友愛労働歴史館の解説員便り

当館は2009年8月で一時休館いたしました。しかし資料の収集・研究、PR活動等は継続します。再開は2012年8月1日!

松岡駒吉の「健全なる労働組合主義」とは!

2008-04-24 13:07:40 | Weblog
◇松岡の『産業人としての労働者』論
 友愛労働歴史館は現在、「労働組合主義の確立者―松岡駒吉」展を開催中です。松岡は日本労働運動育ての親と呼ばれ、衆議院議長なども務めた、日本労働運動(特に戦前期)の代表的なリーダーです。
 松岡は労働組合主義の確立者と言われ、彼の労働組合主義は、「健全なる労働組合主義」と表現されています。なぜ彼の労働組合主義は「健全」なのでしょうか。この点について「松岡駒吉」展資料から読み解いてみます。
 1985年に出版された『日本労働運動の先駆者たち』(労働史研究同人会編)の論文「労働組合主義の現実と苦悩―松岡駒吉」は、「松岡駒吉における『労働組合主義』の特徴は、国民生活の向上につながる産業の発達という目標に対する実現手段として組合を位置づけていた点に、そして、その目標の根底には『産業人としての労働者』という理念があったということに集約される」としています。
 同論文から松岡には、一人ひとりの労働者を「共同精神、独立、社会的責任、常識」を持つ産業人に訓練する場が労働組合であり、労働者・労働組合は経済・産業の発達を担う、との想いがあったことが分かります。
◇クリスチャン、ユニテリアンとしての松岡駒吉
 前述論文は松岡の労働組合主義を明快に分析しています。しかし、さらに付け加えるならば、松岡にはクリスチャン、ユニテリアンとしての信条があったと思われます。松岡は十八歳で洗礼を受け、生涯をクリスチャンとして過ごしていますし、彼の夫人もクリスチャンでした。また、松岡が拠点とした友愛会・総同盟は、ユニテリアン教会・惟一館の中にあり、多くのクリスチャン、ユニテリアン(安部磯雄、賀川豊彦、片山哲、鈴木文治、新渡戸稲造、吉野作造、今岡信一良ら)との交流がありました。
 当然、松岡の心の中にはユニテリアンの信条(「人間の尊厳と人類の進歩発達」・惟一館マコーリィ牧師)があった、と考えられます。松岡の「健全なる労働組合主義」は、「人間の尊厳と進歩発達」というユニテリアンの信条を基底に、現実の労働運動の中から生まれてきた「産業人としての労働者」論があり、これらの信条と理念を踏まえた労働組合主義となっているのです。
◇労働組合主義と階級意識を突き抜けるもの 
 松岡の労働組合主義は、「人間の尊厳と進歩発達+産業人意識+労働組合主義」と表現されます。単なる労働組合主義ではなく、「人間の尊厳と進歩発達+産業人意識」を持つことで、「健全」なのです。
 それ故、松岡の労働組合主義は、ある種の労働組合主義が持つ狭さ(経済至上主義、労働条件至上主義)や労働者階級意識の限界(労働者個人の人格を否定する階級至上主義)を超えて、時代を突き抜ける普遍的な理論となっているのです。
                                 以上