"体験。ですから、"ピッカピカの一年生"は、実は5歳の幼稚園児。そして言わずもがな、この入園が親子ともに人生の一大イベント。幼稚園への入園を前に、緊張し、不安や心配にかられている子どもたちに(また親たちに)向けて、たくさんの絵本や本が書かれています。今月はそれらの本を順に取り上げてご紹介します。
最初の一冊は"Countdown to Kindergarten"(幼稚園まで‥‥あと何日)です。
幼稚園入学を10日後に控えて、不安にかられている女の子がいます。実は、まだひとりで靴の紐が結べないのです。でも幼稚園に行ったら誰も手伝ってくれないので、ひとりで靴紐を結ばなくちゃいけないらしい‥‥どうしよう‥‥? あと9日、8日、7日‥‥日いちにちと入園の日は近づいてくるのに、女の子はちっとも靴紐が結べるようになりません。ついに入園の日、心配しながらおそるおそる幼稚園に行ってみると‥‥なぁんだ! ひとりで靴紐が結べる子なんて、クラスには誰一人いませんでした。
幼稚園への入園という人生の一大事なのに、たかが靴紐に拘泥するなんて‥‥日本ではちょっと想像がつきにくいのではないでしょうか。でも、実はアメリカでは「ひとりで靴紐が結べるかどうか」が子どもの生活的自立を計る尺度のひとつだった時代があるのです。
日本の小さい子ども達は、紐のないスリップオンやマジックテープで着脱する靴をはいているのが普通ですし、幼稚園では皆一斉にゴム留めのバレーシューズ型の上履きに履き替えますから、そもそも心配しなければならない靴紐などありません。
一方アメリカでは、屋外でも室内でも一日中同じ靴をはいて過ごしますので、小さな子どもは安定した靴を履くことが原則。そのため幼稚園から「脱げやすいスリップオンは履かせないように」と具体的に指示されることがありました。最近では小さな子用の靴はマジックテープで着脱するものが多くなりましたが、10数年前(うちの娘が幼稚園に行っていた頃)にはそういった靴はまだ一般的でなく(だから持っていても履くのを嫌がりました)、小さな子でもしっかりと靴紐で結ぶ靴が安全とされ、みんな紐つきの靴を履いていたものです。
でも、どんなにしっかり締めても紐は緩みます。また日に何度かは靴も脱ぎますので、どうしても靴紐を結ばなければなりません。でも幼稚園では、家や保育園と違っていちいち先生に頼ってばかりはいられない‥‥。ですから、ひとりで靴紐が結べるかどうかが幼稚園の(つまり初めての"学校"での)集団生活に保護者なしで出ていけるかどうかの、子どもの生活的自立を計る尺度だったのです。かく言う私も、幼稚園までには靴紐の扱いを教えなければ、と娘相手に緊張していたのを憶えています。
子どもの成長には、国により文化によっていろいろな通過儀礼があるものですね。過ぎてしまえば笑い話なのですが、その時々には滑稽なまでに真剣なのも各国共通です。