ディベート甲子園フォーマットにおけるメリット・デメリットの構成要素は、プランからの「発生過程」と「重要性」であるというのは、皆さんご存知の通り。
前回までで、重要性についての論考はひとくぎりとして、今回は発生過程について考えてみよう。
メリットやデメリットの発生過程とは、端的に言って、プランの効果の連鎖反応である。連鎖反応の帰結として、ある社会現象が発生し、それが社会的にプラスであればメリットと呼び、逆にマイナスであればデメリットとなる。
ところで、私はいま、公共政策分析を生業としているのだが、分析作業のひとつに「政策評価」がある。これは「政策の効果を定性的・定量的に検証する」作業であり、実はプランの発生過程の分析そのものなのである。
換言しよう。ある社会的な問題を解決することを目的として政策が導入される。その政策介入によって:
・本当に問題が解決されたのか、効いたといえるデータはあるのか。
・解決に至るプロセスに論理上の見落としや落とし穴はないのか。
・その政策介入に不備や副作用はないか、
・介入措置に何らかの改善、あるいは代替策が考えられないか
等、さまざまな角度から政策の効果を分析、検証してみるという作業である。
ここで、練習問題といこう。薬師寺泰蔵・著、現代政治学叢書10「公共政策」(←公共政策学に関心をお持ちの方、必読文献ですよ!)から、「コネティカット・ターンパイクのスピード規制」事例を翻案して、練習問題としてお示ししよう。
【背景】
アメリカにコネティカットという州がある。そこには、コネティカット・ターンパイクという高速道路がある。この道路は、南のニューヨークと北のボストンを結ぶ幹線で、交通量も多く、当然、交通事故、とりわけ死亡事故が多発していた。
1955年、当時のリビコフ州知事は、交通事故の抑制策として、大変に評判の悪い交通規制条例をしいた。それは、一定速度以上を超えて走る車を容赦なく捕まえ、違反者に罰金、長期間の免許停止を課すものであった。
【プランとメリット】
「プラン:州内のスピード違反者に、めちゃくちゃ厳しい罰則・免許停止処分を課す」
「発生過程:プランによって、ドライバーは処分を恐れ、スピードを落とす→事故が減る→命が助かる」
「重要性:人の命は大切」
「証拠資料:この交通規制の妥当性を弁護するために、リビコフ知事は、証拠資料として統計データを示した。
条例施行前(1955年)の交通事故死亡者数・・・324名
条例施行後(1956年)の交通事故死亡者数・・・284名
知事は説明する。
「この条例のおかげで、1年間で40名の人命が助かった。12.3%の死亡者数の削減である。この条例は絶対必要である」
【ディベーター諸兄への問題】
⇒知事の説明に何か欠陥はないだろうか? このスピード規制には死亡事故防止効果があったといえるのだろうか? すなわち「処分をおそれてドライバーがスピードを落としたから、事故が減った」と、本当に言えるのだろうか?
解説編は次回。ではまた。
前回までで、重要性についての論考はひとくぎりとして、今回は発生過程について考えてみよう。
メリットやデメリットの発生過程とは、端的に言って、プランの効果の連鎖反応である。連鎖反応の帰結として、ある社会現象が発生し、それが社会的にプラスであればメリットと呼び、逆にマイナスであればデメリットとなる。
ところで、私はいま、公共政策分析を生業としているのだが、分析作業のひとつに「政策評価」がある。これは「政策の効果を定性的・定量的に検証する」作業であり、実はプランの発生過程の分析そのものなのである。
換言しよう。ある社会的な問題を解決することを目的として政策が導入される。その政策介入によって:
・本当に問題が解決されたのか、効いたといえるデータはあるのか。
・解決に至るプロセスに論理上の見落としや落とし穴はないのか。
・その政策介入に不備や副作用はないか、
・介入措置に何らかの改善、あるいは代替策が考えられないか
等、さまざまな角度から政策の効果を分析、検証してみるという作業である。
ここで、練習問題といこう。薬師寺泰蔵・著、現代政治学叢書10「公共政策」(←公共政策学に関心をお持ちの方、必読文献ですよ!)から、「コネティカット・ターンパイクのスピード規制」事例を翻案して、練習問題としてお示ししよう。
【背景】
アメリカにコネティカットという州がある。そこには、コネティカット・ターンパイクという高速道路がある。この道路は、南のニューヨークと北のボストンを結ぶ幹線で、交通量も多く、当然、交通事故、とりわけ死亡事故が多発していた。
1955年、当時のリビコフ州知事は、交通事故の抑制策として、大変に評判の悪い交通規制条例をしいた。それは、一定速度以上を超えて走る車を容赦なく捕まえ、違反者に罰金、長期間の免許停止を課すものであった。
【プランとメリット】
「プラン:州内のスピード違反者に、めちゃくちゃ厳しい罰則・免許停止処分を課す」
「発生過程:プランによって、ドライバーは処分を恐れ、スピードを落とす→事故が減る→命が助かる」
「重要性:人の命は大切」
「証拠資料:この交通規制の妥当性を弁護するために、リビコフ知事は、証拠資料として統計データを示した。
条例施行前(1955年)の交通事故死亡者数・・・324名
条例施行後(1956年)の交通事故死亡者数・・・284名
知事は説明する。
「この条例のおかげで、1年間で40名の人命が助かった。12.3%の死亡者数の削減である。この条例は絶対必要である」
【ディベーター諸兄への問題】
⇒知事の説明に何か欠陥はないだろうか? このスピード規制には死亡事故防止効果があったといえるのだろうか? すなわち「処分をおそれてドライバーがスピードを落としたから、事故が減った」と、本当に言えるのだろうか?
解説編は次回。ではまた。
おもしろくてためになる話題に感謝です。
運転する人間としては、ある結論が予想されます。
#別な証拠資料が必要な結論なのですが…(^^ゞ
続きのUPを楽しみにしています(^^)
寝る前に楽しい話題で少し気分が安らぎます。おやすみなさいです。
反論を立てる際には、もちろん証拠資料が、別途求められます。
が、今回は「反論を思いつく視点」を、応用可能な参考情報としてお示しするのが意図ですので、この事例に固有の証拠資料まではお見せしません。予めご了承ください。
知事への反論のポイントとして、おそらく予想しておられる点も入ってくると思いますが、解説との「共通点や相違点」をお楽しみ頂ければと思います。