友愛労働歴史館の解説員便り

当館は2009年8月で一時休館いたしました。しかし資料の収集・研究、PR活動等は継続します。再開は2012年8月1日!

友愛会綱領とエンプロイアビリティ(「改革者」より転載)

2006-06-02 08:52:05 | Weblog
 本稿は、政策研究フォーラム発行の月刊誌「改革者」6月号から転載したものです。ご一読いただければ幸いです。なお、月刊誌「改革者」(定価650円)は、政策研究フォーラム(理事長:堀江湛尚美学園大学学長。学者・文化人・労組役員等で構成)が発行しています。定期購読を希望される方は、03-5445-4575に申し込みをお願いいたします。

友愛労働歴史館から見た社会運動(第二回)

友愛会綱領とエンプロイアビリティ (友愛労働歴史館解説員 間宮悠紀雄)


■鈴木文治『労働運動二十年』が語りかけるもの
 昨年十月に日本労働会館(港区芝)内に仮オープンした友愛労働歴史館は、労働運動や政治活動などの社会運動に関する資料の収集・公開を行っており、当然のことながら友愛会・総同盟・同盟に関する資料が多い。
六階のA資料室(旧金庫室)の鉄扉を開けると、鈴木文治友愛会会長の肖像画や組合旗・バッチ、明治・大正時代からの書籍などの各種社会運動資料を目にすることができるが、それら書籍資料の中に友愛会綱領や総同盟綱領を確認することができる。
 友愛会は、青年クリスチャンの鈴木文治ら十五名によって大正元年(一九一二)八月一日、ユニテリアン教会で結成された中央労働団体で、その後、総同盟・同盟などを経て現在の連合へと発展し、民主的労働運動の源流と言われている。
 鈴木文治が昭和六年に著した『労働運動二十年』を参照しつつ、友愛会綱領を読み解き、その今日的意味を考えてみたい。
■友愛会綱領が謳う「人間性と職業能力の向上」
 友愛会綱領は時代の産物であり、またキリスト教人道主義を色濃く反映している。このため今日の労働組合綱領とは、やや趣が異なる。友愛会綱領は三ケ条から成り、「第一条:我等は互に親睦し、一致協力して、相愛扶助の目的を貫徹せんことを期す、第二条:我等は公共の理想に従い、識見の開発、徳性の涵養、技術の進歩を図らんことを期す、第三条:我等は共同の力に依り、着実なる方法を以て、我等の地位の改善を図らんことを期す」、となっている。
 鈴木自身の解説によれば、第一条は共済と相互扶助、第二条は修養向上努力、第三条は地位の維持・改善を意味している。後に友愛会は左派系の人たちから、「労働組合ではない、修養団体だ」と揶揄されたが、これは主として第二条にあったからであろう。
 たしかに用語は古く、キリスト教人道主義的な修養臭さは否定できない。しかし、第二条「識見の開発、徳性の涵養、技術の進歩」を今日風・私流に意訳すれば、それは「人間性と職業能力の向上」となる。これは今日にも通用する基本理念であり、組合員の経済的地位の向上のみに汲々としている現在の労働組合と比較するとき、極めて新鮮とも言える。
■エンプロイアビリティと通底する友愛会綱領
 一九九九年に日経連(現日本経団連)は、「厳しくなった企業経営、従業員の価値観の多様化」などを背景に、「企業の今後の人材育成目標の指針」としてエンプロイアビリティという概念を打ち出した。これは「①企業は従業員個々人の強みを引き出し、自立できる能力を身につけさせる、②従業員も企業に頼らず自分の意思で将来設計するという新しい関係を築こう」というもので、一般に「雇用される能力」と訳されている。
 この日経連のエンプロイアビリティ(雇用される能力)は、友愛会綱領が意味する「職業能力の向上」とほぼ同義語である。また、「従業員自らの意思で将来設計する」という言葉の中に「人間性の向上」を読み取るならば、日経連が提唱するエンプロイアビリティと友愛会綱領第二条「人間性と職業能力の向上」は、ほぼ通底するものと言えよう。
 九四年前の友愛会綱領は、労働条件維持向上と共済・相互扶助という労働組合の二大活動領域を提示しただけではなく、「人間性と職業能力の向上」を謳うことにより、時代を突き抜ける普遍性(人生をより良く生きる)を持って、今なお輝き続けているのである。