40代に読んだビジネス書に《一万時間の法則》というのがありました。ある分野のエキスパートになるには1万時間の練習・努力・勉強が必要だという理論。
一日1時間で約30年。
毎日8時間週5日で5年。
「一廉」、「達者」、と呼ばれるまでには、計り知れない努力が必要ですが、それを数値化したのは、いかにもプラグマティックで、わかりやすい。
それに沿って振り返ってみれば、本格的に絵と笛を再開して間も無く10年。週3回毎回3時間として5,000時間。このままならあと10年。ピッチを倍に上げても5年。果たして余命が足りるか?
待てよ。かの世阿弥は『風姿花伝』で年代別の奥義伝習の極意を解きましたが、それはオギャーと生まれた時から芸を極めることが定められていた〈一子相伝〉の世のこと。食う寝る憩う以外はひたすら芸に打ち込む運命。生まれ育ちに関わらず、誰でもいつでも何でも始められる民主主義の世では、思い立ったが吉日。「もうやめた!」と諦めなければ、いつかは〈自家薬籠中〉とすることも不可能ではありません。
この先は〈好きこそものの上手なれ〉と信じて、我流 =《久世樹流》を貫きます。
(ヒントby 西平直『世阿弥の稽古哲学』)