はるかな日、きのう今日

毎月書いているエッセイ、身辺雑記を掲載

今月の便り(2020年2月)

2020-02-29 06:54:23 | エッセイ・身辺雑記
今月の便り(2020年2月)
 暖冬と言いながら寒い日が続きますが、立春は暖かったのですが、すぐに真冬に逆戻りなんて日が続き、積もらないまでも雪の日も。
 2月3日
 節分の日です。恵方巻き、豆、鰯と一通り揃いました。今年は西南西が恵方だそうです。お昼にはカニサラダ巻き、夜は海鮮巻きを頂き、鰯の焼き魚も。私は豆3粒ずつ各部屋から玄関、キチン、風呂場、トイレまで「鬼は外、福は内」と唱えながら置いてきました。今年も平和な年でありますように。
 2月12日
 自分史を作ろう会の例会。Nさん(最後の運転免許証)は最後の免許証を更新する日の朝の静かな心境、55年にわたる車との歴史、新しい免許証をめぐる家族との会話。最後に返納への決意と構成もよく落ち着いた筆致に感心しました。Iさん(合格発表)は子、孫の合格発表について過不足なく述べていましたが、曾孫の合格発表を聞いて思わず感涙にむせんだというエピソードにはこちらの胸にも伝わるものがありました。Aさん(囲碁の思い出⑥義父と義兄との碁)は前回までの青春時の囲碁と変わって義父や義兄との囲碁と大人の碁。Aさんが強調していたことですが、義兄の医師会の勉強会に誘われてプロ棋士の指導を受けたのですが、6目おいても「持碁」に持っていくプロのすごさを驚いたそうです。Iさん(ガラ空きの京都)は新型コロナウイルスの感染拡大をうけてガラ空きになった京都の様子、その京都での創作菓子展や御所の中にある梅園と優雅な一日を過ごしたというエッセイ。新型コロナウイルス騒動の思わぬ一面を見ました。Kさん(今年の漢字)は自分の「今年の漢字」を何しようと考え反省の「省」にすることに決め、自分を省み新しいことに興味を盛り、自分の境遇に感謝し、前を向こうと結んでいました。Nさん(いつもの東京行き)は周りの席ではパソコンを開いて仕事をしている人が多く「新幹線は通勤列車」といいう言葉を実感したといいいますが、ご自身も慌ただしい日帰りの東京往復。
 2月24日
 「お天気の良い日にね」と言っていたこの日にお雛さん飾り。お内裏さん、雪洞、菱餅などの飾りを始め、薩摩雛、小さいお守りになっているお雛様。紙や石、ガラスのお雛さん、息子が小学生の時に作った折り紙の七段飾りなどが勢ぞろい。そこに桃の枝と賑やかになりました。わが家の年中行事の一日でした。
[今月の本]
辻 邦生『西行花伝』新潮文庫。新潮社、平成31年(第15刷)
 先月に引き続き読了、787ページの達成感もあります。言葉の交響楽ともいえる豊穣な文章。高橋秀夫氏が解説で述べているとおり、歴史小説でも西行の生涯を描いた伝記でも評論でもありませんが、西行の幼児、青年期、失恋、出家、僧として歌人として生きた生涯を種々の人々が語る叙述の説得力のある物語の運びには魅せられました。読み終えて感じるのはやはり読書の喜びというものではないでしょうか。時間はかかりましたが記録に残る一冊です。

 中国武漢で発生したという新型コロナウイルスで感染者続出、死亡例も。北海道では全校休校、各種イベント、スポーツ大会も中止や延期とたいへんなことになりました。終息する日が待ち遠しいことです。私を含めどなたもコロナにとりつかれないようにしましょう。

今月のエッセイ(2020年2月)

2020-02-28 08:50:10 | エッセイ・身辺雑記
     「カメレオンの王様」
シリーズ『名著復刻日本児童文学館』(ほるぷ出版 昭和四十六年)の一冊、濱田廣介『創作童話集 大将の銅像』、實業之日本社(大正11年)より。
著者は昭和48年に亡くなった童話作家。その作品は「ひろすけ童話」と呼ばれ広く親しまれました。本書には13編が掲載されていますがアフリカの伝説を書き改めたという「カメレオンの王様」を紹介します。お話の最後はちょっと寂しいですね。以下はそのあらましです。

犬も猿も獅子も狐も、みんな一しょに住んでいた昔のことでありました。その時分には仲間の中でどんな悪事を働いても、それを裁いてそれ相当の罰を与える総大将がいませんでした。
ある日馬が言いました。「このままにしておいては世の中がだんだんわるくなるばかりだ。ひとつ王様を立てようではないか」「それがいゝ」「僕も賛成」と口々にみんなは言って、一つ場所にぞろぞろと集まりました。「獅子はいかめしくて王様らしい」と誰かが言いました。だが、狐が「いけない、いけない乱暴だから」「ほんとだぞ。今日も僕を喰おうとした」と鹿が反対しました。「では狼さんか」「だめだめ」とすぐ山羊共が反対しました。「あれは僕らの敵さ」と。
こんなことでは、いつまでたっても決まりません。何か他の方法で決めなければなりません。
みんなの集まっている場所から半里ぐらい離れた所に、一本の大そう古い木がありました。その木の下に一つの腰掛がありました。そこまでみんなが駆けっこをして、一番先にその腰掛に掛けた者が王様になるとしようということになりました。
大きい象も小さな鼠もありとあらゆる動物共がみな出発点に並びました。「一、二、三!」との合図と共に動物共はどんどん駆け出しました。だが、何といっても、兎は駆けっこの名人でありました。見るみるうちに他の者共を駆け抜いてぴょんぴょん飛んでいく・・・・・
やがて兎は腰掛の所に着いていざ掛けようとした時に、ひとつの声が聞こえました。
「おっと、おっと、いけない兎さん」
兎は大へんびっくりしました。見ると、その腰掛にいる者はカメレオンでした。カメレオンはちゃんと澄まして腰掛けに載っていました。
兎はどんなにがっかりしたことでしょう。
皆さん御存じでしょう。カメレオンという動物は身のまはりの色と同じように体の色を変えることが出来ますから駆けっこくらべの始まる前にこっそりと兎の尻尾につかまって走り出すのを待っていたのでありました。そして、兎がその腰掛に掛けようとしてくるりと後ろを向いた時に、カメレオンは手を放して、ちゃんとその腰掛に載つかったのでありました。兎は直ぐに「こら退かないか!」とどなりました。カメレオンはしっかりとその腰掛にしがみ付いて離れません。そのうちに動物共が駆け付けました。約束どほり王様はカメレオンと決まりました。
だが、誰ひとりその王様に満足したものはいませんでした。それと決まらない間に、猿はいなくなりました。獅子も虎も狼も狐もいなくなりました。もぐらまでのそのそと何処かへ行ってしましました。
ひとりぼっちで取り残されてカメレオンは恥ずかしくてなりません。ついには誰もいない山の上の一番高い樹にてっぺんに家を造ってたった独りで住むことにしました。
でも、夜中になるとカメレオンは何処かへ散り散りに逃げてしまった家来共を思い出しました。そして早く自分の所に戻って来てくれと、寂しい声で呼びました。だが誰ひとり戻って来ません。カメレオンは、いつまでも独りぼっちでありました。
家来を持たない王様は、王様ではありません。
2020年2月