天童大人プロデュース「詩人の聲」2015年3月(2)
6、長谷川忍 3月18日(水) 於)キャシュキャシュダール
長谷川は25回目の公演だった。長谷川の作品の特徴は、都市とそこに生きる人間を表現するところにある。前回前々回と変化の兆しがあったので、今回の展開を楽しみにしていた。安定した聲で、揺るがないリズム、これは変わらない。
一番の変化があったのは作品だ。前回までの作品は都市を表現しながら、その風俗の描写に留まっていた感がぬぐえなかった。しかし今回は作品に厚みが出て来たように思う。都市を描きながら、そこに住む人間を掘り下げている。前回見られた、象徴詩的手法の作品が、人間を暗示するものとなっていた。
作品の言葉の緊張感も増してきた。確実に新しい境地を開拓しつつある。
7、照井良平 3月20日(金) 於)数寄和(西荻窪)
照井は陸前高田出身の詩人。今回が5回目の公演。だが全国各地で聲を出している。東日本大震災をテーマとした詩集『ガレキの言葉で語れ』で、坪井繁治賞を受賞している。この日の作品は、3部構成。第1部は春の訪れを表現した作品群。第2部は『ガレキの言葉で語れ』から抄出された作品群。第3部は震災後の復興の槌音を感じさせる作品群。
第2部の作品群は詩集の収録作品の中でも印象の強いもので、記憶に残っているものだった。震災の映像が浮かんでくる。作品の一節が、脳裏に浮かぶ。優れた作品は、愛唱性があり記憶に残り易いものだと感じた。「星座」の尾崎主筆が常々語っていることだ。
第3部の作品群からは様々なことを学んだ。大島との話から学んだことも含めて、別途の記事にしたい。
8、渡ひろこ 3月26日(木) 於)大橋会館
渡は3回目の公演。震災を題材としたもの、死者への追悼の作品。絵画に触発された作品、詩集に収録された作品からの抄出。様々なものが読まれた。
人間の孤独感、寂しさ、不安感などの抒情を作品化している。だが震災詠、追悼詩は、フォルムにとらわれすぎて、内容に深みが欲しいところだ。またIT用語、カタカナ語に寄りかかった作品もあった。
だが最後に読まれた「謝肉祭」を素材とした作品には深みがあり、完成度が高いように思った。着実に進展している。
9、筏丸けいこ 3月28日(土)於)キャシュキャシュダール
筏丸は31回目の公演。歯切れのよい聲、安定したリズムで作品が読まれていく。エネルギーの弾けるような作品で、言葉遊びに聞こえるものも、人間や社会を暗示している。
作品のそれぞれに、人間の悲しみ、自分への問い、他者との人間関係、人間や社会に対する問いがある。独自の作風と、独自のリズムがある。
10、清水弘子 3月30日(月)於)ギャルリー東京ユニマテ
清水は10回目の公演。聲はまだか細いが、リズムは弾けるようだった。望郷の思い、子どもの世界、幼児期への懐かしさ、人間の命、失われた記憶、鳥の生命力。こういった明確な主題が作品化されている。また多方面から自分を客観的に見ようとの意思が感じられる作品もあった。
清水は元々ボキャブラリーが豊富だ。それが主題を明確に意識するようになって、着実に自分の世界を切り開きつつある。だが固有名詞や、旧作へのこだわりがあって、そのあたりが課題だろう。最終盤の作品群は感想文的だったが、本人はそれを自覚しながら読んでいたという。この辺も進展した点だ。
11、川津望 3月31日(火)於)キャシュキャシュダール
川津は5回目の公演。聴いて驚いた。始めの数回は、器用に言葉を配列しただけの作品が多かったのだが、まるで様変わりだ。作品ごとに表現したい抒情が明確にある。心の痛み、人間の孤独、悲しさ、友人関係、社会を見据えた作品。どれも表現の厭味がない。
語彙が豊富で作品に透明感がある。自分の抱えた葛藤や心の激しさを表現しても、その透明感があるので、作品の厚みとなっている。天童が公演5回目が一つのヤマだ。と常々言っているが、川津はヤマを一つ越えたようだ。
