ニックネームのきっかけ

　私の高校時代からの友人で‘日蓮’と呼ばれている男がいる。
　本名は中瀬秀ニ（仮名）と言うし彼に言わせると子供の頃から
高校に入学して数週間までは‘シュウべぇ’と呼ばれていたら
しい。
　ではなぜ‘日蓮’になったのか？
　我々の地元では中学時代は基本的に坊主頭だった。
　高校入学と同時に髪を伸ばせるようになったのだが野球部は
坊主頭である。
　ところがせっかく髪が伸び始めたので1年生達は、なかなか坊
主頭にしようとはしないのだ。
　先輩方は‘オマエ達、たいがいで髪切らんか！伸びてきて鬱陶
しいぞ。どっちみち切らないかんのやから早う切れ！’と事ある
ごとに言う。
　そんな中でこの中瀬君が真っ先に2枚刈り（約５mほど）にして
来たのだ。一気に短くなったのでやはり妙に違和感があった。
　ちょうどその頃、萬屋錦之介 主演の‘日蓮’
という映画が上映される予定で高校の売店や校門の前の店などに
映画のポスターが貼られていたのだ。
　中瀬君を見た別の友人が‘まるで日蓮みたいやのぉ’と言った
のがきっかけで、それ以来中瀬君は野球部内で‘日蓮’と呼ばれ
出し最初は‘シュウべぇ’と呼んでいた野球部以外の同級生達も
‘日蓮’と呼び始めた。
　よくしたもので日蓮君は高校卒業後に大学で野球を続けていた
のだが、一度彼の部屋に泊まりに行った事があった。
企業の寮だったという事で畳敷きだったのだが、後年彼の結婚式
で大学時代の友人が‘彼の部屋には掛け軸があった’というエピ
ソードをスピーチで話していた。
　寮の部屋に掛け軸を飾るようなタイプだから妙に‘日蓮’とい
うニックネームがフィットしたのだろう。例えば私が（床屋の息
子だという事もある）真っ先に坊主頭にしても絶対にこんなニッ
クネームは付かなかっただろう。
　中瀬君が真っ先に短い坊主にして、たまたま‘日蓮’の映画が
上映されていた偶然が絶妙なニックネームが付くようになったの
である。
　偶然とはホントに恐ろしいものである。