ゆ~たん音楽堂

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音楽ディレクター ゆ~たんの日常。

音は身体の深きところに宿る。

2008年01月25日 07時14分48秒 | Daily Life
失敗学のすすめ (講談社文庫)
畑村 洋太郎
講談社

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1月24日(木)僕は「ハーモニー」誌の編集委員を拝命しているが、巻頭に10頁のインタビューのコーナーを持っていて、慢性的にお話を伺う人を探している。もちろん会いたい人はいくらでもいる。問題はその人に「コーラス」というフックがどこかにあるかどうかだ。ある意味専門誌であり、そのあたりがないとかなりキツい。■今から2年ほど前の冬、文藝春秋の特別企画の雑誌をめくっていた僕の手が止まった。「合唱が大好き、どんなに忙しくても火曜日の夜は必ず練習に行きます」とある、なんとあの失敗学の畑村洋太郎さん。-これはすぐコンタクトをとらなくっちゃ!でもなぁ、忙しそうだなぁ-果たして、インタビューは即座にOK。当日、当時まだオペラシティの高層階にあった畑村さんの事務所を訪ねた僕たちは、腰を抜かした。「いゃー、待ってたよ。合唱の話ができるなんて嬉しいよ。普通はインタビューは一時間なんだけど、今日は午前中いっぱい空けてあるからね!」「は、はぁ」それから約2時間、畑村さんの失敗学ではなく、合唱における「サクセスストーリー」が炸裂した。今まで、いろんな方にインタビューしてきたが、あんなに終始ニコニコしながら話して下さる方は多くない。とても印象深い一日だった。■さて、その畑村さんが小学校の先生方を前に合唱について講演をされるということで、行ってきた。世田谷区立代田小学校。小田急線の世田谷代田駅からすぐのところにある。テーマはズバリ「歌うこと・合唱することのすばらしさ」。畑村さんがどれほど合唱することに対して生きがいを感じ、そして実践しているのか。そしてその背景には子ども時代のどんな体験が生かされているのか、などなど、約一時間の講演であった。畑村さんは実は東大の先生を退官される直前に「合唱」に出会われた。つまりそれまでの数十年間、合唱活動に趣味としても参加されたことすらなかったという。でも「あー、いいな、合唱やりたいな」という思いはご自身の大学時代から東大退官まで、ずっと一貫して抱いた来た願いでもあったのだ。では、そう思わせた原動力は何であったのか?それは小中学校を通しての音楽の授業や、昼休みに楽しんだコーラスだったという。■畑村さんは言う。「子どもときに体験した音は、いつまでも脳の中に残る。そしてその思い出が突然湧き出ることがある。それは僕が長い間、合唱から遠ざかっていても、合唱への憧れをいつも抱いてきたことや、あの当時うたった歌を今でも歌えるということからも証明できるかもしれない。だから、先生方の仕事は大切なんです」2年前と同じ、いや益々パワーアップされている。ご自身の失敗談や、求める指導者像などをユーモアたっぷりに話して下さった。その中で僕が特に大事だと思ったのは、高齢者層に対する<新しい合唱活動のさざ波>がどこからともなく起こり始めているのではないか、ということである。いわゆる団塊の世代を中心として、ますます趣味は多様化し、ソフト提供やさまざまな事業提供との面で大きなうねりが生まれていくことは間違いない。ただ、それをただ単に中高年層に向けた商品を開発するだけではことの本質を見誤るのではないかということである。ここには需要と供給というバランスを超えた大切なもの-運動体としての音楽文化-を作り出すモチベーションがある。講演後、来賓室の畑村さんを訪問。「僕の合唱、変化してるでしょ!」楽屋に戻っても本当に楽しげな畑村さんであった。そんな笑顔を見ていると提唱されている「失敗」という概念を忘れてしまうのだ。■夜、杉並公会堂で行われた竹下景子さんのリーディング・ドラマ「ジョルジュ」を鑑賞。斎藤憐さんの本による。昨年、竹下さんとは2度お仕事を一緒にさせていただいた。ショパンとジョルジュ=サンド、あまりにも有名なふたりの出会いと別れを、関本昌平さんの奏でるショパンの音楽が絡めながら、2時間たっぷりと堪能させてくれるドラマであった。お恥ずかしながら、なんだか初めてショパンの音楽の核の部分に触れたような気がした。今までほとんど知らなかったショパンの生涯だけど、一度ちゃんと勉強しようと感じながら帰途に着いたのだ。きっとこれは僕の「失敗」だろう。