Mike Morwood マイク・モーウッド Penny van Oosterzeeペニー・ヴァン・オオステルチイ【著】馬場悠男【監訳】仲村明子【翻訳】『ホモ・フロレシエンシス 1万2000年前に消えた人類(上)(下)』NHKブックス 1112~1113、日本放送出版協会2008年
本書はインドネシアのフローレンス島で発見された新種の人類、ホモ・フロレシエンシス、通称ホビットの物語である。ホビットは身長1メートル、脳の容積は400ミリリットルしかないのに石器を作り、縄文時代と同じ1万2000年前まで生きていたわれわれには遠縁の人類である。読み始めると、次々と現れる問題と解決はスリルに満ちていて楽しく読み進められ、最初の部分の発掘に当たる現地の人々が、目的を理解し、様々な工夫を凝らす様子には感心した。賃金の話も出てくるが、高くても低くても協力を得られないというのも興味深い。また、発掘現場の崩落などの危険、発掘方法の工夫、骨などの選別、年代測定など専門家の協力が大きかったようだ。
その後、科学論争の基礎知識はじめ人類の進化について詳しく述べられていて、少々戸惑ったが、これについて馬場氏が「解説」の章で説明してくれている。
そして問題の骨は発見された。そして、その特徴の分析、ホモ属かアウストラピクテス属(猿人)かなどの見極め、傍証固めなどの後、権威のある「ネイチャー」に投稿することが決定される。
発見が公表されると、大騒ぎになり9万8000のウエブサイトに書かれ、およそ7000の新聞に見出しになり、テレビの取材が殺到した。一方、この骨は小頭症の現生人類であるとの反論が持ち出され、今も論争が続いているという。また、反対する陣営にこの人骨が奪われるという事件も生じ、返却はされたが、ひどく損傷されていた。
下巻の「解説」の中に「人類進化という大きな謎を追い求める調査・研究の中で生臭い人間ドラマが展開されていたことに、ついつい引き込まれ・・・・・」とあるが、学問の世界、学会という世界の一面について触れられたような気がするのも確かである。
マイク・モーウッドはホモ・フロレシエンシスを発見したオーストラリア・ウーロンゴン大学の教授、ペニー・ヴァン・オオステルチイはサイエンスライター、監訳に当たった馬場悠男氏は国立科学博物館人類研究部部長である。
奈良貴史『ネアンデルタール人類のなぞ』岩波ジュニア新書、岩波書店2003年
上の「ホモ・フロレシエンシス」のほかに3万年前まで現世人類と同じ地域で暮らしていた人類がいたのは知っていたので、この際に読んでおこう、それには簡単なのがよかろうと選んだ本。ところが、その内容の豊富でレベルの高いのに一驚。岩波新書のフアンになってしまった。
著者は「何百万年も前の猿人から江戸時代の人骨まで、あらゆる時代の出土人骨をもちいて人類の進化、生活、病気、寿命などの、あらゆる歴史を生物学を基礎とした自然史学的手法と歴史学の一分野である考古学的手法の双方から再現することを「考古人類学」とよんでいる。
本書はこの考えにしたがうように書かれている。最初に出土した骨格と現世人類の骨格の違いからネアンデルタール人類の特徴を調べ、彼らは20万年前から3万年前までこの地球に生存していたと結論付けられている。彼らは主に洞穴に暮らし、大いに火を使い、動物の肉を食べていたようであるが、マンモスのような大型動物は食べていない。また、石器を作る技術をもち、木製の槍も発見されている。ネアンデルタール人類が暮らしていた時代は寒く、皮なめしの石器が見つかっているところから、毛皮をまとっていたのかもしれないとされている。言語はあったかどうか分かっていないが、仲間を埋葬する文化はあり、人骨とともに花粉のかたまりが発見されていて、死んだ仲間に花を捧げるやさしい心の持ち主だったようだ。どのような病気があったかは推測するしかないが、骨折のあとは数多く発見されている、そして、彼らは35歳くらいに死んでいたと思われる。このようなネアンデルタール人類は現世人類と同じ時代に、同じところに住んでいたが、なぜ消滅したのかは謎として残っているといるそうだ。面白い本であった。
本書はインドネシアのフローレンス島で発見された新種の人類、ホモ・フロレシエンシス、通称ホビットの物語である。ホビットは身長1メートル、脳の容積は400ミリリットルしかないのに石器を作り、縄文時代と同じ1万2000年前まで生きていたわれわれには遠縁の人類である。読み始めると、次々と現れる問題と解決はスリルに満ちていて楽しく読み進められ、最初の部分の発掘に当たる現地の人々が、目的を理解し、様々な工夫を凝らす様子には感心した。賃金の話も出てくるが、高くても低くても協力を得られないというのも興味深い。また、発掘現場の崩落などの危険、発掘方法の工夫、骨などの選別、年代測定など専門家の協力が大きかったようだ。
その後、科学論争の基礎知識はじめ人類の進化について詳しく述べられていて、少々戸惑ったが、これについて馬場氏が「解説」の章で説明してくれている。
そして問題の骨は発見された。そして、その特徴の分析、ホモ属かアウストラピクテス属(猿人)かなどの見極め、傍証固めなどの後、権威のある「ネイチャー」に投稿することが決定される。
発見が公表されると、大騒ぎになり9万8000のウエブサイトに書かれ、およそ7000の新聞に見出しになり、テレビの取材が殺到した。一方、この骨は小頭症の現生人類であるとの反論が持ち出され、今も論争が続いているという。また、反対する陣営にこの人骨が奪われるという事件も生じ、返却はされたが、ひどく損傷されていた。
下巻の「解説」の中に「人類進化という大きな謎を追い求める調査・研究の中で生臭い人間ドラマが展開されていたことに、ついつい引き込まれ・・・・・」とあるが、学問の世界、学会という世界の一面について触れられたような気がするのも確かである。
マイク・モーウッドはホモ・フロレシエンシスを発見したオーストラリア・ウーロンゴン大学の教授、ペニー・ヴァン・オオステルチイはサイエンスライター、監訳に当たった馬場悠男氏は国立科学博物館人類研究部部長である。
奈良貴史『ネアンデルタール人類のなぞ』岩波ジュニア新書、岩波書店2003年
上の「ホモ・フロレシエンシス」のほかに3万年前まで現世人類と同じ地域で暮らしていた人類がいたのは知っていたので、この際に読んでおこう、それには簡単なのがよかろうと選んだ本。ところが、その内容の豊富でレベルの高いのに一驚。岩波新書のフアンになってしまった。
著者は「何百万年も前の猿人から江戸時代の人骨まで、あらゆる時代の出土人骨をもちいて人類の進化、生活、病気、寿命などの、あらゆる歴史を生物学を基礎とした自然史学的手法と歴史学の一分野である考古学的手法の双方から再現することを「考古人類学」とよんでいる。
本書はこの考えにしたがうように書かれている。最初に出土した骨格と現世人類の骨格の違いからネアンデルタール人類の特徴を調べ、彼らは20万年前から3万年前までこの地球に生存していたと結論付けられている。彼らは主に洞穴に暮らし、大いに火を使い、動物の肉を食べていたようであるが、マンモスのような大型動物は食べていない。また、石器を作る技術をもち、木製の槍も発見されている。ネアンデルタール人類が暮らしていた時代は寒く、皮なめしの石器が見つかっているところから、毛皮をまとっていたのかもしれないとされている。言語はあったかどうか分かっていないが、仲間を埋葬する文化はあり、人骨とともに花粉のかたまりが発見されていて、死んだ仲間に花を捧げるやさしい心の持ち主だったようだ。どのような病気があったかは推測するしかないが、骨折のあとは数多く発見されている、そして、彼らは35歳くらいに死んでいたと思われる。このようなネアンデルタール人類は現世人類と同じ時代に、同じところに住んでいたが、なぜ消滅したのかは謎として残っているといるそうだ。面白い本であった。