創作 人間の相性 4)

2024年09月17日 03時46分58秒 | 創作欄

足立幸雄は、失恋した。

叶わぬ恋であった。

幸雄はその日、他に客の居ないので、熱い思いを告げた。

「付き合ってくれますか」

「私、結婚しているのよ」相手は冷たい視線を彼に向けるのだ。

幸雄が通い詰めていた水道橋のバー「秋」は、ママの秋子と妹の由紀子の店であった。

時々、店に男性が手伝いに来ていたが、その人が由紀子の夫だったのだ。

「あんな、可愛い子に男が当然いるよね」気落ちした幸雄は、店を変えて独り酒を飲む。

そして、ドイツへ仕事で向かう。

その途次に、歯科衛生士の山形佐知子と出会う。

同じ、旅行ツアーであった。

フランスのパリでの散策。

まさに芸術の都だった。

その街に日本の三越デパートがあったのだ。

オペラ座で山形佐知子と席に並んでオペラを鑑賞した。

「私、声楽を学んだ時期もあったの」

「そうですか」

ルーブル美術館では、彼女は何度も立ち止まり絵画に見入っていた。

幸雄は、絵画の多くを流し目て観ていた。

そして、二人はモンマルトルの丘へ向かう。

路頭に居る画家たちが、自ら描いた絵を旅行客たちに執拗に売り込むのだ。

幸雄はそのことに、うんざりして嫌な気分となるが、佐知子は笑顔でいなす。

彼は、その姿に好意を抱く。

「この人は、包容力のある人なんだ」と彼女の横顔に魅入る。

「私、絵も描いていたのよ」微笑む笑顔に彼は惚れこむ。

「そうですか」彼は自分の言葉の貧しさを意識する。

「この旅が、ずっと続けばいいのにね」彼女が複雑な表情する。

「パリには、何度も来たいですね」

「ようよね。できれば、あなたと一緒に・・・」

佐知子は、そのあと、自分が既婚者であることを彼に告げたのだ。

 

 

 

 

 

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