真田徹は、自死を一度も想ったことがなかった。
それは二人の伯父が、自死したことに起因していたのだろう。
一人の伯父は、あろうことか、結婚式の宴席から逃げ出しての自死であったのだ。
あの日、多くの親族や知人、友人たちは、新郎が席に戻って来ないことに、大いに戸惑ったであろう。
それは群馬県利根郡薄根村の新郎宅の座敷での結婚式の最中の出来事であった。
「新郎が、便所に行ったのにしては、長いな」晩酌役の小学校校長の木村幸助が不信を募らせる。
父親の群治は苛立ちを募らせ、3人の使用人を呼び寄せ「お前たち、一郎を探しに行け」命じた。
だが、1時間たっても、新郎の消息は明らかにならなかったのだ。
新婦である由紀子は、高島田を揺らして泣き崩れていた。
心の優しい新郎の母親貞子が、無言で新婦を抱きかかえていた。
「お母さん、わたしは、どうしたらいいの」新婦は溢れた涙で新郎の空席に目を注いでいた。
結局、新郎は自宅そばの林の中の木に和服の帯で、首を括り付け自死したのであった。
翌日、祝儀は葬儀となってしまう。
そして、もう一人の伯父は、末期の胃がんを悲観して、大量の農薬を飲んでの自死であった。
「人は、なぜ自らの死を選ぶにか?」3度目めの失恋した真田徹は、<開き直り人生>の立場で想ってみた。
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