母から電話があった。
調子の悪い老猫カコの容態をひとしきり話した後、母がこう切り出した。
「ねえ昨日の結果どう思う?私はこれからの日本が心配だ。」と。
兵隊にいって帰らぬ人となった兄、雨のように注ぐ機銃掃射をかいくぐって逃げた夏の日、
まつ毛にかかる火の粉を払いながらB29の火を消した燃える夜。
母は戦争の怖さを知っている。母は言う、「戦争が始まれば国は国民を守ってくれない。」
絶対にはじめてはいけない戦争がはじまることが、母は心配なのだ。
それからこんなことも言っていた。
「小選挙区と比例区、重複立候補のことがよくわからなくて失敗した。
もっと小選挙区マジックを勉強しておかなくてはいけなかった。」と。
もうすぐ90にも手が届こうかという真っ白い頭の母は、強い意志をもって選挙に行く。
*
私は母とは違う。 どちらかと言えば小心者だから選挙に行く。
戦争も原発も、その行方を人に委ねて傍観する勇気は私にはないもの。
家族の未来を託す人は、自分で選ばないと心配だもの。
たとえ結果は思うものでなくても、自分で未来を選ぶことが私には大切なのだ。
昨晩そろそろ投票所が閉まろうかという頃、空には見事な三日月が浮かんでいた。
とにもかくにも一票を投じた。
*
多数決なんだから、結果は受け入れないといけない。 原発依存を選択した以上、
放射性のごみを自分のところに捨てさせない なんていうわがままは通らない。
軍を持つ以上、自分の納めた税金が人を殺す武器になることは否めない。
この選挙は、そういうことなんじゃないかなと 私は思う。