くせじゅ文庫

久世樹(Que sais-je?)の画文集です。

《春宵直千金》

2024-03-29 23:56:00 | 作品
〈寒々と馬酔木の花の白々と〉【久世樹】

 あと一日で四月、学校も会社も新年度ですね。進級も転勤も最早縁の無い吾人は、可憐な花でも愛でながら、使い古しの湯呑に熱燗を注いで、春宵一刻直千金を過ごしましょう。

咲き初めた馬酔木(アセビ)

満開の季(スモモ)

使い古しの湯呑(ぐい呑み)


《富嶽遠望(大観山)》

2024-03-22 10:18:00 | 作品
我がお絵描き人生後半最初の一里塚となった8年前の作品を、もう一度ご披露します。

 マイナス10℃の箱根外輪山でスケッチするなど、今思えば無謀な振る舞いでしたが、雪が溶けるまでの半年間通って、太宰治が『富嶽百景』の冒頭で、「北斎の三十度、広重の八十五度は誇張し過ぎ、陸軍の実測図では百二十度」と指摘していたのを、しかと確かめながら画き貯めた20枚のスケッチを基に、ひと夏かけて描いたのが本作でした。

 2HとHBの鉛筆で下絵を2週間、色水のように薄めた透明水彩絵具を乾いては乗せ乾いては乗せを繰り返すこと2週間。振り返って、よくぞこれほどの根気が自分にあったものだと、アトランタ五輪の有森裕子さんの心境に共感しばしです。

《富嶽遠望(大観山)》 鉛筆と水彩 P20号 2016年





《波跡》のための習作3点

2024-03-21 10:33:00 | 作品
先の20号の油彩画《波跡》のために描いた習作3点です。

 描きながら、若き日に外房の海で戯れに詠んだこんな短歌を想い出していました。半世紀を経て甦った”心象風景”です。

〈海と空と睦みて溶け合う闇夜さへ永遠(とこしな)へ散る独り白浪〉【久世樹】1970年


《波跡》のための習作① F6 油彩

《波跡》のための習作② P4 油彩

《波跡》のための習作③ SM 油彩


《波跡》

2024-03-20 09:20:00 | 作品
 絶え間なく生まれて消える波をどう描くか、技倆不足もあって長い間描きあぐねていました。始めの頃は、勇壮に立ち上がっては崩れる白波ばかりに目を奪われていましたが、やがて最盛期を過ぎて無数の泡となり、最後は音も無く砂に消えてゆく波の潔さに心惹かれ、その誕生から終焉までを一枚の画面に描いてみようと思い立ちました。以来、四季折々、朝昼夕、海辺へ散歩スケッチに通い続け、ようやく気負わずに描きたいように描けば良いと吹っ切れて、2年振りにキャンバスに向き合い、2週間で仕上げました。見えたままの景色ではなく、瞳の奥に焼き付いた〈海よ、俺の海よ♪〉です。題して《波跡(なみあと)》、“浪跡”(ろうせき≒彷徨い歩き)もしくは”狼藉”(ろうぜき≒描き散らし)とご笑覧ください。