加藤周一『日本文学史序説(上、下)』、筑摩書房昭和55年
昔読んだ本のうち、読み応えのあった本をもう一度読んでみようと取り出した本です。30年前の本ですが、当時、サラリーマンだった私はどんな時間にこの厚い本を読んだのでしょうか。現在、私は再読中ですが、今月の本として書きました。ただ、本書の内容を紹介することなどとてもできないことなので、序章に相当する「日本文学の特徴について」からほんの少しだけ拾い上げてみます。
西洋語の文学の起源は14,5世紀までさかのぼらなければならないが、日本の文学の歴史は古く、その起源は8世紀までさかのぼれる。また、「一時代に有力になった表現形式は次の時代にうけつがれ、新しい形式に置き換えられることはなかった」(例えば8世紀の短歌、17世紀以来の俳句)。劇の形式でも15世紀以来の能・狂言、17世紀以来の人形浄瑠璃、歌舞伎のどれも消え去ったものはない。さらに、摂関時代の「もののあはれ」、鎌倉時代の「幽玄」、室町時代の「わび」「さび」、徳川時代の「粋」はそれぞれ、歌人の「あはれ」、能役者の「幽玄」、茶人の「わび」「さび」、芸者の「粋」と次の時代にひきつがれている。そして、著者は伝統的な形式が何世紀にもわたって保存されてきたことは、新形式の導入を容易にしたようであるとし、今日なお日本社会の極端な保守主義(天皇制、美的趣味、仲間意識など)と極端な新しいもの好き(新しい技術の採用、耐久消費財の新型、外来語を主とする新語の乱造など)とは、おそらく楯の両面であって、日本文化の発展の型を反映しているとしている。
日本に表現の方法がなかった5,6世紀、「古事記」と「万葉集」には中国南方の発音が、「日本書紀」には北方音が採用されたといい、7~19世紀の文学には日本語の文学と中国語の詩文があるという特徴がある。また、全体よりも細部に重きがおかれ、源氏物語は「部分の描写は全体のためには十分だが、必ずしも必要でない」とされ、歌舞伎においても「全曲が互いにほとんど独立した挿話と場面の連続から成り、その全体を一貫するすじには大きな意味はない」のである。
先に書いたように現在進行中ですが、理路整然とした論評、驚くべき博覧強記、各作品に対するはっきりした評価、びっくりするようなエピソード等々、本書は決して平易な本とはいえませんが、読み出すと、次の時代での展開はどのようになるかなどと閉じるのが惜しいような気さえします。なお、来月もこの続きを書くつもりです。
昔読んだ本のうち、読み応えのあった本をもう一度読んでみようと取り出した本です。30年前の本ですが、当時、サラリーマンだった私はどんな時間にこの厚い本を読んだのでしょうか。現在、私は再読中ですが、今月の本として書きました。ただ、本書の内容を紹介することなどとてもできないことなので、序章に相当する「日本文学の特徴について」からほんの少しだけ拾い上げてみます。
西洋語の文学の起源は14,5世紀までさかのぼらなければならないが、日本の文学の歴史は古く、その起源は8世紀までさかのぼれる。また、「一時代に有力になった表現形式は次の時代にうけつがれ、新しい形式に置き換えられることはなかった」(例えば8世紀の短歌、17世紀以来の俳句)。劇の形式でも15世紀以来の能・狂言、17世紀以来の人形浄瑠璃、歌舞伎のどれも消え去ったものはない。さらに、摂関時代の「もののあはれ」、鎌倉時代の「幽玄」、室町時代の「わび」「さび」、徳川時代の「粋」はそれぞれ、歌人の「あはれ」、能役者の「幽玄」、茶人の「わび」「さび」、芸者の「粋」と次の時代にひきつがれている。そして、著者は伝統的な形式が何世紀にもわたって保存されてきたことは、新形式の導入を容易にしたようであるとし、今日なお日本社会の極端な保守主義(天皇制、美的趣味、仲間意識など)と極端な新しいもの好き(新しい技術の採用、耐久消費財の新型、外来語を主とする新語の乱造など)とは、おそらく楯の両面であって、日本文化の発展の型を反映しているとしている。
日本に表現の方法がなかった5,6世紀、「古事記」と「万葉集」には中国南方の発音が、「日本書紀」には北方音が採用されたといい、7~19世紀の文学には日本語の文学と中国語の詩文があるという特徴がある。また、全体よりも細部に重きがおかれ、源氏物語は「部分の描写は全体のためには十分だが、必ずしも必要でない」とされ、歌舞伎においても「全曲が互いにほとんど独立した挿話と場面の連続から成り、その全体を一貫するすじには大きな意味はない」のである。
先に書いたように現在進行中ですが、理路整然とした論評、驚くべき博覧強記、各作品に対するはっきりした評価、びっくりするようなエピソード等々、本書は決して平易な本とはいえませんが、読み出すと、次の時代での展開はどのようになるかなどと閉じるのが惜しいような気さえします。なお、来月もこの続きを書くつもりです。