昨日、テレビ朝日系列で「池上彰の学べるニュース そうだったのか! 中国と台湾」が放送された。
http://www.tv-asahi.co.jp/manaberu/bk/cur/index.html
この番組のHPでは、次のように紹介されている。
【そうだったのか!中国と台湾】
長年対立を続けてきた、中国と台湾。そんな中国と台湾が、先日経済での関係を深める、ECFA・経済協力枠組協定を結び、大きな話題となっています。
一体中国と台湾はなぜこれまで対立をしてきたのか、そしてなぜいま歩み寄りを見せてきたのか、そして日本への影響は・・・?などなど、池上彰がイチからスッキリ解説します。
台湾を巡るTV報道は、「中国はひとつ」という前提の自主規制が行われている。旅行番組や美食番組ではしばしば台湾が登場するが、政治、社会、歴史に関わる番組となると決して多くはない。その意味で、この番組が放送されたことは歓迎できる。
内容についても、25分のバラエティ番組という制約条件のなかでは、なかなかのものだった.。中国共産党、中国国民党が作り上げた、「中国はひとつ」※というフィクションを肯定しなかったこと、李登輝、陳水扁という元・前総統を採り上げて、「台湾独立」に言及したことは、高く評価できる。
※ http://blog.goo.ne.jp/torumonty_2007/e/27d19e1e8a1e730da33bd26070ed39a4
台湾に詳しい団体では、この番組をあまり評価していないようだ。(下記参照)
だが、一般の視聴者がこの番組を見て、「台湾は中国とは違うんだぁ」と思うのならば、放送された意味は十分にあるはずだ。厳密な批判や検証も必要だが、一般的視聴者の印象もまた大事なことだから…。
物足りないと思ったのは、日本統治時代の台湾について全く触れなかったこと。清国から日本への台湾割譲は、国際法に照らして何ら疑義がなかったこと、日本統治時代に台湾は急速な経済発展を遂げ、日本は台湾の近代化に大きく寄与したことを説明すべきだった。また、「二二八事件」(1947年)を採り上げれば、蒋介石の国民政府と台湾人との関係性が明らかになり、1990年代の李登輝氏による台湾民主化への歴史の流れが、容易に理解できたはずだ。
文句を言えばキリはないのだが、私としては、NHK「アジアの”一等国”」よりは遙かにまともな番組に思えた。そして、楽しめたとも言える。早速、台湾人の友人に送って見てもらおうと思っている。
(「二二八事件」(1947年)で無抵抗の台湾人を虐殺する国府軍兵士=「二二八紀念館」展示より。中華民国政権(中国国民党政権)は、二万人ともいわれる台湾人の知識・指導層を虐殺し、その後40年間、外省人(=大陸から逃亡してきた中国人)が台湾人を支配するという独裁政治をおこなった。)
【日本李登輝友の会愛知県支部ブログ~媚中に見えたが、池上彰は何者】
昨夜、愛知李登輝友の会幹事から「今、テレビが見られる状態?池上さんが、台湾と中国のことをやってるわよ」という電話。
そこで、苦手なテレビのリモコンを操作(結局、妻が操作してくれた)してみたら、テレビ朝日の「そうだったのか!池上彰の学べるニュース」と言う番組。観ていて「そうだったのか!」は「うそだったのか!」に番組名を変えるべきだと感じたのは私だけであろうか。
で、今回のタイトルは
引用始―【そうだったのか!中国と台湾】長年対立を続けてきた、中国と台湾。そんな中国と台湾が、先日経済での関係を深める、ECFA・経済協力枠組協定を結び、大きな話題となっています。
一体中国と台湾はなぜこれまで対立をしてきたのか、そしてなぜいま歩み寄りを見せてきたのか、そして日本への影響は・・・?などなど、池上彰がイチからスッキリ解説します。―引用終
彼の解説は、歴史の一面しか語っておらず、誤解を招く恐れが多分にある。
日清戦争により、清は日本へ台湾を割譲した。中華民国が清の領土を主張するなら、国際法では、その時点で台湾は中華民国の領土にならない。ついでに言えば、清は中国ではない。元と同様で漢人が、他民族に制圧された歴史だ。そして、日本は、日露戦争で満州の租借権を得た。台湾も満州も合法的であり、その後に誕生した中華民国は、清から漢民族が解放されたものだ。
池上氏は、この背景を分るように説明しておらず、孫文も出てこなかった。いきなり、蒋介石と毛沢東との争いに日本が中国大陸に入り込み、日本を相手に国共合作が行われたという、かなり乱暴な説明であり、これでは、台湾が元々中国であった印象を与え、日本が、日清戦争で得た台湾を中国が取り返したような印象を与えかねない。
また、国共合作も上っ面の話であり、共産党が、ソ連の支援を受けたのは確かだが、日中戦争においては、共産党は、国民党の消耗が狙いであり、真面目に日本と戦っていない。
敗戦により、日本は台湾を放棄するが、中国に返還などしていない。この部分を紹介せず、日中共同声明での「台湾は中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを日本は十分理解し、尊重する。」という文言を紹介している。
これもまた、「台湾が中国の一部」という印象を与えかねない。
その後、李登輝総統の誕生により民主化され、陳水偏により独立を唱えるようになり、馬英九が、中国との摩擦を避け、経済で取り残されないように訴え、圧勝した・・・と、これまた上っ面のみ言うので、ECFA・経済協力枠組協定が持つ、意味が軽視されている。
独立か?統一か?そんな単純なことではなく、中国との摩擦を避けるため、原状でよいと言う人も多くいる。と淡々と言うが、これは、本当なら「独立」と言う意味である。
中台接近がもたらす、日本への影響も淡々と経済面でさらりと語ったが、安全保障について全く触れていない。
池上氏の説明で、一番問題なのは、台湾人の立場での話が出ていないことである。蒋介石と毛沢東の対立が主体だが、台湾人にとっては、どちらも迷惑千万な中国人である。台湾と中国が長年対立してきたのは、むしろ、逃げ込んできた中国人と台湾人の対立であり、蒋介石も毛沢東も台湾人からすれば、五十歩百歩の話だ。
李登輝さんは、総統時代に「国と国との特殊な関係」と述べたように、本来、中華人民共和国が台湾領有を主張する根拠は無い。当然、法的には中華民国の領有でもない。中華民国が実効支配した事実はあるが、その国も消失した。ただ、中華民国憲法が存在し、そこに清朝時代の領土が記されていることが、中共が言いがかりをつけるのに好都合な根拠になっており、台湾人が憲法改正をしようとしたのを妨げたのは、他ならぬ中国に配慮した、日本と米国である。その姿勢が、台湾人に「原状維持」と言わざるを得ない状況を作ったのである。
池上さんよ。私は、あなたが何者か知らないが、人に何かを教える立場なら、必要な材料を提供するべきであり、それを知りながら、このような番組作りをしたならば、「媚中」と呼ばれても仕方あるまい。