澎湖島のニガウリ日誌

Nigauri Diary in Penghoo Islands 澎湖島のニガウリを育て、その成長過程を記録します。

「日本統治下の台湾」を読む

2009年10月18日 05時04分26秒 | 
「日本統治下の台湾~抵抗と弾圧」(許世楷著 東大出版会 1972年)を読む。台湾史を知るための必読文献とされているのだが、何十年も経ってようやく手にしたことになる。

("Formosa under the Japanese rule" by Koh Se-kai)

許世楷氏は、私が学生時代にすでに津田塾大学助教授として活躍されていた。当時、私の大学に兼任講師として来ていたはずだが、他学部科目だったので聴講できなかったことを思い出す。もっとも、当時、私が台湾史を理解できたかどうか、はなはだ疑問だが…。
周知のとおり、許氏は長らく台湾独立運動に関わり、蒋介石時代(中国国民党独裁政権時代)においては、祖国・台湾に帰国することさえ許されなかった。ようやく陳水扁総統時代になって、駐日代表(=大使)を勤め、政治家として活躍されている。

本書の構成は、次のとおり。
第1部 統治確立過程における抗日運動(1895-1902年)
 第1章 日本領有に対する阻止運動
 第2章 北部における清国への復帰運動
 第3章 中南部における抗日運動の割拠
第2部 統治確立後の政治運動(1913-1937年)
 第1章 政治運動の台頭
 第2章 統一戦線の時代
 第3章 分裂の時代
 第4章 諸団体の凋落
 
私が特に関心を持ったのは、第1部第1章。その理由は、NHKが放送した「Japanデビュー アジアの”一等国”」(2009年4月5日放送)において、「日台戦争」と名付けられた部分であるから。
同番組では、日本の台湾接収に際して台湾人による抵抗運動が起こり、1万数千人の犠牲者が出たことについて、「日台戦争」という言葉を使用した。これを見た視聴者からは「そんな用語は聞いたことがない」という抗議が殺到した。
この点について、本書ではどう書かれているのかを見ると、当然のことながら「日台戦争」などという言葉は一切使われていない。NHKディレクター・濱崎某は、番組を制作する前に果たして本書を読んだのだろうか?と思った。

台湾映画「一八九五乙未」(2008年)の中に、台湾接収を行った近衛師団・北白川宮親王が次のようにつぶやく言葉がある。「…我々は敵を甘く見ていた。これは接収ではなく戦争である」(台詞は日本語)
客家人で科挙の秀才でもあった呉湯興が率いる抗日運動を描いた映画だが、決して「反日」映画ではない。戦火の拡大を憂う北白川宮親王の心の葛藤や、医務官として同行した森鴎外の心情を描いていて、日本人が見ても心打たれる映画だ。(下記映像参照) 北白川宮が語る「戦争」という言葉は、単なる比喩として使われているに過ぎない。

わずか100年余り前の史実が、NHK・TVでは「日台戦争」と名付けられ、自国である日本を断罪する道具と化してしまった。一方、この台湾映画では、日本の台湾接収を”悪”として描かず、むしろ当時の歴史、国際環境のなかでやむをえなかった出来事として捉えているように見える。

許世楷氏の本書は、多くの史料を駆使して客観的に当時の状況を描き出している。たとえば、日本の台湾領有を否定するために清朝政府の役人によって「台湾民主国」が宣言されるが、形勢不利と見た官僚達は戦わずして大陸に逃亡してしまう。このように常に外来政権に翻弄されてきた台湾人の視点から見れば、日本統治も中共(=中国共産党)政権も国民党政権(=蒋介石政権)も”同じ穴のムジナ”に過ぎないことがよく分かる。本書の前書きには、次のような言葉がある。
『本書を いまなお虐げられているわが同胞にささげる』
これは、本書が上梓された1972年当時台湾では、蒋介石政権の「白色テロ」によって多くの台湾人が政治犯として死に追いやられていたことを示している。

本書は、台湾史を理解する基本的文献として、多くの人に読まれるべきだろう。まず真っ先に読むべきは、NHKディレクター・濱崎憲一だが。


1895電影預告片




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