循環型社会って何!

国の廃棄物政策やごみ処理新技術の危うさを考えるブログ-津川敬

自治体を見舞う“三重苦”

2007年10月09日 | 廃棄物政策
 1998年から2003年の5年間で全国に新しくつくられた自治体の大型焼却施設は以下のとおりである。
   ストーカ施設----43
   ガス化溶融施設--79
   RDF製造施設---29
 ストーカ炉にはオプションとして灰溶融炉がつくのだが、建設を終え、目下稼働中の自治体はいま未曾有の“三重苦”に晒されている。
ひとつは一連の入札談合であり、第二に火災・爆発を含む溶融炉事故の多発。三つ目は維持管理コストの異常な高騰である。

◆事故と維持管理費の高騰
 談合問題は後段で触れるが、まずここ数年間で起きた事故の地域名を挙げておく。圧倒的に多いのがガス化溶融炉・灰溶融炉事故である。
① 2002年1月28日 愛知県東海市
② 2002年11月2日 青森県むつ市
③ 2002年12月~  島根県出雲市
④ 2003年7月17日 青森県弘前市
⑤ 2003年8月29日 広島県福山市
⑥ 2003年9月11日 福岡県古賀市
⑦ 2003年4月~   北海道上磯町
⑧ 2003年4月~   兵庫県高砂市
⑨ 2004年1月24日 香川県直島町
⑩ 2004年7月9日  静岡県静岡市
⑪ 2005年5月26日 東京都足立区
⑫ 2006年4月29日 高知県高知市
 次の維持管理費問題はプラント事故と切っても切れぬ関係にあるのだが、とりわけエネルギーコストの上昇が焦眉の急になっている。たとえば05年9月の千葉県習志野市議会定例会では当局側から以下のような説明を受けていた。
 「コークスの値段、これは平成15年度にはトン当たり2万2,000円だったものが、今年、3万4,900円。これを率にしますと60%の値上がりであります」(議事録より)。
 同市ではいま財政負担を軽減するため、直接溶融炉を天然ガス仕様に一部改造するという。
 次にガス化溶融炉では当初の宣伝と逆に助燃の多用が目立つ。その灯油価格だが、石油情報センターの最新データによると05年4月には18リットルで1,142円(全国平均)だったものが、本年(06年)4月には1,492円にはね上がっている。しかもここ数ヶ月の急ピッチな原油値上がりでその行方はまったく不透明となった。
 かなり早い時期にガス化溶融炉の導入をみた愛知県豊橋市の前市議会議員からの報告によると「本稼動以来、炉が十分に機能せず、04年中満足に動いたのは4月と9月だけ。目下のところ14年前に建設したストーカ炉(現場では3号炉と呼ぶ)で目いっぱいごみを燃やしている状況」という。ところが市側は3億9,000万円の巨費をつぎ込んでその炉を改造する計画だが、約束どおり性能を発揮できなかったメーカー側が負担するのが筋だと周辺住民は怒っている。
 瑕疵担保問題も絡み、今後全国でこの種のトラブルが増加することは確実であり、その典型のひとつが兵庫県高砂市のケースである。

◆議会が事務局長を告発
 2003年4月1日に操業を開始した高砂市の溶融炉下部で発火事故が起きたのは同年11月27日のことであった。この時、運転を請負ったメーカーの責任者は消防署に火災を通報せず、市もその事実を市議会に報告しなかった。その前後からスラグ出滓口の閉塞、作業区域内でのダイオキシン発生(レベル3)など、後日「1年半で24回の事故」と呼ばれるトラブルが相次ぎ、たまりかねた市議会内に03年12月22日、調査特別委員会(百条委員会)が設置された。とりわけ事故責任とコスト負担のあり方についてメーカーと市側に厳しい追及が行なわれている。
 導入時におけるメーカー説明ではごみトンあたりの維持管理費が1,900円だった。年間ごみ処理量で計算すると約8,000万円の筈が操業1年目(03年4月~04年3月)で1億5,800万円かかったという。その差7,800万円。その分は瑕疵担保期間でもあり、絶え間なく事故を起こしたメーカー側が持つべきであるが、逆に「搬入されたごみ質が契約と違う」との反論がメーカー側から返ってきた。これに対し市は「奇妙な弱腰」(百条委員会委員の表現)でメーカー側のいい分を認めてしまった。その後、百条委員会における徹底追及の末、総額1億5,800万円のうち市の支払いは9,000万円にとどまった。6,800万円の「不当支出」を未然に防いだのである。
 同じく維持管理費の不透明さから百条委員会を設置し、行政とメーカー側の関係を追及したのが徳島県中央環境施設組合議会である。ガス化溶融炉の稼動が05年8月。だが「試運転中にかかったすべての経費はメーカー側負担」という発注仕様書の内容に違反して組合の事務局長が天然ガス代金3,550万円を組合予算から支払っていた。そこで百条委員会の委員9人が背任罪として阿波警察署に告訴。2月27日、同署はこれを受理している。
 だがこうした議会側のチェック機能(自浄作用)が全国的に働いているとは到底いい難い。
 理由はズバリ議会筋まで巻き込んだ行政とメーカー側の癒着。すなわち談合問題である。

◆公正な仕組みづくりを
 ここ半年、たてつづけに焼却炉談合をめぐる地裁判決があった。ひとつは昨年(05年)11月30日のさいたま地裁が下した上尾市への9億円返還命令である。「市は公正な競争により形成されたであろう契約価格と実際の契約価格との差額相当額の損害を受けた」との訴えに対するものである。被告はJFE。
 もうひとつは本年4月25日、福岡地裁による20億8,800万円の高額返還命令である。これは談合に関わった大手メーカー5社が連帯して支払えという内容であり、被告は落札した日立造船とそれに連なる川崎重工業、JFE、タクマ、三菱重工業の4社。二つのケースとも「被害者」は上尾市と福岡市である。しかし両市長が原告になったわけではない。地域住民が地方自治法第242条の2に基づき、自治体に代わって損害賠償を求める、いわゆる代位請求訴訟である。しかも福岡市長に対して地裁は「本来自らが行なうべき損害賠償を行なわなかった」との住民の訴えを認め、違法との判断を下している。
 このほか、昨年8月31の京都地裁でも被告川崎重工業に11億4,000万円支払いの判決があった。これも施設周辺に住む住民からの訴えによるものであり、「(訴訟は)本来京都市がやるべきもの」と地裁は厳しく批判している。
 住民の生活と権利を守るべき自治体がこの体たらくである。事故が起きてもひたすら隠し、筋の通らぬ維持管理費にも目をつぶる。そして談合の事実を知っても告発できない。
 当事者意識ゼロの自治体幹部にモラルや自覚を求めても徒労である。彼らに自浄能力が欠落している以上、外から強力な枠をはめるほかはない。いま必要なのは彼らを本気にさせる抜本的な仕組みなのである。いい方を変えるなら有象無象がたかる甘い蜜を排除することである。
 その意味で参考になるのがドイツにおけるTÜV=技術検査協会の存在だ。当然のことながら技術を握り、それを操作する側が進んでネガティブ情報を公開する筈はなく、そうした不公正さを防ぎ「リスクと危険な誤用及び必要以上の財政出費を回避」するには、いずれの側からも独立し、すぐれた知識と明確な良心を持つ助言者が必要となる。それがTÜV設立の理念であった。つまりTÜVは行政や企業の紐つきではなく、すぐれた技術的識見を持った専門家の独立集団である。TÜVの出した判断については行政も企業も市民もこれを尊重するルールになっており、ネガティブ情報を含むすべての情報は行政機関を通じて公開される仕組みになっている。
 いまの日本にTÜVは望むべくもないが、スーパーバイザー(工場診断士)の導入ぐらいは検討すべきだろう。ただし環境施設の分野でその能力を持つ人材が少ないこと、採用自体をいやがる自治体が多いことも現実なのだがーーー。

                       季刊「環境施設」2006年夏号


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