
『犬は人間の最良の友(A dog is a man's best friend)』と言われています。アメリカ人もご他聞にもれず、犬が大好き! そして絵本にもじつにいろいろな犬が登場します。
赤ちゃんから幼児まで、幅広い人気を保っている子犬が「スポット(Spot)」です。エリック・ヒル作/画の、ベストセラーにしてロングセラー。オリジナルの『Where's Spot?』は、いたずら子犬のスポットがあちこち探検に出かけてはいなくなるのを、お母さんが「スポット?スポットはどこ?」と根気よく探し回って、「あ、いた!いた!」と捜し出してくれる‥‥というお話。子どもたちは「いないいないばぁ」や「かくれんぼ」などで「(おとなに)見つけてもらう」というカタルシスが大好きですよね? そんな子どもたちに大人気の絵本です。このスポットシリーズの絵本はいわゆる『飛び出す絵本』で、どのページでも、子どもが指で挿絵の箪笥の扉とかバスケットの蓋とかを開いてはスポットを探しだすという趣向。何度読んであげても、毎回「いたぁ!」と叫んで得意そうにお母さんの顔を見ます。
同様にベストセラーでロングセラーのシリーズ絵本の主人公が「クリフォード(Clifford)」です。お家ほど大きいクリフォードと、飼い主の女の子が主人公の物語。ちょっと奇抜な設定なのに、なぜか時代を超えて愛読されている人気シリーズです。オリジナルは1963年に刊行された『Clifford, the Big Red Dog』 以後、50冊以上の絵本が出版されているほか、キャラクターを使った学習教材やグッズも多数発売されて、人気を博しています。2000年にはテレビ番組にもなりました。
クリフォードと同じように、大きな犬と小さな女の子が主人公になった絵本に、日本の奈良美智さん作/画の『The Lonesome Puppy』があります。でも陽気なクリフォードとは違い、奈良さんの子犬は「あまりに体が大きくて誰の目にも入らなくて孤独だった‥‥」という設定で、なんとなく日本的でもあり、また常にひとり孤高をいくアーティストの想いが子犬に重なっている気がする絵本でもあります。
このブログでは紹介する機会がありませんでしたが、古典的な絵本としては『Hurry the Dirty Dog』もおなじみです。また、その名もかわいい子犬を主人公にした『Biscuit (My First I Can Read)』のビスケットシリーズも人気があります。
冒頭にも書きましたが、古来から犬は人間の最良の友。だから人間との暮らしにすっかり溶け込んでいる犬は、逆に人間とは一線を画して暮らしている野生動物たち、例えばクマやオオカミ、アライグマやリス、あるいはウサギやネズミなどが主人公になるお話にはあまり登場しません。
そのかわり、人の暮らしが描かれる物語には、犬自身が主人公にならない時でも、挿絵の中に脇役あるいは家族の一員としてしばしば登場します。とくに子どもたちの遊んでいる場面には、ほとんど常に「犬がいる」と言っても過言ではないほど。そんな「子どもと犬」の様子が、それも”表紙に描かれて”いる例だけをとりあげてみても枚挙にいとまがありません。例えば『A Tree is Nice』では、水をやる女の子の後ろに木のを見上げている犬が描かれていますし、『Now It's Fall』には、紅葉した木の葉を背景に子どもたちと子犬が描かれています。そう!犬がいると断然面白くなるのが外遊び! 落ち葉を散らかして遊ぶ時など、なんたって犬が一緒じゃなきゃあ! ガンピーさんの船遊び『Mr. Gumby's Outing』にも、もちろん犬は仲間に加わっていますし、また、仕事で忙しいお母さんの子育てを手伝ってくれるのも犬です。仕事帰りのハイヒールのまま赤ちゃんを抱っこして、お姉ちゃんの手を引いて歩くお母さんは、しっかり犬のリーシュも引いています。
愛犬のコーギ犬を主人公に絵本を描いているのがタ―シャ・チューダー(Tasha Tuder)。タ―シャの大好きなコーギ犬ばかりが暮らしている村、コーギビルが物語の舞台です。オリジナルの『Corgiville Fair』には、中扉に、実在のモデルとなったコーギ犬が実名入りのスケッチで紹介されています。それぞれに表情が違い、体つきも違う様子がしっかり描き分けられていて、その個性の強さに感心させられます。
というわけですから、『犬 Dog』は赤ちゃんが最初に出会う動物で、ペットで、そして最初におぼえる単語のひとつです。アルファベットを綴るときにも「ドッグのD(D as Dog)」などと言いますから、最初に綴りをおぼえる単語でもあります。『My Big Animal Book』
そんなふうに家族同様に暮らす犬たちとの別れはとても悲しいものです。それでも、残念ながら犬は人間ほど長生きしませんので、必ずいつか別れがやってきます。『Dog's Heaven』は、そんな永年の友であった犬を見送った人に、シンシア・ライアントが心をこめて贈ってくれる絵本です。お話だけでなく絵も彼女が描いています。
そんなペットとの『交流と別れ』を、子どもの視点から丹念に描いた絵本に『Always Love You』があります。「毎日毎日、ギュッと抱きしめて、毎日毎日、『ずっとずっと大好きだよ』と言ってあげたから、ボクの犬がいなくなってさみしいけど、でも後悔はしていない‥‥」という男の子の語りかけには、犬とどうつき合うか(犬だけでなく、生きとし生けるもの、やがては別れるべきもの同士がどう付き合うか‥‥)が深く示唆されています。